世界神ルチアナが降臨。創造神がジャージ姿で「5万貸して!」と土下座してきた件
世界神ルチアナが降臨。創造神がジャージ姿で「5万貸して!」と土下座してきた件
昨夜、リーザの『風呂場での肉椎茸栽培事件』を処理し、彼女たちにファミレスでハンバーグを奢って帰宅したのは、空が白み始めた頃だった。
当然、大宇宙管理局の激務と相まって、俺の疲労はピークに達していた。
今日は貴重な休日。
昼過ぎまで泥のように眠る。誰が何と言おうと、絶対にベッドから出ない。
そう固く心に誓い、アイマスクと耳栓を完全装備して眠りについたのだが——。
「ソウマ君、朝ご飯できたよっ! 今日は特製のサンライス(米麦草)おにぎりとお味噌汁だよ!」
「ソウマ様ぁ……このおにぎり、パンの耳とは比べ物にならないくらいふっくらしてて美味しいですわぁ……(もぐもぐ)」
午前十時。
俺の汚部屋——もとい、すっかり綺麗に清掃された101号室のちゃぶ台を囲んで、なぜかヤンデレ村長と底辺人魚アイドル(リーザ)が、我が物顔で朝食会を開いていた。
「……お前ら、なんでナチュラルに俺の休日の朝の空間に溶け込んでるの」
俺はベッドから身を起こし、アイマスクを頭に乗せたまま、低い声でツッコミを入れた。
「だって、合鍵持ってるもん!」
と、エプロン姿のキャルルが悪びれもせずにVサインを作る。
「ソウマ様がお寝坊さんでしたので、先にいただいておりましたの! あ、私、お味噌汁おかわりで!」
と、芋ジャージ姿のリーザが空のお椀を差し出す。
俺の絶対聖域だったはずの101号室は、たった数日で完全に彼女たちの『実家』へと変貌を遂げていた。
ため息をつきながらベッドから這い出し、洗面所で顔を洗う。
ちゃぶ台の席に着くと、キャルルが嬉しそうに俺の前に温かいお茶とおにぎりを並べた。
「はい、あーんして?」
「手があるから自分で食う。……まぁ、美味いけど」
出来立てのおにぎりを頬張りながら、俺は考える。
もう、合鍵を没収するのは諦めよう。どうせあの手この手でまた錬成されるだけだ。それに、食事の準備をしてくれること自体は(俺の食費と家計が圧迫されることを除けば)悪い気はしない。
「ソウマ様、今日はお休みですの? でしたら、ルナミスパーラー(パチンコ屋)の落ちてる銀玉拾いに行きませんか!?」
「行かねぇよ。俺は一日中、ここでゴロゴロして体力を回復するんだ」
俺がそう宣言し、お茶をすすろうとした——まさにその瞬間だった。
——ピシャァァァァァァンッ!!!
突然、天井から神々しい黄金の光が降り注いだ。
天使のコーラスのような神聖なBGMが脳内に直接響き渡り、空間がグニャリと歪む。
「な、なんだ!?」
キャルルが即座に立ち上がり、トンファーを構える。リーザはおにぎりを死守しながらちゃぶ台の下に潜り込んだ。
そして、眩い光の渦の中から、一人の女性が神々しく降臨した。
『我はアナスタシア世界を創造せし者。第3種惑星創造神格公務員、世界神ルチアナなり……』
透き通るような銀髪。宇宙の真理を宿したような神秘的な瞳。
この世界の全てを司る、文字通りの『最高神』である。
ただし。
「いっっっだぁぁぁ! 着地ミスったぁぁぁ!! 足の小指ぶつけたぁぁぁっ!!」
神聖なコーラスをぶち壊すようなダミ声と共に、世界神ルチアナはフローリングの上を盛大に転げ回った。
彼女の服装は、神々しいドレス——などではない。
首元がヨレヨレになったえんじ色のジャージ。足元は健康サンダル。口には『ピアニッシモ・メンソール』を咥え、髪は寝起きのようにはねている。
どこからどう見ても、休日のパチンコ屋にいそうな『限界コタツ部屋オバサン(自称・永遠の17歳)』であった。
「……ルチアナ様。なんで俺の部屋の座標に直接ワープしてきてるんですか。天井の結界、後で経費で直しておいてくださいよ」
俺が冷たい視線で見下ろすと、ルチアナは涙目で足の小指を押さえながら、俺の足元へとすがりついてきた。
「ソウマ君っ! 助けて! お願い、五万! いや三万でもいいから貸してぇぇぇっ!!」
世界を創りし最高神による、渾身の土下座であった。
「……は?」
「今月ヤバいの! マジでヤバいの! エンジェルすまーとふぉんのクレカ上限(百万)まで使い切っちゃって、今月末の引き落としがショートしそうなの!」
「あんた、また地球のソシャゲで天井まで回したんですか?」
「ち、違うもん! 今回は『朝倉月人(地球のイケメンアイドル)』の全国ツアー全通チケットと、限定アクリルスタンドのコンプセットに突っ込んだだけだもん!」
俺は無言で、手元にあった『ルナミス新聞』を丸めて筒状にした。
そして。
スパーーーンッ!!
