不法投棄クレーマーとメビウス・インパクト。パイルバンカーで村ごと消そうとする自警団を「環境法違反」で制止する件
不法投棄クレーマーとメビウス・インパクト。パイルバンカーで村ごと消そうとする自警団を「環境法違反」で制止する件
ルチアナの乱入から数日が経ち、俺はようやく「平和な休日の午後」を迎えていた。
……と言いたいところだが、現実はそう甘くない。
「ほらほらソウマ君、あっちのタローマートで特売やってるよ! 夕飯の買い出しに行こっ!」
「ソウマ様! 試食コーナーにロックバイソンのサイコロステーキが出ておりますわ! 急がないと無くなってしまいますの!」
ポポロ村のメインストリート。
俺の両腕には、ヤンデレ村長のキャルルと、底辺人魚アイドルのリーザがしっかりと絡みついていた。
休日の俺は、完全に彼女たちの『財布兼荷物持ち』として機能させられている。
「お前らなぁ……俺はただ、ルナキン(ファミレス)で静かにコーヒーを飲みたかっただけなんだぞ」
「ダメだよ! 休日にお部屋やファミレスに引きこもってたら不健康だもん! 一緒にお散歩して、光合成しないと!」
「そうですわ! ソウマ様のお金で食べるステーキは、世界で一番美味しいんですの!」
キャルルは正妻ヅラで俺の腕に胸を押し付けてきているし、リーザに至っては悪びれもせずに俺の財布をアテにしている。
ため息をつきながら歩いていると、ふと、村の外れ——アバロン魔皇国との国境に近い緩衝地帯の方角から、けたたましいサイレンの音が鳴り響いた。
『緊急事態発生! 緊急事態発生! 第3区画の境界線にて、不法投棄クレーマーが暴れています! 自警団、至急現場へ向かってください!』
「ん? 不法投棄?」
俺が眉をひそめると、キャルルが村長の顔つきに戻ってウサギの耳をピンと立てた。
「またアバロン側のならず者ね。最近、魔皇国の治安の悪い連中が、ポポロ村の結界のギリギリ外側で、有害な魔術廃棄物を捨てていく嫌がらせが多発してるのよ」
「嫌がらせねぇ……」
カスハラ執行官として、その手のトラブルは見過ごせない。
買い物袋をキャルルに押し付け、俺はサイレンの鳴る現場へと足を向けた。
◆ ◆ ◆
現場に到着すると、異臭が立ち込めていた。
村の境界線に広がる草原に、真っ黒なヘドロのような汚染物質が山のようにぶちまけられている。
「ガハハハハ! いいぞぉ『ダストゴーレム』! もっと魔皇国のゴミをこの村に撒き散らしてやれぇ!」
下品な笑い声を上げていたのは、モヒカン頭の魔族のテイマーだった。
その後ろには、体長十メートルを超える泥とガレキの塊——S級魔獣『ダストゴーレム』が、ズシンズシンと足音を立てながら、有害なヘドロを吐き出し続けている。
「おいおい、S級魔獣だぞあれ……」
「テイマーの野郎、あんなのを使って嫌がらせを……っ!」
駆けつけた村の自警団員たちが、魔導ライフルを構えながらも、あまりの巨体に足止めを食らっていた。
「どきなさいっ! 私が消し飛ばしますっ!!」
そこに、地響きを立てて突進してくる一つの影があった。
ポポロ村自警団リーダーにして、元・正規騎士団長のマンミア(25歳・恋人いない歴=年齢)である。
彼女は『ケンタウロス種』の女性で、上半身は凛々しい美人だが、下半身は筋骨隆々な馬の姿をしている。
その右腕には、攻防一体の超重量級兵装——パイルバンカー式刺突型シールド『アグニ』が装備されていた。
「ポポロ村の美しき大地を汚す外道……っ! 騎士道に代わって、このマンミアがチリひとつ残さず粉砕してくれますっ!!」
マンミアは完全にブチ切れていた。
左手に持った分銅付きの拘束鎖『メビウス』を振り回し、周囲にある巨大な岩石を次々と巻き込んでは、ダストゴーレムに向かって投げつける。
ドゴォォォンッ!!
