九話 人魚の国
「こんな大きな船で会いに行ったら、彼女は驚いて逃げてしまう。此処からは自分で泳いで会いに行け。」
「…俺泳ぐの苦手なんだけど」
「此処からそんな遠くないし、近くに岩もあるから、それを伝って泳いで行きなよ。ほらっ!」
ぬおおおおおっ!!?
こ、この女突き落としやがった!?
ドボッ
うお、塩水だから目は痛いわ、鼻は痛いわ、腹わ痛いわの連続精神攻撃じゃん!
ちょ、苦しい!
必死に藻がいて、何とか水面から浮かび上がった。
つ、辛い…。
「あっはははははは!」
…あの女、笑いやがって。
まぁ良い、俺はさっさと泳いであの人魚の元に向かう。
ん?
泳ぎ方?
もちろん、犬かぎだ。
あっははははははははははは!!!
…スッゲェでかい笑い声が聞こえるんですけど。
そうだよ、俺は泳ぐの下手くそなんですよ。
何とか必死に犬かぎを続けて、岩を伝って遂に人魚の元まで辿り着いた…ぞ。
ぜぇ、ぜぇ…
犬かぎって、こんな疲れるんだな。
「プププ…」
あって早々この人魚に笑われたんだが!?
地獄だ、こんなの悪夢でしかねぇ!
「見事な犬かぎね、よくそれで此処まで来れたわ…プフッ」
駄目だ、抑えろ。
此処でブチ切れたら全て終わりだ。
「ハァー…で、わざわざ私に会いに来たんだから、何か用があるんでしょ?」
あぁ、そうだ。
ブン殴りに来たんじゃ無い。
「なぁアンタ、俺に海の底でも呼吸出来る方法を教えてくれないか?」
「うーん…まず泳げるようになるのが先じゃないかしら?」
「いや、そこを何とか…」
まだ辛かってんのかこのアマァッ!
流石に血管がヤバい。
「貴方はあの海賊さんの仲間?」
「…知り合いって感じだ」
「へぇ…じゃあ、あの船長の名前は?」
…何でそんな事聞くんだ?
別に関係無いような気がするんだが…
「アネッタ、だっけな…」
「あの子が名前を教えるくらいの仲なら、大丈夫そうね。ほら、ちょっと息を止めて、私の手を掴んで?」
…は?
よく分からないが、取り敢えず言われた通りに鼻を摘んで、空いた手で彼女の手を握った。
「それじゃ、行っくよ〜!」
そう彼女が言うと、とんでも無いことに海の中に潜って行きやがった!
俺も彼女に連れられて海の底に沈んで行く。
ちょ、目が、目がァァァァァァッ!!!
暫く目を閉じて居ると、段々息が苦しく無くなって来た。
え?
この状況ヤバくね?
そう思って瞼を開けた時、目の前に有り得ない物が見えた。
海の底に、大規模な街があった。
藍色の屋根が目立つ巨大な城、無数に並ぶ家々、海を泳ぐ色取り取りの魚達、珊瑚の様に煌めく大地…
幻想的な光景が目の前に広がっている。
「もう息吸って大丈夫だよ。」
そう言われて指を離すと、不思議な事に息が吸える。人魚の国、凄いな。
「ここは人魚の国、アンデルセン! 私達人魚の楽園よ!」
見りゃわかるわ。
「此処がアンデルセンの入り口!」
連れられて来た場所の目の前に、珊瑚を重ねて作られた門がある。
「…なぁ、門なんか潜らなくても、上から泳いで行ったら良いんじゃ?」
「入り口以外には強固な結界が張ってあるから、神様並の伝説級のヤツじゃないと上から進入は出来ないわ」
流石ファンタジー。
何でも有りだな。
日本なんて、一体どれ程の空襲を受けてきたか…
経験した事の無い俺が言う事じゃ無いか。
門を潜った先には、広い道と両脇の商店街…兎に角色んな店があった。
人魚達も結構デカい文明もつてるんだな。
ん?
