降臨、借金まみれの駄女神様。クレカ滞納でドナドナ寸前の世界神を、丸めた新聞紙で物理BANする件
降臨、借金まみれの駄女神様。クレカ滞納でドナドナ寸前の世界神を、丸めた新聞紙で物理BANする件
時刻は夜の十時。
ポポロ・コーポ101号室は、今日もカオスながらも平和な空気に包まれていた。
「ソウマ君、特製の陽薬茶淹れたよっ! これ飲んで、今日の疲れを癒してね♡」
「ソウマ様! タローマートのチラシですわ! 明日は特売日で、モヤシが銅貨一枚で詰め放題ですの!」
俺のちゃぶ台の左右には、ヤンデレ村長のキャルルと底辺アイドルのリーザが陣取っている。
合鍵(錬成済み)によって完全に俺のプライベート空間を侵略した彼女たちだが、メシの準備や特売情報の収集など、意外にも『所帯染みたアシスタント』としての機能を発揮しつつあった。
「あぁ、サンキュ。……モヤシは詰められるだけ詰めてこい。最近、お前ら二人が入り浸ってるせいでエンゲル係数がヤバいんだ」
「はーいっ!」
「お任せくださいませ! 私の限界詰め放題テクニックをお見せしますわ!」
俺が熱いお茶を啜り、ホッと一息ついた——その瞬間だった。
——ガッッッシャァァァァンッ!!!
突然、101号室の窓ガラスが派手な音を立てて粉砕された。
夜風と共に部屋に飛び込んできたのは、神々しい後光……ではなく、首元のヨレたえんじ色のジャージを着た、ボロボロの銀髪の女性だった。
「ひぃぃぃっ! やめて! 私、世界神よ!? この世界を創った偉い神様なんだからねっ!」
床を無様に転がりながら悲鳴を上げているのは、第3種惑星創造神格公務員であり、このアナスタシア世界の最高神・ルチアナ(自称・永遠の17歳)である。
「な、なんだ!?」
「きゃあ! ルチアナ様!?」
キャルルがトンファーを構え、リーザがモヤシのチラシを盾にして身構える。
俺はため息をつきながら、割れた窓ガラスを見やった。
「……ルチアナ様。あんた、また何を……」
俺の言葉を遮るように、割れた窓枠から、筋骨隆々の大男たちがズカズカと部屋に踏み込んできた。
全員が黒いスーツにサングラスをかけ、顔にはプロレスラーのような覆面を被っている。その手には、人を丸ごと入れられそうな特大のスーツケースと、極太のロープが握られていた。
「キャアアア! 来たぁぁぁ! ドナドナ部隊が来たぁぁぁっ!」
ルチアナが俺の背中に隠れ、ガクガクと震え出す。
彼らは、大宇宙管理局・債権回収部(通称:カスタマーハラスメント部・強制執行班)。
『エンジェルすまーとふぉん』のクレジットカード上限(百万)を使い切り、滞納を重ねた神や天使を物理的に拘束し、借金返済のために『マグローザ漁船』へと叩き込む、天界の闇の執行人たちだ。
「おいコラァ! 逃げられると思うなよ駄女神! 今月の支払い分、三十万が未納だぞ! さっさとスーツケースに入りやがれ!」
黒服天使レスラーの一人が、ドスの効いた声で怒鳴り上げる。
「無理無理無理! マグローザ漁船なんて乗ったら、私の美しい肌が潮風で荒れちゃう! ソウマ君、助けて! 五万……いや、三十万貸してぇぇぇっ!!」
ルチアナは涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、俺の足首に必死にしがみついてきた。
最高神の威厳など欠片もない。ただの借金まみれの限界コタツ部屋オバサンである。
「……あのさ」
俺は手に持っていた湯呑みをちゃぶ台にコトリと置き、立ち上がった。
黒服天使レスラーたちが、俺の存在に気づいてピタリと動きを止める。
「あ、あんたは……」
「深夜の住宅街で、窓ガラス割ってドカドカ踏み込んでくるんじゃねぇよ。ここは俺の家(絶対聖域)だぞ」
俺が低い声で睨みつけると、先ほどまでルチアナを怒鳴りつけていた屈強な黒服レスラーたちは、突然ビシッと直立不動の姿勢をとった。
「そ、相馬主任っ!? お、お疲れ様ですッ!!」
「チィーッス! 夜分遅くに失礼こきますッ!」
彼らは深々と90度のお辞儀をした。
「え?」
ルチアナが間抜けな声を上げる。キャルルとリーザもキョトンとしている。
無理もない。
俺は『カスタマーハラスメント部・巡回調停官』。現場の最前線でチート野郎を物理BANする特務執行官であり、彼ら『強制執行班』の指示を出す直属の上司(主任)なのだ。
「お前ら、ドアからインターホン鳴らして入れといつも言ってるだろ。窓ガラスの修理代、お前らの部署に請求するからな」
「も、申し訳ありません相馬主任! ルチアナ様がものすごい速度で逃亡されたもので、つい熱くなってしまい……!」
「で、滞納額はいくらだ」
「リボ払いと遅延損害金を含めて、ちょうど百十二万円になりますッ!」
「ひゃくじゅうにまん!?」
キャルルとリーザが同時に素っ頓狂な声を上げた。ポポロ村の一般農家の年収の四分の一が吹っ飛ぶ額だ。
俺は冷たい視線を、足元にすがりつく世界神へと下ろした。
「……ルチアナ様。あんた、月給二十五万でしょうが。何にそんな使ったんですか」
「だ、だって! 朝倉月人君(地球のイケメンアイドル)の福岡ドーム公演のアリーナ最前列チケットが、転売サイトでどうしても欲しくて……それに、限定の等身大抱き枕カバーも……」
「アホか」
俺は無言で、ちゃぶ台の上にあった『ルナミス新聞』を手に取り、くるくると丸めて筒状にした。
「ソ、ソウマ君!? ちょ、待って! 私、これでも世界神! この世界を管理する偉い——」
「偉かろうが神だろうが、クレカの滞納は規約違反です」
スパーーーンッ!!
