第37話 保養地宣言と、初めての一般客。
大規模な地殻変動や王族の暗殺未遂事件、三迷宮同時発生の三連モンスターパレードという大きな嵐が去り、街にはこれまでにない穏やかな空気が流れていた。
地脈の異変も収まり、街へ戻った住民たちは、自分たちの街と命を救ってくれたFランクダンジョン『火熱の迷宮』に対し、畏怖を超えた「親愛」の情を抱き始めていた。
元王国騎士団のバルカス爺さんは、この機を逃さなかった。
彼は自ら王都へ出向き、国王レオンハルトと直接面会。ダンジョンコアがいかに平和を愛し、王族を守り抜いたかを熱弁したのだ。
その結果、王国から異例の通達が街に届いた。
「Fランクダンジョン『火熱の迷宮』を、王国の『準公認・特別保養指定区域』に認定する。これは、冒険者以外の一般市民の立ち入りを許可し、その安全をコアと王国が保障するものである。」
この「保養地宣言」は、街の住民を熱狂させた。これまで「死の危険がある場所」として遠ざけていた場所が、正式に「癒やしの場」として認められたのだ。
ある朝、俺の入場センサーが、これまでとは全く異なる反応を示した。
【入場者特定:街の隠居老人、婦人会代表、および子供たち 計12名】
【種別:非戦闘員(一般市民)】
(フム。ついに来たか。冒険者以外の人間が、武器も持たずにこの迷宮を訪れる日が)
俺はあらかじめ、通路にいたアイスゼリーたちに「驚かせないように」と厳命しておいた。
「あらぁ……本当に涼しくて、いい香りがするわねぇ」
「見ておじいちゃん!スライムがプルプルしてて可愛いよ!」
案内役を買って出たのは、エージェントのリナと、彼女のクランの仲間たちだ。彼女たちは、かつての殺伐とした迷宮の入り口を、華やかな「エントランス」へと作り替えていた。
一般客たちが向かったのは、俺が急遽拡張した『コミュニティ・温浴エリア』だ。
「これ、本当に腰痛に効くのかい?」
「バルカス様のお墨付きです。さあ、ゆっくり浸かってください」
お年寄りたちが、コアが調整した「薬草風呂」に浸かり、感極まった声を上げる。
「ああ……ととのうわぁ……」
「命の洗濯とはこのことだねぇ」
アムネが精霊の力で空気を清浄化し、イグニスが地底から心地よい微温を送り届ける。
そこには、血生臭い戦闘の気配など微塵もなかった。
クリスタルコア内部で、俺はその光景を眺めていた。
(完璧だ。一般市民が利用することで、微量ながらも安定した『幸福のEXP』が流れ込んでくる。これは戦闘によるEXPよりも質が良い。そして何より、誰も傷つかない。これが俺の求めていた経営スタイルだ)
一方で、入り口付近では転売屋ザックが、ちゃっかりと露店を構えていた。
「さあさあ!ダンジョン公認、イグニス様印の『あったか石鹸』だよ!これでお風呂に入れば、お肌ツルツル、腰痛もバイバイだ!」
あいつ……勝手に俺の精霊の名前をブランド化してやがる。
だが、その売上の一部は俺への「出店料」としてEXPに変換される仕組みだ。
街の人々にとって、このダンジョンはもはや「攻略対象」ではなく、休日に家族で訪れる「近所の公園」や「スーパー銭湯」のような存在――すなわち、街の観光名所へと変貌し始めたのだ。
ご拝読ありがとうございます。ついに、これまでの行いが認められた。Fランクダンジョンの王族認定保養地決定!昇格を気にした経験値のやりくりもない、外部からの圧力もない、サービス全振りに熱量を注げるコアにとってこれ以上はないだろうと思われるほどのご褒美展開!のんびりダンジョン運営ライフをやったるぞぉー!と、気合い充分なところで、次回も乞うご期待!!




