満月の夜はヤンデレの血が騒ぐ。暴走兎になった村長が、マッハ1で俺の匂いを嗅ぎに来る件
満月の夜はヤンデレの血が騒ぐ。暴走兎になった村長が、マッハ1で俺の匂いを嗅ぎに来る件
夜のポポロ村の上空に、不気味なほど巨大で、黄金色に輝く満月が昇っていた。
その夜、ポポロ・コーポ101号室の空気が、いつものカオスな日常とは明らかに違っていた。
ちゃぶ台の席で、ヤンデレ村長のキャルルが、荒い息をハァハァと吐き出している。
「はぁ……はぁ……。ソウマ君……匂う、ソウマ君の匂いが、世界中に満ち満ちて……っ!」
彼女の頭に生えたウサギの耳は、ピコピコどころか、限界を超えたプレッシャーでブルブルと激しく痙攣していた。瞳孔は開き、頬は熱を帯びたように真っ赤に染まっている。
「おい、キャルル。お前、さっきから様子がおかしいぞ。熱でもあんのか?」
俺がパソコンから目を離して尋ねると、ちゃぶ台の端でコタツに潜り込んでいた世界神ルチアナが、青い顔で震えながら言った。
「ば、馬鹿ねソウマ君! 外の月を見なさいよ、満月よ! 月兎族の特性を忘れたの!?」
「月兎族の……特性?」
「そうよ! 満月の夜、月兎族は完全回復と身体能力の爆発的ブーストが起きるの。テンションが『ハイ』を通り越して、完全にバーサーカー状態になるのよっ!」
ルチアナの言葉に、俺は冷や汗をかいた。
設定資料によれば、月兎族の満月時は通常時の機動力が桁違いに跳ね上がり、足の速さは『マッハ1』を超える。戦闘力は跳ね上がり、かつ感情が高ぶれば死者すら蘇らせる伝説を持つ種族だ。
そして、彼女の場合、その「高ぶる感情」のベクトルが、100%俺への重すぎる愛に向かっている。
「ソウマ君……私、もう抑えられないよ……。ソウマ君の全てを吸い尽くしたい……一緒に永遠の宇宙へ行こっ……♡」
「おい、物騒なこと言うな。正気になれ、村長」
キャルルがガタッと椅子を蹴飛ばして立ち上がった瞬間。
彼女の足元が、まるで爆発でも起きたかのようにパキィィィンッと音を立ててひび割れた。
「あ、れ……?」
次の瞬間、キャルルの姿が、人間の視覚では捉えられないほどの速度でフッと消え失せた。
――ドゴォォォォンッ!!!!!
直後、ポポロ・コーポの外で、窓ガラスがすべて粉々に砕け散るほどの凄まじい衝撃波が炸裂した。
マッハ1を超えた音速突破の衝撃である。アパートの壁がギシギシと悲鳴を上げ、101号室の室内はまるで台風が直撃したかのような惨状と化した。
「ひゃああああっ!? 家が壊れる! 私のコタツがぁぁぁっ!」
ルチアナが頭を抱えて絶叫し、リーザは机の下で「南無三……南無三……」と震え上がっている。
「やれやれ……。満月の夜のテンション管理も、村長の仕事に入れとくべきだったか」
俺は額の汗を拭い、椅子からゆっくりと立ち上がった。
村のデータベースによると、満月時のキャルルは、夜な夜な村の病院に迷いこんでは患者を全回復させて医者を青ざめさせ、さらには三カ国の国境駐屯所に単身カチこんで兵士たちをボコボコに殴り倒した直後に全回復させるという「アメとムチの極み」のような迷惑行為を働くことで有名だ。
だが、今夜の彼女のメインターゲットは、病院でも駐屯所の兵士でもない。
――俺の匂いだ。
「ソウマ君ぁぁぁぁ――っ!!!」
夜空の彼方から、マッハ1の超音速で突撃してくる凄まじい風圧と気配。
狙いは一直線に、この101号室の俺。
「――っ、来るぞ」
俺は戦闘態勢に入った。
武器はいらない。彼女を傷つけず、かつ物理的にその勢いを殺すには、一瞬の隙も許されない。
――ドギャアァァァンッ!!!!!