アレは俺が撫でたセイレーンじゃね?
セイレーン達も此処に来るのか?
向こうも俺に気付いたらしく、羽をバサバサ動かして近寄ってきた。
たがしかし。
「ぎゃぴっ!?」
あのセイレーンは道の奥から凄い勢いで突っ込んで来た、上半身が人間の男、下半身が魚…マーマンって奴だろう。
そいつの突進により吹っ飛ばされた。
「止まれ、そこの野蛮人!」
な、何なんだお前ら!
槍を持ったマーマン達15人に囲まれてるんですけど!?
「女王アリエラ様の命令により、城まで来てもらう。抵抗したら殺すからな。」
槍の矛先を俺の顎に当て、物騒な事を吐いてるんですけどコイツ。
ま、刺そうとその槍を突き出した所で、刺さらないんだけどな。
別にこの体、鱗が見えてないだけで実際は首にもあの硬い鱗があるからな。
「…一体何の積りかわからんが、抵抗しないから、その槍を降ろしてくれ。」
「フンッ、竜の割には大人しいじゃないか。付いて来い、少しでも怪しい素振りを見せたら殺すからな。」
…何なんだこの物騒なマーマン共は?
人魚ってこんなヤバい戦闘民族だっけ?
海賊のアイツら以上にヤバいぞこいつら。
兎に角、俺はマーマンに背中を槍で突かれながら、目の前に聳え立つ城に連行されていった。
メロウのアイツも、セイレーンの彼女も、ていうかこのマーマン達を見る度にみんな顔を青くしてブルブル震えてる気が済んだけど?
一体、何が起きてるんだ。
人魚の国の城に無理矢理連行され、城の中に放り込まれた。
中にはズラリと槍を持った厳しい顔付きのマーマン達が並んでいる。怖いな。
暫く歩いて、謁見の間のような場所に連れて行かれた。
其処に居たのは他の人魚達の15倍の大きさはありそうな人魚姫が玉座に頬杖を付いて座っていた。
うわ、化粧厚いな。
すんごいブッサイクなんですけど。
「さて其方、其方は数日前に会場で散々暴れおったワイバーンであろう? 其方の人間離れした魔力量から見てわかる。例え人に化けていてもな。」
鋭い目付きで、低く地の底から響くような声で語りかけ、威圧してきやがる。
コイツ本当に人魚?
「この黒い黒曜石に似た鱗…貴様のだな?」
そう言って彼女が投げ飛ばして来たのは、黒く輝くガラス質の竜の鱗…
俺の鱗だった。
「は、はい、そうっすけど…」
もう竜なのはバレてんだから正直に言うしか無い…だろうな。
「そうか。…して、何故其方はこの国に訪れた?」
「海の中でも呼吸をする術を手に入れにだけど…」
俺がそう言った途端、更に目付きが鋭くなる。
ちょ、この女王様マジで怖い。
「そうか、なら話は早い。貴様にはさっさとその術をくれてやろう、だが条件がある。二度とこの国に来るな。それが守れるならくれてやる。」
「あ、はい、守ります」
本当に何したいのコイツ?
まぁ、こんな奴のいる国になんて居たくも無いし、さっさと条件受け入れるか。
「そうか、なら受け取るが良い。」
そう彼女が言うと、手からシャボン玉のような泡を作り出し、それを俺に向けて飛ばしてきた。
そのシャボン玉は俺を包み込むと、弾けて消え去っていった。
「それでもう深海の海の底だろうと呼吸する事が出来るだろう。ではさっさと出て行け。ザバマナルド」
なっ!?
突然強大な水圧が迫ってきたから、驚いて前を見ると、突然海流が襲ってきて俺は城の外に弾き出される。
あーれー!?
これジェットコースター乗るよりキツイんですけどおおおおお…
…ここで俺の意識は途絶えた。




