第38話 新名物「火竜のたまご焼き(風)」と、地下のやんちゃ坊主。
ダンジョンが「保養地」として公認されてから数日。
俺のコアルーム近くに設置された休憩スペースは、冒険者と街の住人が入り混じり、これまでにない賑わいを見せていた。
「コア様、最近の余剰EXPを火竜の幼体に流している影響で、地下の温度管理がすごく安定してるわ!」
精霊アムネが、浮遊しながら俺のクリスタルに報告してくる。
そう、火竜の幼体にEXPを与えることで、彼は「熱の吸収源」として機能し始めたのだ。その結果、地熱が極めて一定に保たれる『究極の低温調理エリア』が偶然にも誕生した。
俺はそれを利用し、新しいサービスを思いついた。
リナに命じて、街から新鮮な卵とミルク、そして蜂蜜を運び込ませたのだ。
新名物「火竜のたまご焼き(風)」
「さあ、焼き上がったわよ!」
リナが取り出したのは、地熱でじっくりと数時間かけて焼き上げた、黄金色のケーキのような厚焼き卵――通称『火竜のたまご焼き(風)』だ。
あくまで洒落のつもりで名付けているが、バレた時の予防線になるからとリナが命名した。このダンジョン地下に火竜がいることを知っているのは、コアである俺と精霊アムネに、リナとバルカス爺さんだけだ。バレたら保養地のお墨付きが取り消される騒ぎじゃ済まないだろうし…、火竜がこの街とダンジョンの守り神になれるよう育成するためにも、良質なEXPを与えていこう。
地熱による絶妙な火加減は、表面はキャラメリゼされたように香ばしく、中はプリンのようにプルプルで濃厚。一口食べれば、口の中でとろけるような甘さが広がる。
「なんだい、この贅沢な味は……!」
「卵焼きの概念が変わるわねぇ」
休憩中の老冒険者も、遠足に来た子供たちも、この新名物に夢中になった。
実はこれ、俺が火竜の幼体に与えている「魔力」が、熱を介して隠し味として微量に混ざっているのだ。栄養価も高く、「食べると元気が出る」と瞬く間に評判になった。
一方、その「熱源」である地下のマグマ溜まりでは、火の精霊イグニスが、少し困った顔をしていた。
「おーい、コア。このチビ、最近元気すぎて困るんだわ。ほら、見てみろよ」
俺が監視カメラ(魔力感知)を向けると、そこには、体長1メートルほどに成長した火竜の幼体が、マグマの中で楽しそうに跳ね回っていた。
「キュイッ! キュイッ!」
幼体は、俺が流し込むEXPをパクパクと食べては、嬉しそうに尻尾を振っている。
あまりに元気が良すぎて、時折マグマを跳ね飛ばし、地底の岩壁に「ドシン!」とぶつかって遊んでいる。その振動が、たまにダンジョン全体に「トントン」と心地よいリズムとして伝わってくるのだ。
「あら、今の音なに?」と不思議がる観光客に対し、リナが「あ、これはダンジョンの精霊さんが太鼓を叩いているんですよ」と機転を利かせた説明をしていた。
この新スイーツと、「精霊の太鼓(幼体の遊び)」の噂は、瞬く間に隣の街まで広まった。
転売屋ザックは、「火竜のたまご焼き」を包む専用の紙箱を、俺に無許可で(後でしっかりマージンを取ったが)大量生産し、『観光名所:火熱の迷宮・限定土産』というシールを貼って売りまくっている。
(フム。まさか、火竜の幼体が『調理器具』兼『打楽器奏者』として機能するとはな。だが、これでいい。この平和なリズムこそが、俺が求めていた安寧だ)
俺は、たまご焼きの香りが漂うダンジョン内で、EXPが「平和な形」で循環していくのを、満足げに眺めていた。
ご拝読ありがとうございます。玉子焼き美味しそう。どんな味なんだ。うらやましい…、などと思いながら、他にもアトラクションやら何か恒例の催しがあってもいいかもですね。追々やっていくとして、次回は、『メンタルカウンセリング』のお話です。ダンジョンが「癒やしの聖地」としてさらに深まっていく展開となります。それでは次回もお楽しみに!!




