クリス……。そいつはもう……アンデッドになるしかないな!
鍔迫り合いの間合いで、フレッドが憎々し気に言う。
「舐めやがって……!」
「いやいや?なかなか人間にしては筋がいい。根性もある。ますます惜しいぞ、弟よ」
フレッドが驚いて目を見張らせた。
「人間にしては……⁈もしかして、てめえ、魔族か⁉」
「ご名答。そして俺の名はダスク。洗礼名はエルバだ。お前の生き別れの兄という設定でもある」
「な……!いや、ありえねえ!魔族はエルバドルフには入れないはずだ!」
「そいつを俺は克服してここにいる」
フレッドは忌々しそうに舌打ちをした。
「まともに答えるつもりはねえってか……!だったら、なんで邪魔をする⁉魔族だったら、封印を解いて魔神を復活させたいんだろ⁉」
「それは乱暴な意見だ。確かに俺はエルバラースを狙っている。が、魔神を復活させたいわけじゃない」
フレッドが俺の剣を押しのけて、距離を取る。混乱したように頭をむしゃくしゃと掻いた。
「ちっ!わけがわかんねえ!」
「俺もお前のことが分からない。だが、兄弟喧嘩だと思って俺は付き合ってやるぞ、弟よ。一応止める側の立場としてな」
「弟、弟うるせえんだよ!ああ、くそっ!考えて見りゃあ、何もこいつに付き合う必要はねえんだ!」
フレッドは仲間の男からクリスをひったくると、クリスの喉元に剣を突き付けて俺を脅す。
「おい!動くなよ!こっちには人質がいるんだ!」
「ひっ!お、おじさん……!」
「クリス!」
「少年……」
クリスが涙目で俺に助けを求める。
俺は色々と考えた。いっぱい考えた。苛めぬかれた脳を一秒ばかり真面目に働かせて――
「スケルトンとゾンビとレイス、何がいい?」
「諦めないでよおおおおおおおおおおっ‼」
俺は自分のできることとできないことは弁えているつもりだ。俺はレックスみたいに意味不明な力もないし、他の仲間のように知恵もなければ強さもない。この状況で生きたままクリスを救うことは……無理だった。
大丈夫。この世に未練があればやり直せる。こう見えてもそこそこの死霊術師なのだ。
「死は恐ろしいものだ。だが、俺は思う。死んでもいいんだ。そう思えばなんだってできる。そうは思わないか?」
「思わない!思わないよ⁈」
「そうか、俺はここ最近ずっと死にそうな気持になったが、さっき克服したんだ。今なら何でもできそうな気がする」
「おじさんの話はどうでもいいから!今、俺は人質なの‼分かる⁉」
「ああ、分かる。死ぬんだろ、お前?」
「⁈死にたくない!死にたくないよおおおっ‼」
魂の絶叫だった。これほど死にたくない気持ちが伝わったのは初めてかもしれない。俺はせめてもの思いで誠実に慰めた。
「大丈夫だ。アンデッドになればこき使ってやる。いいだろ?」
「おじさん⁈本気で言ってないよね?嘘だよね?」
「なあ、少年。この目が嘘に見えるか?」
俺はクリスの目をまっすぐ見た。かつてなく少年は俺の目を必死に覗いて、
「わ、わかんないよおおおお、おじさん……!」
「ははははははは」
あまりに情けない声に俺は笑った。
フレッドは呆けたようにドン引きした。
「これが魔族……⁈いかれてやがる……!こいつの頭どうなってんだ?」
酷い言いようだった。エルバラースを抜いて自ら滅びの道を歩もうとする人間よりよっぽどましだと思うのだが。
「なあ、フレッド。俺の弟よ。俺にとって単なる死は大した話じゃあない。このままお前と少年を殺して、ゾンビでもスケルトンでもしてやる。気に喰わないなら、好みの人形に憑依させてもいい。面倒だが……仕方ない。俺はそのあたりの融通は利かせるタイプだ」
とうとうシェリーが我慢ならないと口を挟んだ。
「本気ですか⁈あの子の恩を忘れたわけじゃないでしょう⁉」
もしかして、エルバドルフに着いたときのことを言っているのだろうか。だとしたらそれは何の問題もない。
「もうすでにきっちり貸し借りゼロだ。多分俺の方が損しているくらいだ。というかそもそもエルバラースとクリスの命どっちが大事か言うまでもない。別に俺は殺して終わらせるつもりはねえぜ。ちゃんと蘇らせてやるさ。アンデッドとして」
シェリーが絶句する。
「悪、魔……!」
「うわああああああああああんっ‼」
クリスがぐずぐずに泣き始めた。シェリーが俺を攻撃対象として認識し始めたのか、睨む目には殺意が籠っているような気がした。心持ちメイスを握る力も強くなっているような……。
状況がいい感じに混沌としてきたが、いかん。このままでは俺がごついメイスで頭を叩き潰されてしまう。
「いやいやいや!まあ、待て。殺すと言ったのは言葉の綾だ。――おい、フレッド!今ならまだ間に合う!考え直せ!俺はお前を殺したくはない!」
「はあ⁈適当ほざいてんじゃねえぞ⁉――くそっ、泣くな!ガキっ!ただでさえ、ややこしいことになっているってのによおっ‼」
「ダスク・サリバン。あなたを見損ないました。少しでもあなたを認めた私が馬鹿だったようです」
「えっぐ、えっぐ、ああああああああっ‼」
「かしらああああああああああっ‼」
「なんということだ……!私はどうすれば……!」
最後のハスケルの言葉にすごい共感しそうになってしまった。
――けど、なんか面白そうだから、もう少し成り行きに任せようかな。
ただ、それは油断だったかもしれない。
ふと日の光が陰る。空を見上げれば黒く分厚い雲が覆い始めていた。
この辺のギャグ、結構ダスクらしさが出ていて好きです。弱い者いじめしているときが一番生き生きしていますね。ただ、主人公としてはどうかと思いますが。




