第26話 そこにあるもの
夜。
静か。
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主人公
「……」
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ベッドの上。
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少しだけ迷う。
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視線。
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部屋の入り口。
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例の場所。
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主人公
「……今日、行くか」
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立ち上がる。
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電気はつけない。
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そのまま近づく。
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猫
すぐ後ろにいる。
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主人公
「来るんだ」
猫
無言。
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一歩。
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問題ない。
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もう一歩。
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止まる。
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主人公
「……」
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特に何もない。
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主人公
「ほら、何も——」
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その時。
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猫
すっと前に出る。
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ぴたっ
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あの位置で止まる。
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主人公
「……やっぱここ?」
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猫
動かない。
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主人公
「何があるの」
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猫
ゆっくり
床を見る。
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主人公も見る。
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暗い。
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よく見えない。
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主人公
「……電気つける」
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スイッチ。
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明かりがつく。
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床。
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何もない。
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でも——
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主人公
「……これ」
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うっすら。
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床に
細い線。
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傷。
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ほんの少しだけ
引っかいたような跡。
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主人公
「こんなのあった?」
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猫
無言。
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その線の手前で
止まっている。
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主人公
「……ここから?」
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一歩、踏み出そうとする。
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猫
ぴたっ
前に出る。
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主人公の足を止める。
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主人公
「え」
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猫
小さく
「……にゃ」
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主人公
「……ダメ?」
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猫
動かない。
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少し間。
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主人公
「……わかった」
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一歩、引く。
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猫
少しだけ力を抜く。
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主人公
「そこまでなんだ」
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猫
無言。
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でも
線の向こうは見ない。
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主人公
「……ただの傷でしょ」
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猫
反応しない。
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主人公
「なのに行かないんだ」
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猫
「…にゃ」
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主人公
「行かないんじゃなくて——」
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少し間。
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主人公
「行かせない、か」
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猫
無言。
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でも
その位置から動かない。
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しばらくして
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主人公
「……もういいや」
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ベッドに戻る。
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猫
ついてくる。
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ベッド。
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猫
いつもより近い。
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ぴたっ
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主人公
「……今日は近いね」
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猫
動かない。
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主人公
「さっきの代わり?」
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猫
「…にゃ」
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しばらくして
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主人公
「ねえ」
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猫
ぴく
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主人公
「こういう時くらい——」
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猫
ぴたっ
動きが止まる。
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主人公
「……名前」
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一瞬。
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猫
すっと離れる。
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主人公
「そこは絶対なんだ」
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猫
無言。
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でも
また少しだけ戻ってくる。
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主人公
「……不思議だね」
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猫
「…にゃ」
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結局
あの場所にはただの傷があるだけだった。
でも
この猫はそこを越えないし、越えさせない。
そして
それがどういう意味かは、やっぱり教えてくれない。
ただ
名前だけは、それよりも優先して拒否されるらしい。




