底辺アイドルの路上ライブ(客:ハト3羽)。絡んできた酔っ払い傭兵を、カメラの死角でワンパンする裏方プロデューサーの件
底辺アイドルの路上ライブ(客:ハト3羽)。絡んできた酔っ払い傭兵を、カメラの死角でワンパンする裏方プロデューサーの件
ポポロ村の広場にある公園。休日の午後。
俺はベンチに腰を下ろし、タローソンで買った缶の『ポポロ・コーヒー』を飲みながら、目の前で繰り広げられるシュールな光景を眺めていた。
「聞いてくださいまし! 私のデビューシングル、『絶対無敵スパチャアイドル伝説!!』ですのっ!」
公園の片隅。
ルナミスデパートのワゴンセールで叩き売りされていた芋ジャージに、健康サンダルという完璧なド底辺スタイル。
その少女——シーラン国の元・親善大使であり、現在は101号室の居候であるリーザは、スーパーの裏から拾ってきた『ミカン箱』の上に立ち、木を削って作ったダミーのマイクを握りしめて熱唱していた。
「♪銅でもない~ 銀でもない~! 狙い打つのは真鍮のゴールド! 穴の向こうに未来が見える~っ!」
鼻に五円玉を詰めてフンッ! と発射するようなド根性サバイバル生活を送っている彼女だが、一応『人魚族』の王女である。
腐っても人魚姫。その歌声には微弱ながらも魔力が宿っており、本気で歌えば万人の心を癒し、精神を浄化するほどの力がある……はずなのだが。
(いかんせん、ビジュアルが致命的すぎるんだよなぁ)
俺は心の中でため息をついた。
芋ジャージでミカン箱の上に立ち、「スパチャよろしく!」と叫ぶ姿は、どう見ても『ヤバい電波少女』だ。通りすがりの村人たちは、奇異の目を向けて遠巻きに避けていく。
現在の観客は、彼女が先ほど「パンの耳」を巡って熾烈な縄張り争いを繰り広げていた公園のハトが三羽だけだ。
「……まぁ、本人が楽しそうだからいいか」
俺はコーヒーを啜りながら、放置の構えを見せた。
大宇宙管理局カスハラ部の仕事に追われる俺にとって、こういう平和な(?)日常風景は嫌いじゃない。
だが、平穏は長くは続かなかった。
「おいおい、なんだぁこの貧乏くさい姉ちゃんは」
「アイドルだぁ? ギャハハ! 芋ジャージでアイドル気取りかよ!」
昼間から安い酒を煽り、赤ら顔をしたガラの悪い三人組の男たちが、リーザのステージ(ミカン箱)に近づいてきた。
服装からして、他国から流れてきた粗暴な傭兵だろう。
「おい姉ちゃん、そんなミカン箱の上で歌うより、俺たちの膝の上で歌えよ。うまく腰を振れたら、銅貨三枚くらい恵んでやるぜ?」
「ゲハハハ! パンの耳よりはマシなもん食わせてやるよ!」
下品な笑い声を上げながら、傭兵の一人がミカン箱をガンッ! と足で蹴り飛ばした。
「ひゃっ!?」
バランスを崩し、ミカン箱から落ちそうになるリーザ。
彼女はガクガクと膝を震わせ、今にも泣き出しそうな顔になっていた。
当たり前だ。彼女は底辺の極貧生活を送っているとはいえ、本来は海中国家の温室で育った16歳の少女なのだ。荒くれ者に絡まれれば恐怖で縮み上がる。
(……やれやれ。客席の治安維持もプロデューサーの仕事か)
俺が空になったコーヒー缶をベンチに置き、立ち上がろうとした——その時だった。
「お、お断りですわっ!」
震える足でミカン箱の上に立ち直り、リーザはギュッとダミーマイクを握りしめて、傭兵たちをキッと睨みつけた。
「私は……いつか世界一のアイドルになる女! ファンの『時間』を奪い、彼らの『世界』そのものになりたいんですの!」
涙目になりながらも、決してミカン箱から降りようとはしない。
その青い瞳の奥には、アイドルという夢への強烈な執着と、狂気にも似た芯の強さが宿っていた。
「私のステージは……こんなところで、終わらせませんわっ!!」
(……ステージは降りない、か)
俺は、少しだけ口角を上げた。
バカみたいに真っ直ぐで、呆れるほど健気だ。
なら、俺も裏方としての仕事をきっちりこなしてやるか。
「なんだとコノヤロウ! 生意気なガキが!」
激昂した傭兵の一人が、リーザの胸ぐらを掴もうと粗末な手を伸ばした。
リーザが恐怖でギュッと両目をつぶった、その瞬間。
俺は音もなく地を蹴り、リーザの背後——彼女の視界に一切入らない死角へと滑り込んだ。
【規約執行】を使うまでもない。ただの酔っ払いだ。
俺は、リーザに伸ばされた傭兵の腕を下から軽く弾き上げ、合気柔術の要領で手首を絡め取った。
「あ?」
「……シーッ。ライブの邪魔だ」
驚く傭兵の力のベクトルのまま、手首を返し、地面へと引きずり倒す。
「がはっ!?」と悲鳴を上げる間もなく、延髄に手刀を落として一人目を瞬殺。
「なっ、てめぇ!?」
異変に気づいて振り向いた二人目の顎に、ノータイムで掌底を叩き込み、脳震盪を起こさせる。
三人目が腰の剣に手をかけようとしたが、俺はそれより早く相手の懐に踏み込み、鳩尾に鋭い膝蹴りを入れた。
「グェッ!?」
白目を剥いた三人目の襟首を掴み、そのまま公園の隅にある大型の魔導ダストボックス(ゴミ箱)へと、ハンマー投げの要領で放り投げる。
ドゴォォンッ!