「メビウス・インパクトォォォッ!!」
凄まじい馬力(数十馬力)から放たれる岩石の弾丸が、ダストゴーレムの体を抉る。
だが、泥の化け物であるダストゴーレムは痛痒を感じず、すぐにヘドロで傷を再生してしまった。
「チィッ……ならば、チャージしてゼロ距離から貫くまでっ! アグニ、リミッター解除! 最大出力で村ごとこの一帯の汚染を焼き尽くしますっ!!」
マンミアの右腕のパイルバンカーが、危険な赤い光を放ち始めた。
シリンダーが高速回転し、周囲の魔力を急激に吸い込んでいく。あれを放てばダストゴーレムは粉砕できるだろうが、間違いなくポポロ村の第3区画ごと地図から消滅する。
「アホかあいつは」
俺は舌打ちを一つすると、タローマン製の革靴で地面を蹴り、一気にマンミアの背後へと肉薄した。
「喰らえぇぇぇっ! アグニィィ——」
「落ち着け、馬鹿者」
トンッ。
俺は跳躍し、マンミアの広い背中——つまり、ケンタウロスの馬の背部分にひらりと跨った。
そして、暴走寸前だった彼女の首根っこを掴み、パイルバンカーの駆動部に合気の要領で軽く手刀を落とした。
ガキンッ、と駆動部が強制停止し、充填されていた魔力が霧散する。
「あ、あれ……? 力が抜……って、ひゃああああっ!?」
マンミアは背中に人間が乗っていることに気づき、顔を真っ赤にしてパニックを起こした。
「だ、だだだ、男性がっ!? 私の背中に乗っているぅぅっ!? 私、将来の旦那様以外は絶対に乗せないと心に誓っていたのにぃぃっ!」
「悪いが、村ごと消し飛ばされたら、被害総額の計算と始末書で俺の残業時間がカンストするんだよ。大人しくしてろ」
俺はマンミアの背中からヒョイと飛び降りると、高笑いしているモヒカンのテイマーと、S級魔獣ダストゴーレムの前に歩み出た。
「あぁん? なんだテメェ? 自警団の増援か? モブがS級魔獣に勝てるわけ——」
「大宇宙管理局カスハラ部、特務執行官の相馬だ。——当世界線の環境保全法第12条、『不当な有害物質の投棄による生態系破壊』に該当」
俺はスマホをタップし、冷徹に宣告する。
「お前らの能力は、これより三十分間、強制執行停止(アカウント凍結)とする」
シュンッ。
【規約執行】が発動した瞬間、テイマーを覆っていた魔力障壁が消滅し、ダストゴーレムを形作っていた魔力結合がプツンと途切れた。
「え? あ、あれ? ゴーレムが動か——」
俺は一歩踏み込み、右拳をダストゴーレムの巨大な胴体へと深々と突き入れた。
——ドゴォォォォォンッ!!
魔法も闘気もない、ただの物理的な『正拳突き』。
だが、違約金という名の絶対的なカウンターダメージを上乗せされたその一撃は、十メートルの巨体を一瞬にして内部から爆散させた。
汚染物質ではなく、ただの乾いた砂と石ころになって、サラサラと崩れ落ちていく。
「ひぃぃぃっ!? S、S級魔獣がワンパンで……!?」
「次はお前だ、環境汚染野郎」
腰を抜かしたテイマーの胸ぐらを掴み、俺は容赦なく地面に顔面を叩きつけた。
「グェッ!?」
「不法投棄の違約金は高くつくぞ。……おーい、ニャングル」
俺が声をかけると、いつの間にか現場に現れていた猫耳の守銭奴——ニャングルが、魔導算盤をパチパチと弾きながらニチャァと笑って近づいてきた。
「見事な手際ですわ、相馬はん。こいつら、村の『メロロン農園』の強制労働施設に放り込みまっさ。メロロンの甘い声に精神を削られながら、一生タダ働きで賠償金払ってもらいますわ」
「頼む。俺のメシの時間を邪魔する奴には、それくらいがお似合いだ」
事態はわずか三分で解決した。
村を吹き飛ばすことなく、不法投棄のクレーマーを処理することに成功した俺は、スーツについた砂埃を払いながら、マンミアの方を振り返った。
「マンミア。お前、正義感が強いのはいいが、周りの被害状況をもう少し——」
俺が説教しようと言葉を切った時。
マンミアは、顔を茹でダコのように真っ赤にし、両手で頬を押さえながら、モジモジと馬の足を交差させていた。
「あ、あのっ……ソウマ殿……っ」
「ん?」
「その……わ、私の背中……乗り心地は、いかがでしたか……?」
「は?」
「もしよろしければ……非番の日に、もう一度……ゆっくりと、二人きりで乗ってみませんか……っ!? 私、すごく安産型って言われますしっ!」
乙女モード全開で暴走するケンタウロスの騎士。
そこに、背後からものすごい殺気を放つ二つの影が迫ってきた。
「ちょっとマンミアさん!? ソウマ君の背中に乗るのは(おんぶ)、私の特権なんだからねっ!」
「そうですわ! ソウマ様は私のスポンサー(お財布)ですのよ! 泥棒ケンタウロス!」
キャルルがトンファーを構え、リーザが威嚇するように(?)パンの耳を振り回している。
「……あーあ。また面倒なのが増えた」
大宇宙管理局の特務執行官の仕事は、理不尽なクレーマーを物理BANすることだ。
だが、この村で増え続ける『俺への巨大な好意』だけは、どんなチートスキルでも処理しきれないらしい。
「お前ら、喧嘩するなら俺は帰って寝るぞ」
俺の呆れたようなため息は、やかましい女子三人の言い争いの中へと吸い込まれていった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「S級魔獣もワンパンの公務員、圧倒的すぎる!」
「パイルバンカーで村ごと消そうとする自警団ww」
「マンミアさん、乙女モード突入でヒロイン争いがカオスに!」
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次回第6話、
『底辺アイドルの路上ライブ(客:ハト3羽)。絡んできた酔っ払い傭兵を、カメラの死角でワンパンする裏方プロデューサーの件』
に続きます! 引き続きよろしくお願いいたします!




