古銭の誘い 19
渡部靖は違いの分かる男である。
つまり彼にはこだわりがあった。
「やはり、緑茶は京都の玉露ですね」
彼は飲むお茶にこだわる、銘柄は必ず同じものを使い急須も専用の南部鉄製で入れる。
無論一杯目を飲むなどと言う無粋な真似はしない。
「しかし、高級茶ですからね捨てるのも勿体無い。鮫島にでもやりますか」
渡部は呟きながら着崩れた作務衣をなおす。
実はこの作務衣にもこだわりがあった。
木綿の特産地三河からの特注取り寄せ品である。
お寺の坊さんたちが使う本格志向、そんじゃそこらの洋服なんかより高価な代物だ。
「そういえば実家から茶菓子が送られてきてましたね一緒にだしてやりますか」
以外に献身的な性質であり、もてなしを美徳と感じる傾向にあった。
「鮫島さんお茶を入れたので飲みなさい」
「あぁ、そこに置いといてくれ。直ぐ飲むから」
「そうですか冷めないうちに飲むのですよ」
それだけを言うと眼鏡の位置を直し自分のお茶を取りにいく。
実はこの眼鏡は伊達眼鏡である。
彼は眼鏡を知識人の象徴のように感じている。
それはある人物の影響によるが今回は語られる事は無い。
故に当然眼鏡にもこだわっている。
有名国産メーカーのメタルフレームタイプである。
作成時に度無しレンズで注文した為に眼鏡店の定員はちょっと引きつった笑顔をしていた。
彼はこの眼鏡を兎に角気に入っている、宝と言っても過言ではないだろう。
自分のお茶を持ってきた渡部はまだ手をつけていない鮫島に言う。
「早く飲まないからちょっと冷めてますよ」
「悪い。すぐに飲む」
鮫島は菓子を摘むとお茶で流し込む。
少し苛立つ渡部だが。
猿に礼儀を説いても仕方ないと思い、話の本題にはいる。
「一つ気になった事があるのですが」
「ん?」
「あなたの推理では消えた人間の記憶は消えるのでは?なんで我々は後藤さんを覚えているのでしょうか?」
渡部の質問に鮫島はいやらしい笑みで答える。
「あまり怖がらせるのも悪いだろ?」
「え? じゃぁ! あなたって人は」
格好つけてお茶を飲む鮫島だが変な飲み方をしたので器官に詰まってふきだした
それは、渡部の眼鏡にかかる。
渡部靖は違いの分かる男である。
つまり彼にはこだわりがあった。
彼の愛用の杖はその昔から代々伝統的に作られる儀式用である。
その材質はしなり良く丈夫。
これで殴られると鞭に打たれたような衝撃が来る。
「おい、渡部! なんで杖持ってんの!」
無言で近くづく渡部。
ある晴れた日の事であった




