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Fランクダンジョンの平和な日常〜ダンジョンコアになって十数年いろんなことがありました〜  作者: 弌黑流人
【第二部】 第二章 四天王、安らぎの門を叩く。

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第109話 遊戯のベリアルと、盤上の陣取り合戦。

 「ねえ、おじさん! ここは安らぐのはいいよ! 文句ないくらい最高だよ! でもさ……娯楽が少なすぎない?」


 宿のロビーにある談話スペースで、ベリアルが不満げに声を上げた。忍び装束の裾を揺らし、ゴーグルをカチャカチャと弄りながら、彼女は退屈そうにソファに寝転んでいる。


 「アスレチックも三回目には目をつぶってクリアしちゃったし。もっとこう、ヒリヒリするような、運と知略がぶつかり合う『遊び』はないの?」


 ジューゴはカウンターの影でコーヒーを淹れながら、隣にいたフィニと視線を合わせた。


 確かに、この宿は「静寂と安らぎ」を重んじている。だが、かつて戦場を遊戯場に変えた元四天王を満足させるには、ただのトランプやチェスでは物足りないだろう。


 「……フィニ、例の試作品を出そう。ちょうどいいテストプレイヤーが来たことだしな」


 「はい、ジューゴ様! ちょうどギミックの調整が終わったところです!」


 フィニが奥から恭しく運んできたのは、一辺が三十升の正方形に区切られた、魔法銀の鈍い光沢を放つゲームボードだった。


 「何これ? ただの板?」


 「『ユグドラ・スクエア』だ。俺とフィニが共同制作した。ルールは簡単だが、お前の好きな『運』と『戦略』が物を言うぞ」


 ジューゴが説明を始めると、ベリアルは興味津々に身を乗り出した。その瞳の奥で、遊戯を愛する四天王としての本能が疼き始める。


 「ルールはこうだ。まず、向かい合う角の四升がそれぞれの初期陣地となる。交互にサイコロを振り、出た目の数だけ自分の陣地を連結するように広げていく。最終的に盤面が埋まった時、より多くの升目を持っていた方の勝ちだ。……あるいは、相手の初期陣地を占領しても勝ち。ここまでは分かるな?」


 「ふんふん。簡単だね。でも、それだけじゃ単なるサイコロ勝負じゃない?」



 ベリアルの指摘に、ジューゴはニヤリと笑って続けた。

 「ここからが本番だ。相手の陣地に隣接した時、『侵略』を宣言できる。先攻なら『奇数』、後攻なら『偶数』を狙う特殊なサイコロを振るんだ。例えば先攻のお前が侵略し、サイコロが『1・3・5』のどれかを出せば成功。1なら一升、3なら二升、5なら最大三升まで相手の陣地を奪い、自分のものに書き換えられる。さらに、奪った数だけ追加で通常のサイコロを振り、自分の陣地をさらに伸ばせるんだ」


 ベリアルのゴーグルがカチリと鳴った。


 「……なるほどね。単に広げるだけじゃなくて、どこで侵略を仕掛けるか、どこに防衛線を張るかの駆け引きがあるわけだ。しかも奪えば奪うほど連続行動ができる……。一発逆転のチャンスも、地道な包囲網も作れるってことか。おじさん、性格悪いね! 最高だよ!」


 「客に言われる筋合いはないな。……アムネ、お前がベリアルの相手をしてやれ」


 「えっ、私がですか!?」


 驚くアムネだったが、ジューゴに背中を押され、ベリアルの対面に座った。


 ジューゴは審判として、二人の間に立つ。フィニは記録係として、魔法のペンを構えた。


 「よーし、精霊のお姉さん。キミのその揺れる恋心、盤上でズタズタにしてあげるよ!」


 「……負けません。ジューゴ様が作ってくださった遊戯、汚させはしません!」


 対局が始まった。


 序盤、ベリアルはサイコロの運を味方につけ、一気に中央へと陣地を伸ばす「一点突破」の構えを見せる。対するアムネは、ジューゴの魔力供給を受けながら、精霊たちの導きに従うように、周囲から固めていく「包囲網」を築いていった。


 中盤、ベリアルが「侵略」を宣言した。


 「さあ、私の番だ! 偶数の力、見せてあげるよ。……いけっ!」


 ベリアルが振ったダイスは『4』。二升を奪い取り、さらに追加のダイスでアムネの防衛線を突破していく。


 「あはは! これこれ! この奪い取る感覚! 堪らないね!」


 しかし、アムネは冷静だった。彼女が見つめているのは、ジューゴが土中に魔力を固定したあの防衛システムと同じ、全体の「流れ」だった。アムネはあえて奪わせることで、ベリアルの陣地を細長い「一筆書き」の状態へと誘導していた。


 「……今です。侵略を宣言します」


 アムネが振ったのは『5』。


 ベリアルの細い陣地の根元を三升奪い取り、そこからさらに追加のダイスで連鎖的にベリアルのルートを寸断していく。


 「あ……!? 私の陣地が、飛び地になっちゃった!?」


 「飛び地は連結していないと見なされ、次のターンで自動的に精霊システムに回収されます。……ベリアル様、あなたの遊びは少しだけ、周りが見えていないようです」


 最後の一升が埋まった時、盤面はアムネの透き通るような緑色で埋め尽くされていた。


 「……負けた。完璧に負けたよ。精霊のお姉さんに負けるなんて!」


 ベリアルはソファに崩れ落ちたが、その顔には清々しいまでの笑顔があった。


 「おじさん。これ、売ってよ。いや、ボク専用のボードを作って! 魔法銀じゃなくて、オリハルコンとかでさ! この戦略の深さ、王都の貴族たちに教えたらみんな発狂しちゃうよ」


 「売り物じゃない。宿泊客の娯楽用だ。……ベリアル、負けて悔しいならもう一泊していくか?」


 「当たり前でしょ! 明日はおじさんと勝負だよ!」


 賑やかな声が響く中、ジューゴは満足げに盤面を片付けた。


 アムネは少し誇らしげに、そして勇気を出してジューゴの顔を見上げた。ジューゴがその頭を優しく撫でると、彼女はリナが隣にいる時にするのと同じような、幸せな微笑みを浮かべた。


 元四天王をも唸らせる「おもてなしの遊戯」。悠久の憩い亭の夜は、盤上の熱い余韻を抱えたまま、穏やかに更けていく。


 ご拝読ありがとうございます。陣取りゲーム。運と戦略がうまくかみ合うことで勝敗が決まる。売り物にするにはまだ早いかな。すべては集客のために!

 さて次回は、第110話『宿の隠しメニュー「極限アイス」』をお送りいたします。お楽しみに!!

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