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Fランクダンジョンの平和な日常〜ダンジョンコアになって十数年いろんなことがありました〜  作者: 弌黑流人
【第一部】 第四章 マグマ下の秘密と火竜の育成計画

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第48話 忍び寄る「審美眼」と、抜き打ちの宿泊テスト。

 観光地として名声を確立しつつある『火熱の迷宮』。だが、慢心は最大の敵だ。


 そんな中、俺の感知網が「明らかにただ者ではない二人組」を捉えた。一人は、隙のない所作が体に染み付いた初老の男。かつて当迷宮を訪れ、マスターポリッシュの腕を見込んでスカウトしていった、あの王都の凄腕執事だ。そしてもう一人は、質素な旅装を纏ってはいるが、隠しきれない高貴な覇気を放つ端正な壮年男性。


 (フム。あの執事がわざわざ付き添う相手……おそらくはマスターポリッシュが今仕えている屋敷の主、公爵本人だろうな)


 「旦那様、ここが例の迷宮です。巷では『ととのい』なる妙な評判が流れておりますが……」

 「ふむ。私の教育係マスターポリッシュを奪い返したくなるほどの価値があるか、この私の目で直々に確かめさせてもらおう」


 潜入による「抜き打ちテスト」の開始だった。


 フロントで二人を迎えたのは、リナの教官魂を継承した新人ガイドのテオだった。


 公爵は、わざと気難しそうな表情を作り、テオに無理難題を突きつける。


 「おい。私は静かな環境を求めてきたのだ。もし隣の部屋が騒がしかったり、床に埃一つでも落ちていたら、即座に立ち去らせてもらうぞ」


 普通の若者なら気圧されるほどの威圧感。だが、テオは動じなかった。


 「畏まりました。お客様。当迷宮では、すべてのお客様に『自分だけの安寧』を提供することを最優先としております。お部屋の防音、そして清潔さについては、どうぞその目でお確かめください。もしご不満があれば、私がお命……いえ、誠心誠意対応させていただきます」


 一瞬、リナ教官の「殺気」が混じりかけたが、テオは完璧な礼法で二人を客室へと誘導した。


 執事が横目でテオの歩き方を確認し、微かに頷く。


 一行が客室に入った瞬間、執事は真っ先に指で家具の「縁」を撫で、ベッドの下を覗き込んだ。


 「……ほう」


 そこには、ホコリ一つどころか、空気のよどみすら存在しなかった。客が部屋に入る直前、コーナー・ポリッシュが死角を、エッジ・ポリッシュが家具の端を、ブライト・ポリッシュが床を、そしてミスト・ポリッシュが湿度の微調整を完了させていたからだ。


 「旦那様、これほどまでの管理……。マスターポリッシュが不在でありながら、我が屋敷と同等、あるいはそれ以上の水準を維持しております」


 執事の驚きの言葉に、公爵の眉がぴくりと動く。


 「技術だけではない。この部屋の『配置』、そしてアロマの配合……。ただ綺麗にするだけでなく、客の疲労を計算して空間を構築している。これはもはや、清掃の域を超えた芸術だな」


 (フム。王都の最高峰を知る者にそう言わせるとは、四人衆も師匠の名に恥じぬ働きを見せてくれたようだな)


 夕刻、二人は『ナイトサウナ』へと向かった。


 公爵は最初、サウナという文化を「平民の蒸し風呂だろう」と侮っていた。だが、アムネが演出する地下湖の煌めきと、イグニスが提供する地脈の柔らかな熱波に包まれると、その強固なプライドが目に見えて溶け出し始めた。


 「……どうしたことだ。王都の喧騒、政務の重圧……。それらすべてが、汗と共に流れ出していくようだ」


 水風呂を堪能し、幻想的な光を放つ『幻想の花園』で外気浴を行う公爵。


 リクライニングチェアに深く沈み込み、彼はついに、その厳しい表情を崩して深く長い溜息を吐いた。


 「……執事よ。私は今まで、贅を尽くした暮らしこそが至高だと思っていた。だが、この迷宮にあるのは、贅沢を超えた『解放』だ。……認めよう。ここには、王宮ですら得られない安寧がある」


 翌朝、チェックアウトの際、公爵はテオに向かって一枚の金貨ではなく、自身の紋章が入った「推薦状」を無言で手渡した。


 「素晴らしいもてなしだった。いずれ、我が友人たちにもここを教えることになろう」


 (フム。王都の重鎮をリピーターにしたか。これは風評被害どころか、とんでもない後ろ盾を手に入れてしまったな)


 二人が去った後、俺のもとには、高潔な精神が完全にリラックスしたことで生まれた、これまでにないほど澄み切ったEXPが届いた。


 抜き打ちテストは見事に満点で合格。わが迷宮の「品格」は、王都の貴族階級にまでその名を轟かせようとしていた。


 一方で、フロントの隅では、転売屋ザックが公爵の使った「使い捨てスリッパ(サイン入り)」を、オークションにかけようと企んでいた。


 (やれやれ。どんなに高貴な客が来ても、ザックの『強欲』というシミだけは、ポリッシュ四人衆でも落とせないようだな)


 俺は、去っていく公爵の馬車を見送りながら、さらなる迷宮の発展に向け、満足感と共にコアを明滅させた。


 ご拝読ありがとうございます。抜き打ちと言えど、普段通りすれば何の問題も起こらんのです。接客に向いてなかった私には憧れのプロフェッショナルを意識してみました。いよいよ次は、第四章のクライマックス前、第49話。隣国や近隣都市への広報活動と、いよいよ「あの男(風評被害の首謀者)」の影がチラつき始める……?次回も乞うご期待!!

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