「あだっ!?」
丸めた新聞紙のハリセンが、世界神の脳天にクリーンヒットする。
「痛ぁっ!? ちょっとソウマ君、上司に向かって何するの!?」
「上司だろうが神だろうが関係ありません。だいたい、あんたの月給二十五万でしょうが。なんで百万も使ってるんですか」
「だって! 推し活は命の洗濯じゃん! ソウマ君だって月給三十万(カスハラ手当込み)ももらってるんだから、ちょっとくらい先輩を助けてくれたっていいでしょ!?」
ルチアナが逆ギレ気味に言い放つ。
この女神、俺の給与明細を見るたびに「生意気だ!」と絡んでくるのだ。
「俺は毎日、あんたが適当にばら撒いたチート能力者の尻拭いで命削って手当てを稼いでるんですよ。自業自得だ、帰れ」
「うぅぅ……冷たい! 冷たすぎる! こうなったら、上司の権限(神威)で強制的に従わせるまでよ……!」
ルチアナがギリッと歯を食いしばり、彼女の全身から凄まじい『神気』が立ち上り始めた。
空間が震え、キャルルとリーザが息を呑む。腐っても世界神。本気を出せば、惑星の一つや二つ、一瞬で消し飛ばせる力を持っている。
「ひざまずきなさい、ソウマ一臣! 神の絶対命令——」
「当世界線の就業規則第8条、『職務上の優越的な地位を背景とした不当な業務強要』に該当」
俺はスマホをタップし、極めて事務的に宣言した。
ユニークスキル【規約執行】発動。
シュンッ。
「えっ」
ルチアナから放たれていた圧倒的な神気が、コンセントを抜かれた家電のように一瞬で消滅した。
「ちょ、え!? 神威が、凍結……っ!?」
「神様だろうがなんだろうが、パワハラはコンプラ違反です。……ほら、歯ぁ食いしばれ」
俺は、神気を失いただのジャージ女となったルチアナの腕を掴み、流れるような合気の動作で彼女の体をひっくり返すと、そのまま背中側に腕を極めた。
「いっ、あだだだだ! 折れる! 腕折れるぅぅぅっ!!」
「次から給料の前借りは、大宇宙管理局の経理部に正規のフォーマットで申請書を出してください。俺の部屋に土足でワープしてくるのは家宅侵入です。分かりましたね?」
「わ、分かりましたぁぁぁ! 申請書書きますぅぅぅっ!!」
俺が手を離すと、ルチアナは涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、床で丸くうずくまった。
「うぅ……神なのに……私、世界神なのに……ただの公務員(人間)に腕ひしぎ決められるなんて……ぐすっ」
「泣くな、みっともない。……金は絶対に貸しませんが、朝飯の残りくらいなら食わせてやりますよ」
俺が呆れながらそう言うと、ルチアナはハッと顔を上げ、犬のように尻尾を振る(幻覚が見える)勢いで頷いた。
「食べるっ! 私、キャルルちゃんのおにぎり大好きっ!」
「……調子のいい駄女神だこと」
やれやれと肩をすくめる俺の横で。
キャルルは「神様までソウマ君に甘えてる……っ! ライバル多すぎ!?」とトンファーを握りしめて警戒し、
リーザは「私より偉い神様が、私よりひどい扱いを受けてますわ……」と、畏敬の念が完全に崩れ去った顔で呆然としていた。
大宇宙管理局、カスハラ部・巡回調停官。
俺が管理すべき対象は、どうやら厄介なチート勇者だけではないらしい。
「……あーあ。俺の休日の平穏は、どこに消えたんだか」
101号室のちゃぶ台に、ジャージ姿の世界神が加わった。
カオス極まる異世界社宅の朝は、今日も賑やかに(そして胃を痛めながら)更けていくのだった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「世界神(創造神)なのに扱いが雑すぎるww」
「パワハラを規約違反で物理BANする公務員、強すぎる!」
「このアパート、どんどん魔境になっていくな……」
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次回第5話、
『不法投棄クレーマー襲来。パイルバンカーで村ごと消そうとする自警団を「環境法違反」で制止する件』
に続きます! 101号室の外でもソウマの胃痛は止まらない! 引き続きよろしくお願いいたします!




