side1
「うーん…こんな鱗、見た事無いね」
私はある農村に出没した黒いワイバーンの情報を入手し、遥々遠くにあるこのバッカニア島を訪れた。
一番最後の目撃情報がこの島なのだが…
「まるで黒曜石だね、このガラス質の黒い鱗。ちょっと触っただけで指に傷が付いてしまった」
「はぁ…」
助手のディルにメモを取らせるよう、あえて大きく独り言を話す私。
他から見たら変人だね。
「そしてこの謎の黒い油。一度手に着くとなかなか取れない…ま、油は基本落ちにくいんだけど。どうやらあのワイバーンはコレに火を付けて敵を攻撃していたみたいだ。多分口から吐き出してたんだろう」
「へぇ…」
カリカリと、羽ペンの鳴る音が聞こえる。
ちゃんとメモ取ってるね。
「それにしもこの鱗、付け根が変だ。まるで鱗が逆に付いてるかのような…もしこれが彼の鱗の一部に過ぎないなら、彼の全身は逆鱗で覆われている事になる。竜は普通逆鱗に触れられると怒るから、彼は指一本触れられただけで暴走する…みたいな性質を持ってるかもしれない」
「まってください、メラル博士…それって、つい最近出没した神竜と性質が同じになるんじゃ…」
「お、気が付いたかい」
最近ディルは勘が良くなってきた。
お陰で説明がしやすくなりそうだ。
いや、ならないかも。
「そう、ついこの前出没した黒いドラゴン。彼は今世界中飛び回って様々な被害を起こしている。彼が通った所で竜巻が発生したり、着地した場所で地震が起きたり、吠えると火山が噴火、津波が起こったり…あの震災をガンガン犯す竜と関係があるのかもしれない。彼も、鱗の全てが逆鱗だったらしいからね。」
そう、あの竜はつい最近新たに出没し、早速真龍種に登録された正体不明のドラゴン。
「神災竜、プロメテウスですか…」
「そう、ソイツ。今は勇者達がなんとか誘導して火山島の一角に居座って貰ってるけど、下手するとまた何やらかすか分からないあのドラゴン。ソイツと今回現れた竜は関連性があるかもしれない。」
「え、それヤバいじゃないですか。災害級のドラゴンが世界に二体も出没するとか…」
「実質的な被害は無いけど、もしや…ね。」
「そんな事は先ず有り得ないね。」
突然背後から女海賊がやってきた。
胸を包帯で押さえつけても、女だって事は直ぐに声でわかるね。
「なんでそんな事が言えるんだい?」
「アンタは数日前のオーク達の襲撃事件を知ってるかい?」
あぁ、そう言えば。
大量のオーク達が攻めてきたけど、なんとかなったんだっけ。
「その時に敵のオーク達を次々と燃やしていって私達を助けてくれたのが、そのワイバーンなんだ。」
「は? ワイバーンが人を救う?」
「もしそんな私達の救世主であるドラゴンを殺そうとか考えたら、アンタらは私達を敵に回すって事になる。それを理解しな。」
「まぁ待ってよ、所詮私は単なる魔物学者だよ?私なんかが竜相手に戦うとか有り得ないし、こんな私が…」
あぁ、もう面倒臭いなぁ。
早く研究の続きをさせてくれよ。
「良かったのですか、奴を始末したり、地下に幽閉したりしなくて?」
我がアンデルセン人魚騎士団の団長であるグラドがそんな事を聞いてきた。
「奴は仮にもワイバーン。それも黒竜の可能性がある竜だ。」
「ですが、我々や女王陛下の力さえあれば…」
この男、相変わらず戦う事にしか脳が無い。
困ったものだ。
「良いか、確かに我らの力さえあれば、奴を始末する事は出来たかもしれん。だが、国内でそんな荒事を犯して市民という兵に被害が出たらどうする。我らの真の目的である、この海に静寂を取り戻す為には、不要な被害を犯す訳にはならんのだ。」
「左様でございますか。」
…此奴、理解しておらんな。
もう良い。
「して、あの新兵器の開発は進んでおるのだな?」
「ええ、龍殺しの槍の生産、水中で使用可能な火砲の開発、兵の鍛錬、何れも順調に進んでおります。」
「うむ。時期を見て悪しき者共の殺戮を開始する、その時まで準備を進めておけ。」
「はっ!」
彼は素早く敬礼すると、嬉しそうに尾びれを振りながら去っていった。
マーマン達は本当に戦闘意欲が高くて困る。
まぁ良い、これ程の戦力が整ってきたのだ、この海に静寂を落とす日もそう遠くは無いな。
見ているか、イリエル。
貴様が作りよったこの海が…そして世界が静寂の海に飲まれる光景を。
全てはプロメテウス様の為に。




