合鍵を勝手に錬成するヤンデレ村長が、俺の汚部屋をピカピカにして待っていた件
合鍵を勝手に錬成するヤンデレ村長が、俺の汚部屋をピカピカにして待っていた件
深夜のポポロ村は、しんと静まり返っている。
大宇宙管理局の巡回調停官としてのイレギュラー業務――主にチートを勘違いしたバカの物理BAN――を終え、俺は重い足取りで帰路についていた。
時刻は午前三時を回ろうとしている。
「あー、疲れた。マジで労基署に駆け込みたい……いや、俺がその監査側か」
ボヤきながらたどり着いたのは、村の端に建つ木造二階建てのアパート『ポポロ・コーポ』。
その101号室が、俺に割り当てられた社宅だ。
俺の部屋の惨状は、控えめに言って「スラム街の路地裏」である。
脱ぎ捨てたスーツ、通販で買ったよくわからない健康グッズの段ボール、未開封の書類の山。足の踏み場もない汚部屋だが、仕事で神経をすり減らしている俺にとっては、その無秩序さこそが「誰の干渉も受けない平和な絶対聖域」の証だった。
「とりあえず、泥みたいに眠ろう……」
鍵穴にキーを差し込み、ガチャリと回す。
重いドアを押し開け、見慣れた暗闇と散らかった床を想像して足を踏み入れた瞬間――俺は、自分の目を疑った。
「……は?」
そこには、見知らぬ空間が広がっていた。
床を埋め尽くしていた段ボールはミリ単位のズレもなく壁際に整頓され、脱ぎ捨てた服は綺麗に畳まれ、ハンガーに吊るされている。
フローリングはワックスをかけたようにピカピカに磨き上げられ、淀んでいた空気は、どこからか漂ってくる出汁の効いた優しい香りに上書きされていた。
「おかえりなさい、ソウマ君っ!」
パタパタと軽快な足音と共に、キッチンから一人の少女が顔を出した。
動きやすい現代風のラフな服装に、フリルのついたエプロン姿。足元には『タローマン』で買った特注の安全靴を履いている。
頭にはピンと立ったウサギの耳があり、俺の顔を見るなり嬉しそうにピコピコと揺れていた。手には人参柄の可愛らしい刺繍が入ったお玉を握っている。
キャルル・ムーンハート。
御年20歳。元レオンハート獣人王国の第三姫君にして、現在はここポポロ村の村長を務める月兎族の少女である。
「……えっと、キャルル。なんでお前が俺の部屋にいるんだ?」
「ふふっ、お掃除しに来たんだよ♡ ソウマ君、最近ずっと残業続きだったでしょ? 部屋が荒れてると心も荒れちゃうからね!」
満面の笑みで答えるキャルル。
確かに彼女の言う通り、部屋は完璧に清掃されている。だが、問題はそこではない。
「いや、俺は確実に出がけに鍵をかけたはずなんだが」
「うん! だから鍵を開けて入ったよ!」
「……どうやって?」
「この前、ソウマ君が鍵をテーブルに置いた時にチラッと見てね。ポポロ村の鍛冶工房で、記憶を頼りに合鍵を錬成(手作り)してきたの! ほら!」
キャルルはエプロンのポケットから、見事に精巧な真鍮のスペアキーを取り出してチャリンと鳴らした。
「……それ、犯罪界隈では『ピッキング』か『住居侵入』って言うんだけど」
「ええっ!? 違うよ、これは『愛』と『内助の功』って言うんだよ! 私、ソウマ君の心音が聞こえるから、ウソをついてないってわかるでしょ?」
月兎族の鋭い聴覚で、彼女は他人の心音から感情を読み取ることができる。
確かに彼女の鼓動からは、微塵の悪意も罪悪感も感じられない。ただ純度100%の「ソウマの世話を焼きたい」という重すぎる愛情だけが痛いほど伝わってくる。
俺のユニークスキル【規約執行】は、「理不尽な悪意」や「規約違反」に対してはチートすら無効化する絶対の威力を誇るが――こういう、純粋な善意と愛情の塊(ただし行動がヤバい)に対しては発動しない。
