第40話 迷宮遠足と、小さな「守護神」のひょっこり散歩。
今日は、街の小学校の子供たちが待ちに待った「迷宮社会科見学」の日だ。
かつては「近づいてはいけない場所」だったこの迷宮も、今や子供たちの憧れの冒険スポットへと様変わりしている。
「みんな、列を乱さないでね!今日は特別に、コア様が作った『アドベンチャー・スタンプラリー』に挑戦するわよ!」
ガイド役のリナが、子供たちを引率して迷宮に入る。
俺は、子供たちの安全を最優先し、一部のエリアを完全に「キッズモード」に切り替えていた。
落とし穴: 落ちるとフワフワのクッション(スライムの脱皮殻)で跳ね返るトランポリン。
矢の罠: 飛んでくるのはスポンジ製の矢で、当たると「当たり!」と音が鳴る。
子供たちは歓声を上げ、迷宮内を走り回っている。その様子から流れ込んでくるのは、キラキラとした純粋な「遊びのEXP」だ。実に効率がいい。
その頃、地下のマグマ溜まりでは、火竜の幼体「キュイ」が退屈を持て余していた。
守り役のイグニスは、「ふわぁ……。ガキどもが上で騒がしいな……」と、いつものように微睡んでいる。
キュイは、地上から聞こえてくる子供たちの楽しそうな声と、どこからか漂ってくる『火竜のたまご焼き(風)』の甘い香りに誘われてしまった。
「キュイッ? キュイイッ!」
キュイは、俺が地熱を送るために使っている、細い「換気ダクト(魔力パイプ)」へと、その小さな体を器用に滑り込ませた。
子供たちが広場でお弁当を食べていた、その時だった。
広場の隅にある、装飾用の小さな噴水口(お湯が出るタイプ)から、真っ赤なトカゲのような生き物が「スポン!」と飛び出した。
「キュイッ!?」
勢い余って芝生の上に転がったキュイを見て、周囲の大人たちは凍りついた。
(「しまっ……!」 俺は内心で叫んだ。火竜の幼体はトップシークレットだ。ここでバレるわけには――!)
しかし、恐怖で逃げ出す大人たちを余所に、子供たちは目を輝かせて駆け寄った。
「わあ! 見て! 新しいモンスター? すごい、ピカピカしてる!」
「かわいい! お目々がクリクリだよ!」
キュイは、自分よりも少し大きな生き物(子供たち)に囲まれて一瞬驚いたが、すぐに自慢の尻尾をパタパタと振って愛想を振りまき始めた。子供たちの無邪気な好奇心に、キュイの野生の警戒心はあっさりと溶けてしまったのだ。
慌てて駆けつけたアムネが、俺の指示を受けて機転を利かせた。
「みんな、驚かないで! この子は……えーっと、『迷宮の秘密の公式マスコット』のキュイちゃんだよ! 今日は特別にみんなに会いに来てくれたんだって!」
「ええーっ! すごい! コア様、ありがとう!」
子供たちは大喜びで、お弁当の卵焼き(火竜のたまご焼き風)を少しだけキュイにお裾分けした。
キュイはそれを「パクッ!」と食べ、満足そうに鼻からポッと小さな煙を吐き出した。その仕草に、子供たちはまたもや大歓声だ。
結局、キュイは数時間ほど子供たちと一緒に遊び、満足げにダクトへ戻っていった。
この「公式マスコット(?)遭遇事件」を、入り口で聞きつけた転売屋ザックは、即座に動いた。
「おい、アムネ! 今の生き物の特徴を詳しく教えろ! 『火竜の幼体・キュイちゃんぬいぐるみ(限定版)』を明日までに発注する! これは売れるぞ……街の子供全員が欲しがる!」
(フム。正体がバレるどころか、公式マスコットとして定着してしまったか。火竜という事実は隠しつつ、人気者になるなら、それもまた安寧の一助となるだろう)
俺は、地下に戻ってイグニスに説教されているキュイを眺めながら、次の限定グッズのロイヤリティをザックからいくら徴収するか、計算を始めるのだった。
ご拝読ありがとうございます。コア様がロイヤリティに味をしめだしたところで、次回、観光名所ゆえの苦労話を盛り込んでみようかと思います。それでは次回もお楽しみに!!