101号室の壁を豪快に突き破り、黄金の闘気と紫電の雷光を纏った暴走兎が、隕石のような勢いで突っ込んできた。
その破壊力は、戦車の主砲すらしのぐ。まともに受ければアパートごと消滅する。
だが、俺は一歩も引かなかった。
彼女の突き出した両手が俺の胸元を捉える直前、俺は【規約執行】による身体の最適化と、合気柔術の極限の重心移動を同調させた。
「っ……!」
キャルルの莫大な運動エネルギーを、真っ向から受け止めるのではなく、俺の全身を使って受け流し、円の軌道を描きながら地面へと引きずり下ろす。
ドシャァァァンッ!!
101号室の床が見事に抜け落ち、砂煙が舞い上がった。
瓦礫の山の中で、俺は暴れるキャルルの両腕を背中側に捻り上げ、完璧な関節固めで彼女の動きを完全に封じ込めた。
「ぐぅっ……! は、離して……! ソウマ君の匂いが、もっと欲しいの……っ!」
「暴れるな、お前。服が破れてるぞ」
俺が低い声で言い聞かせると、満月特有のバーサーカー状態で真っ赤になっていたキャルルの瞳に、少しずつ理性が戻ってきた。
彼女は自分の体勢と、俺にガッチリと組み敷かれていることに気づき、耳の先まで真っ赤に染め上げた。
「あ……れ……? 私、なにを……」
「お前が満月のせいでヒスを起こして、俺の部屋の壁を全壊させたんだ。……ほら、大人しくなったか?」
俺がそっと腕を緩めると、キャルルは完全に正気を取り戻し、真っ赤な顔で両手で自分の顔を隠した。
「キャ、キャーーーーッ!! 私、また満月で暴走して……ソウマ君にこんなみっともない姿を……! お嫁に行けないっ、もうお嫁に行けないよぉぉっ!」
「そもそもまだ結婚してねぇだろ。とりあえず、ぶっ壊した壁の修理費の請求書は、明日村長室に回すからな」
俺は盛大にため息をつきながら、瓦礫の中から立ち上がり、スースーと風通しが良くなった(壁が消えた)101号室を見渡した。
「あーあ……これで今月の家賃、チャラどころかマイナスだな……」
コタツから恐る恐る顔を出したルチアナが、「ソウマ君、お疲れ様……」と情けない声をかけ、リーザが「村長さんが野獣になってましたわ……」と震えている。
大宇宙管理局、カスハラ部・巡回調停官。
理不尽なチート勇者を物理BANする俺の日常は、満月の夜のヤンデレ兎によって、物理的にも精神的にもボロボロに破壊されていくのだった。
――翌朝。
「昨夜は姉御の熱いご指導、誠にありがとうございました! おかげさまで全治三カ月の骨折が秒で治りました!」という感謝の手紙と共に、国境の駐屯所から山のような高級毛蟹と金貨の入った木箱が届けられた。
キャルルは終日布団の中で顔を真っ赤にして縮こまっており、俺は朝から業者を呼んで壁の修繕工事の立ち会いをする羽目になったという。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「マッハ1のヤンデレ兎、強すぎるし怖すぎるww」
「それを合気で完璧に抑え込むソウマ、さすが特務執行官!」
「翌朝の駐屯所からの貢物がリアルすぎて草」
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次回第9話、
『トップゴッドチューバー・キュララの汚部屋突撃生配信! 「みんな、ソウマのプライベートを暴いちゃうよー☆」』
に続きます! 今度は大人気配信者が部屋に凸してくる!? 引き続きよろしくお願いいたします!