いや、発動できたとしても、こんな嬉しそうに尻尾を振っている彼女の関節を極めることなんてできるわけがない。
「はぁ……。お前なぁ、一国の元姫君で、今の村長だろ? こんな深夜に男の独り暮らしの部屋に上がり込むなんて……」
「ソウマ君の部屋だからいいの! それに私、ソウマ君以外の男の人なんて興味ないし」
キャルルは俺の言葉を遮り、エプロンのポケットからキャンディを取り出して、俺の手のひらにコロンと乗せた。
甘い匂いが鼻をくすぐる。彼女はよく、こうして村の子供たちを飴玉で手懐けているのだ。まさか俺も同列に扱われているのだろうか。
「それにね……ソウマ君の心音、すごく疲れてる音がしてたから。ルナキンでモンスタークレーマーの処理をしてきたんでしょ?」
「……まぁな」
「だから、温かいお夜食を作って待ってたの。お風呂も沸いてるよ? ご飯にする? それともお風呂? それとも……」
「ご飯でお願いします」
俺が即答すると、キャルルは「むぅ」と少しだけ頬を膨らませたが、すぐにパッと花が咲いたような笑顔に戻った。
「ふふっ、了解! 今日はソウマ君が好きな『人参マンドラの特製ポトフ』と『月見大根のサラダ』だよ! 太陽芋もホクホクに煮込んであるからね!」
促されるままに、ピカピカになったちゃぶ台の前に座る。
出されたポトフを一口すすると、野菜の甘みと肉の出汁が体に染み渡り、疲労しきった内臓がじんわりと温められていくのを感じた。
美味い。悔しいほどに美味い。
ルナキンのジャンクな味も嫌いじゃないが、こういう手間暇かけられた家庭的な味には、男の胃袋を無条件で降伏させる暴力的な力がある。
「……美味しい?」
「あぁ。最高に美味い。五臓六腑に染み渡る。……ありがとうな、キャルル」
俺が素直に礼を言うと、キャルルは顔を真っ赤にして、ウサギの耳をバタバタと激しく揺らした。
「えへへ……よかったぁ。ソウマ君に『美味しい』って言ってもらえるのが、私の一番の幸せだから……」
その熱を帯びた瞳には、明らかに「村長と住民」の枠を越えた、重くて甘い執着が渦巻いている。
大宇宙管理局のカスハラ執行官として、世界神すら震え上がらせる俺の汚部屋(絶対聖域)は、こうしてヤンデレ気味な美少女によって、あっさりと物理的・精神的に侵略されてしまった。
「……次からは、来る時はちゃんと連絡しろよ。合鍵は……まぁ、預けといてやるから」
「ほんと!? やったぁ! じゃあ明日も明後日も、毎朝ご飯作りに来るねっ!」
「いや、毎日は重いわ。俺のプライバシーどこ行った」
ツッコミを入れながらも、俺の口元はどうしようもなく緩んでいた。
世界を滅ぼすチート野郎はワンパンできても、この村長の押し掛け女房ムーブにはどうにも勝てそうにない。
(まあ、たまには……こういうのも悪くないか)
温かいポトフを平らげながら、俺は小さく息をついた。
しかし、俺のこの「甘い判断」が、101号室をさらなる魔境へと変貌させる引き金になることになるとは、この時の俺は知る由もなかったのだ。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「敵には容赦ないのに、キャルルの重い愛にはタジタジな主人公、いいぞ!」
「合鍵錬成するヤンデレ村長、可愛すぎる!」
「胃袋を掴まれて絆されるソウマが好き!」
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次回第3話、
『俺の部屋の風呂場で、底辺人魚アイドルが「肉椎茸」を栽培していた件』
に続きます! 101号室のカオスは止まらない!? 引き続きよろしくお願いいたします!




