第31話 火の精霊イグニスの「不快感」
コアルームに派遣された王国守備隊は、国王の弟ゼノスが送った凄腕の刺客たちを捕縛した。護衛のユリエは腕に深手を負ったものの、アルト王子とリーネ王女の安全は確保された。
だが、地脈の危機は終わっていない。
「【警告】 ―― 地脈干渉によるマグマ暴走まで、残り3分。EXP による防御シールドは限界です!」
マグマの熱は守備隊の鎧すら溶かしそうな勢いで、室内温度は灼熱地獄と化していた。俺の EXP は底を尽きかけ、クリスタル内部のワンルームも熱で歪み始めていた。
(くそっ。EXP が尽きれば、このダンジョンは終わりだ。俺の平和も、王族の命も……!)
そのとき、ダンジョン地下、膨張したマグマ溜まりの中心で、一つの巨大な魔力が目を覚ました。それは、長きにわたりこのマグマの熱の中で微睡んでいた火の精霊、イグニスだ。
イグニスにとって、マグマの急激な温度上昇は、最高の寝心地を邪魔する不快なノイズでしかなかった。
(イグニス(心の声)「うー、さっむ……じゃなくて、あつっ!!なんだよ、誰だ、僕の快適なゴロゴロタイムを邪魔するヤツは!この『気持ち悪い魔力の流れ』のせいで、背中が熱すぎるだろ!」)
イグニスは、不快感の源である地脈を通じて流れてくる異質な魔力を特定した。
コアルームのサウナエリアで活動していたととのいの精霊アムネは、マグマの異常な熱に気づき、驚愕して地脈へと意識を集中した。
「え、なにこれ!?コア様、この熱、サウナじゃなくて地獄だよ!マグマの中に、なんか、すごく怒ってる波動が……!」
アムネが恐る恐るマグマ溜まりにいるイグニスに話しかけた。
「あ、あの……あなた、どなたですか?このダンジョンに、こんな大きな火の精霊は……」
「うるさい!僕はイグニス。このお風呂でずーっとゴロゴロしてるんだ。でも、外から変な魔力が流れてきて、僕のお風呂が台無しだ!気持ち悪い魔力だ、大嫌いだ!」
アムネは震えながら、イグニスに状況を伝えた。
「そ、その気持ち悪い魔力は、たぶん、別のコアが私たちを壊そうとしているせいだよ……」
「ふーん。僕のゴロゴロを邪魔する奴は、存在価値なし。あそこか、魔力の流れの出どころは!」
イグニスは、黒曜石のコアが送り込んでいる地脈干渉の魔力の流れを完全に掌握すると、「安寧を邪魔された怒り」を乗せた精霊の炎を一気に逆流させた。
Aランク『黒曜石の迷宮』のコアクリスタルは、イグニスの圧倒的な精霊の力によって、何の抵抗もできずに内部から溶解し、機能停止した。
【警告:Aランク『黒曜石の迷宮』コアの機能停止を確認。原因:不明な高熱魔力によるクリスタルの溶解】
同時に、マグマの温度は急激に安定し、灼熱だったコアルームは、あっという間に通常の温度に戻った。
イグニスは、満足してマグマの中からクリスタルコア(俺)がいる場所へと、精霊の姿を現した。
「おーい、ダンジョンコアのお前。僕はイグニス。お前が作ったこのダンジョン、地脈の下で眠るのが最高に心地いいぞ。これからも、僕のお風呂を綺麗に保ってくれよな!」
炎の精霊は、俺のシステムに「安寧の邪魔をしない限り、協力する」というメッセージを送りつけ、再びマグマ溜まりへと潜り込み、「これでぐっすり眠れるわぁ」と独り言をこぼした。と、思いきや、またマグマから上半身だけを出し、こちらに話しかけてきた。
「あ、そうそう、言い忘れてた。俺っちのマグマで火竜の幼体を預かってんだわ。今まではこっそりEXPをちょっぴりもらってたけどよ。お前あれだろ? このダンジョンを昇格させたくないんだっけか?」
俺は、イグニスの言葉に思考が停止した。火竜の幼体。それは、Sランクダンジョンにすら存在するか疑わしい、伝説級の存在だ。
「だからよ、余剰分のEXPを火竜の幼体に分け与えてくれねーかな? な!いいだろ? 育てばこのダンジョンの守り神になるぜ!ひひひひ!」
独特な笑い声をあげて「頼んだぜ!俺は寝る!」と言うだけ言って、イグニスは再びマグマの中へと戻っていった。
コアの俺と隣にいた、ととのいの精霊アムネは、しばらく時が止まったかのように思考を停止した。
しばらくして俺が最初に沈黙を破った。
「か、火竜の、幼体、だと…… Sランクダンジョンじゃあるまいし……これはトップシークレットだ!いいなアムネ!」
アムネも驚きで目を丸くしながらも頷いた。
「と、当然よ!絶対に言わないわ!……でも、よかったじゃない? コア様!」
「あぁ、大いに結構な展開だ!」
俺は興奮を抑えきれなかった。ダンジョンコアは、一定の EXP を超えると強制的にランクアップする。俺はFランクの平和を維持するため、EXP を極力抑え、サービスに使う必要があった。
しかし、火竜の幼体に「余剰分の EXP を消費」させることができれば、ダンジョンが昇格する上限値を気にせず、安全にEXPを稼ぎ、サービスを提供し続けることができる。
しかも、その火竜は、イグニスが目を離さない限り、このダンジョンの最強の防衛システムになるのだ。
「フン。黒曜石のコアは、自滅した上に、俺に最高の EXP 消費先を与えてくれた、ということか。まったく、最高の『ととのい』だな!」
俺のダンジョンは、平和と安寧を維持するための、予測不能な最強の秘密を手に入れたのだった。
その頃外部ネットワークでは、「黒曜石の迷宮、原因不明の崩壊」というニュースが広がり始めていた。
この出来事は、他のAランクダンジョンコアたちに、Fランクダンジョン『火熱の迷宮』の地脈には「触れてはならない何か」がいると認識させ、地脈への魔力干渉をあらためて禁忌だと判断させたのだった。
ご拝読ありがとうございます。まさか、まさかの展開、でしたね。地殻変動で訪れたマグマ溜まりの正体は火の精霊と火竜の幼体が眠っているからだったとは!それと、何が嬉しいって、稼いだEXPを今よりもこありてよく、しかも、今以上にサービス提供できるという夢ののような話!興奮しますね!どんな経験値稼ぎをしようか考えるのが楽しみです。それでは次回もお楽しみに!!




