古銭の誘い 20
晴香は帰宅すると探偵事務所でのやり取りを振り返り整理する。
「凄い話だったな。小説にするのなら面白いけど。やっぱり直ぐには受け入れられない」
晴香は自分の書いている小説をチェックしながら読み直す。
誤字や文法の訂正などを繰り返していると落ち着く、やはり自分は根っからのものかきのようだ。
読みながら自分なりに考える。
どうやらこの文章の書き方は実際に起こった事や見た事からインスピレーションを得ている節が有る。
勿論、題材が似た文章を読んだ可能性だって十分にあるだろう。
だが、自分の感覚が告げている。
これは何か自分にとって大事な事だと。
ふと思い出すかのように出る台詞。
いつ覚えたか分からない詩。
突然に襲うフラッシュバック。
これ等は必ずどこかで符号するのではないだろうか。
晴香はお気に入りの万年筆で全てをメモする。
何故か入手経緯が分からない高価な万年筆。
是はきっと大事なものなのだろう、謎を追う意味でも精神的な意味でも。
確信に近い感覚で思うが、同時にその先には恐ろしい事実が待っていると漠然と感じるのだ。
万年筆を見つめていると意識が遠のく。
また、強烈なフラッシュバックが晴香を襲う。
そこは深い森の様だ。
何故、そう感じるのか。
世界が何時もよりも大きく感じる。
「ねぇ、お姉ちゃん」
声のする方に向くと10歳くらいの女の子がいた。
「森の洋館に行くとね、欲しいものが貰えるんだって」
女の子は笑顔で話しかけてくる、どうやら自分は姉のようだ。
「七海、その先の家はもうないんだよ」
「でも! お家に入れた人がいるって聞いたよ」
「それはね、誰かが言った嘘なのよ。危ないから。さ、帰ろう」
「いやだ! 幸せの銀のコインを貰うの! そしたら」
泣き出しそうな女の子を抱きしめると晴香は言う。
「わかった。いくだけ言ってみようか」
頭を撫でて笑いながら言う。
「うん!」
二人は笑顔で森の中を歩いていく。
そこは暖かな日差しが木々から漏れる幻想的な空間だった。
しばらく歩くとその先には大きな平地が続き、その先に立派な洋館が建っていた。
「お姉ちゃん! 見て! 幸運のお屋敷は本当にあったんだよ!」
洋館に、はしゃぎながら走る女の子を追いかける。
意識が覚醒を始める。
「今のは? 七海?」
晴香は激しい頭痛に呻く。
「森の、洋館......」