鈍い音がして、気絶した傭兵三人は見事な放物線を描き、生ゴミの中にすっぽりと収まった。
時間にして、わずか三秒。
リーザが恐る恐る目を開けるよりも早く、俺は何食わぬ顔で元のベンチに戻り、足を組んで座り直した。
「……あれ?」
目を開けたリーザが、キョトンとして辺りを見回す。
目の前にいたはずのガラの悪い男たちが、神隠しにでも遭ったように消え失せているのだから当然の反応だ。
「ソ、ソウマ様? 絡んできたおじさんたちは……?」
「さあな。お前の強気な態度と歌声に恐れをなして、逃げ帰ったんじゃないか」
俺がしれっと嘘をつくと、リーザはパァァァッ! と花が咲いたように顔を輝かせた。
「ほ、本当ですか!? ついに私のアイドルとしてのオーラが、人に届くようになったんですのね!」
「まぁ、そうかもな。ハトは逃げなかったし」
「やりましたわーっ! 私、もっともっと歌います! いつか絶対、武道館を超満員にしてみせますの!」
ミカン箱の上でピョンピョンと跳ねて喜ぶリーザ。
俺が裏でゴミ掃除をしたことになど一切気づいていないが、それでいい。アイドルは、ステージの上で輝いていればそれでいいのだ。
「……あ、でもその前に」
グギュルルルルルルルルッ!!
リーザのペラペラのお腹が、またしても獰猛な魔獣のような音を立てた。
「……お腹が、空きましたわ。ハトさんの餌、少し分けてもらえませんかしら……」
「やめろ、お腹壊すぞ。……ほら、ミカン箱片付けろ。ルナキン行くぞ」
「えっ!」
「今日は唐揚げ定食だ。ご飯大盛りにしてやるから」
俺がそう告げると、リーザは芋ジャージのままミカン箱から飛び降り、ものすごい勢いで俺の足元にスライディング土下座を決めた。
「ソウマ様ぁぁぁっ! やっぱり貴方は愛と富の神様ですわぁぁっ!! 一生! 一生養ってくださいませーっ!!」
「はいはい、鼻水つけんな。行くぞ」
世界最強のカスハラ執行官の俺だが、休日くらいは、こんな底辺で健気なアイドルの『太客』になってやるのも悪くない。
「あ、ソウマ様! 食後のデザートにパフェもつけてよろしいですの!?」
「調子に乗るな」
俺の小さなツッコミは、すっかり上機嫌になったリーザの鼻唄にかき消され、公園の空へと吸い込まれていった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「カメラの死角でワンパン処理するソウマ、イケメンすぎる!」
「ミカン箱から降りないリーザ、ド底辺だけど根性は本物だ!」
「結局メシを奢って養ってやるお約束、最高!」
と、少しでもソウマの裏方プロデューサーぶりにニヤッとしていただけましたら、
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次回第7話、
『降臨、借金まみれの駄女神様。世界神ルチアナが窓を突き破って「5万貸して!」と土下座してきた件(※第4話で一部登場しましたが、ここで本格的な駄女神タカリ事件が勃発します)』
に続きます! 引き続きよろしくお願いいたします!