「あだぁぁぁっ!?」
丸めた新聞紙のハリセンが、世界神ルチアナの脳天にクリーンヒットした。
「痛ぁっ!? ちょっとソウマ君、上司に向かって何するの! いくらなんでも神を叩くなんて——」
「上司の権威を振りかざすなら、まずは自分の借金を自分で清算してからにしてください。……おい、こいつをスーツケースに詰めろ」
「了解ですッ、主任!!」
俺の指示で、黒服レスラーたちがルチアナの両脇をガシッと掴み、軽々と持ち上げた。
「いやぁぁぁっ! マグローザ漁船嫌ぁぁぁっ! 生魚の匂いが取れなくなるぅぅぅっ! ソウマ君のケチーッ!!」
「うるさい。一ヶ月くらい漁船で重労働して、金銭感覚と性根を叩き直してこい」
手足をバタバタさせて抵抗する世界神は、そのまま特大のスーツケースの中に無理やり押し込まれそうになる。
その一部始終を見ていたキャルルとリーザは、顔を引きつらせながらも、俺を見る目が完全に『畏敬』へと変わっていた。
「ソウマ君……神様より偉いんだ……」
「創造神様が、あの黒服の方たちにドナドナされていきますわ……。ソウマ様、やっぱりこの世界で一番強いのは貴方ですのね……っ!」
二人の俺への依存度が、さらに一段階上がってしまった音がした。
「うぅぅ……ソウマ君のバカァ……! 私がいなくなったら、誰がこの世界に予算(ゴッドチューブのPV)を落とすのよぉぉ……っ!」
スーツケースの中から、ルチアナの涙声が響く。
(……チッ)
俺は、小さく舌打ちをした。
確かに、この駄女神が漁船でマグロを釣っている間、天界の管理業務がストップするのは事実だ。そうなれば、末端のカスハラ部である俺の業務(残業)がさらに増えることになりかねない。
「……待て。一時執行停止」
「ハッ!」
俺が手を上げると、黒服レスラーたちは直立不動で動きを止めた。
「三十万だ。今月の滞納分だけ、俺が立て替えてやる」
俺はスマホを操作し、大宇宙管理局の経理システム経由で、ルチアナの口座に強制送金を行った。
(もちろん、俺の月給三十万からではなく、今までチート野郎たちから巻き上げた違約金のプール口座からだ)
「えっ……? ソウマ君……?」
スーツケースから顔を出したルチアナが、信じられないものを見るように俺を見上げた。
「勘違いするな。マグローザ漁船行きを免除したわけじゃない。今月分の首の皮が繋がっただけだ。残りの八十万は、来月からあんたの給料から天引きで強制徴収するからな」
「ソウマ君……っ! ありがとう、ありがとう! やっぱり私の部下は最高よぉぉっ!」
「鼻水つけんな、汚い」
すがりつこうとするルチアナの顔面を、丸めたルナミス新聞でガードする。
「お前らも、ご苦労だった。窓ガラスの修理手配だけよろしく頼む」
「了解いたしました、主任! それでは我々はこれで失礼しますッ!」
黒服レスラーたちは一糸乱れぬ動きでお辞儀をすると、割れた窓から颯爽と夜の闇へと消えていった。
静寂が戻った101号室。
床には、安堵の涙を流してへたり込む世界神が一人。
「……で。あんた、いつまでそこにいるつもりだ?」
「うぅぅ……足の力が抜けて立てないのぉ……。ソウマ君、キャルルちゃんのお茶、私にも一杯もらえないかしら……?」
ずうずうしくも、ちゃぶ台の空いた席ににじり寄ってくる駄女神。
「はぁ……。キャルル、悪いがコップをもう一つ出してやってくれ」
「もうっ、ソウマ君は甘いんだから! 神様でも甘やかしちゃダメだよ?」
「そうですわ! ソウマ様に養ってもらえるのは、私とキャルルさんだけの特権ですのよ!」
ヤンデレ村長と底辺人魚に説教されながら、世界神ルチアナはズズッとお茶を啜り、「生き返るぅ~」と限界オバサンのような息を吐いた。
大宇宙管理局、カスハラ部・巡回調停官。
俺が管理すべき対象は、チート勇者だけではない。
俺の101号室はついに、借金まみれの最高神すら飼い慣らす(面倒を見る)、世界で最もカオスな絶対聖域へと変貌してしまった。
「あー、マジで胃が痛ぇ……」
俺のボヤきは、ちゃぶ台を囲むポンコツな彼女たちの笑い声に、あっさりと飲み込まれていった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「世界神が借金取りにドナドナされるの草」
「神より権力が上のソウマ主任、最強すぎるww」
「結局立て替えてあげるソウマ、なんだかんだ世話焼きで好き!」
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次回第8話、
『満月の夜はヤンデレの血が騒ぐ。暴走兎になった村長が、マッハ1で俺の匂いを嗅ぎに来る件』
に続きます! 今度はキャルルの種族特性が爆発!? 引き続きよろしくお願いいたします!




