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Fランクダンジョンの平和な日常〜ダンジョンコアになって十数年いろんなことがありました〜  作者: 弌黑流人
【第二部】 第二章 四天王、安らぎの門を叩く。

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第108話 森のアスレチックと、遊戯を愛する迷子

 「悠久の憩い亭」の広大な敷地内には、ユグドラシルの枝ぶりとジューゴの空間干渉を活かした「森のアスレチックコース」が併設されている。


 初心者用の散策コースから、冒険者でも息を切らす上級者向けの「天空踏破コース」まで完備されており、宿泊客たちに大人気のスポットとなっていた。


 そんなある日の午後、受付デスクにいたテオが珍しく驚きに目を見開いた。


 「……ジューゴ様、少々よろしいでしょうか。上級者向けの『天空踏破コース』を、わずか十五分で完走したお客様がいらっしゃいます」


 「十五分だと? カイルやハクでも本気を出さなきゃ無理な数字だな。……どんな熟練の冒険者だ?」


 ジューゴが尋ねると、テオは困惑したように指を差した。


 そこにいたのは、動きやすそうな「忍び崩し」の黒い和装を身に纏い、頭にはメカニカルなゴーグルを乗せた十歳前後の少女だった。


 「あはは! 全然物足りないよ、管理人のおじさん。もっとスリルがあるやつ、ないの?」


 少女は無邪気に笑いながら、ジューゴを見上げた。見た目は快活で少し生意気そうな人間の子供。魔力測定器も「平均的な人間の子供」という数値を弾き出している。


 だが、ジューゴと、その隣にいたアムネの目は誤魔化せなかった。


 「……ジューゴ様。あの少女の足元、地面の精霊たちが震えて避けています。それに、あの瞳の奥の魔力……」


 アムネが小声で告げる。ジューゴもまた、少女のゴーグルの奥に潜む「本質」を見抜いて溜息をついた。


 「ああ。人間にしては、あまりにも魂が『歪曲』しすぎているな。……よう、お嬢ちゃん。いや、『遊戯のベリアル』。魔王四天王ともあろうお方が、こんな辺境の宿に何の用だ?」


 「えっ」と、周囲のスタッフたちが固まる。


 少女――かつて魔王軍で「退屈」を最も嫌い、あらゆる戦場を遊戯場に変えたとされる四天王の一人、ベリアルは、一瞬だけ固まった後、ケラケラと笑い出した。


 「あははは! さすが魔王様を倒した管理人さんだね。私の完璧な変装を見破るなんて! 勇者の称号は伊達じゃないや」


 彼女はくるりと回ると、忍び装束の裾をひるがえしてお辞儀をした。魔力は隠しているものの、その存在感は隠しきれない。


 「今はただの『旅するゲーマー』だよ。魔王様がいなくなってから世界が平和すぎて、私、死ぬほど退屈なんだ。そしたら王都で『絶対に驚くような仕掛けがある宿がある』って聞いたから、遊びに来ちゃった」


 「遊びに……。わざわざ四天王が、宿泊客としてか?」


 「そうだよ! ここ、すごいね。あのアスレチック、空間の繋がりがわざと捻ってあるでしょ? ああいう意地悪な設計、大好きだな。次はもっと、私を本気で滑落させるようなコースを作ってよ!」


 ベリアルは敵意を見せるどころか、ジューゴの「整備」と「空間干渉」が施された宿のギミックに目を輝かせて感動していた。


 「……ジューゴ、どうするの? 一応、元・敵軍の幹部だけど」


 リナが剣の柄に手をかけながら尋ねる。ジューゴはしばし考えた後、ベリアルの前にルームキーを置いた。


 「うちは宿屋だ。宿泊帳に名前を書き、料金を払い、宿のルールを守るなら、誰であろうと客として扱う。……ただし、他のお客様に迷惑をかけたり、精霊たちをいじめたりしたら、管理者権限で一生『退場』してもらうがな」


 「やったあ! さすが懐が深いね、おじさん!」


 ベリアルは無邪気に跳ね回り、そのままアムネの方を向いてニヤリと笑った。ゴーグルをクイと押し上げ、その奥の鋭い瞳でアムネを見透かす。


 「あ、精霊のお姉さん。キミ、いい匂いがするね。精霊のくせに『恋の悩み』に焼かれてる匂いだ」


 「っ……!」


 アムネの顔が真っ赤に染まる。


 ベリアルは面白そうに指を鳴らした。


 「私、面白いゲームや恋バナも大好きだよ。暇な時に相談に乗ってあげようか?」


 「……余計なことはいいから、さっさと部屋に行け。カイル、案内してやってくれ」


 ジューゴが遮ると、カイルが無表情に「かしこまりました。四天王の魂、磨き甲斐がありますね」とベリアルの襟首を掴んで引きずっていった。


 「わ!ちょっ!これが、客に対するもてなしかぁー!」


 その光景を皆、苦笑いを浮かべて見送ってしまった。


 「……ジューゴ様、あの方は……」


 アムネが不安げにジューゴの袖を引く。ジューゴは彼女の頭をポンと叩いた。


 「気にするな。あいつはただの遊びたがりのガキだ。……それより、四天王が満足できなかったアスレチックか。フィニ、悪いがコースの拡張工事の相談に乗ってくれ。次は『次元跳躍』を組み込むぞ」


 「はい、ジューゴ様! 職人魂が燃えますね!」


 元・魔王四天王の来訪すら、新しいアクティビティのヒントにしてしまう。「悠久の憩い亭」の日常は、平和でありながら、どこまでも騒がしく、そして少しだけ秘密めいた方向へと進んでいく。


 アムネは自分の胸を押さえながら、去っていくベリアルの背中と、頼もしいジューゴの横顔を交互に見つめていた。



 ご拝読ありがとうございます。元魔王軍四天王『遊戯のベリアル』が登場しました。遊戯をこよなく愛する危ない奴と覚えておきましょう。

 さて次回は、第109話『遊戯のベリアルと、盤上の陣取り合戦』をお送りいたします。お楽しみに!


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