友
GA文庫大賞に応募した内容から少し修正して投稿します。
おおよそ一巻分の内容になります。
ある種俺たちの冒険はこれからだ、見たいな終わり方になりますが、一巻分としては切りよく終わると思います。
ご興味あればよろしくお願いいたします。
GA文庫様から評価いただいた内容踏まえた反省はすべて投降後、記載して残そうと思います。
投稿は不定期ですので、よろしくお願いいたします。
――神はいるのか。
かつて千年前に分かりやすく善と悪に別れ、二柱の神は互いに争ったらしい。善に立つ神の名は竜神エルバ。一方、悪に立つ神は魔神シラ・メレガモンという名であった。
竜神エルバは千年前の当時、この世全てを破壊し尽くさんとした魔神シラ・メレガモンの非道を止めるために立ち上がった。しかし、魔神の力は強大だった。竜神エルバを始めとした人々の抵抗があってなお、世界の六割を不毛の大地に変えた。
神々の争いは終わりが見えなかった。その争いの痕にはいつも凄惨な地獄が生まれた。疲弊していく人々を前に竜神エルバは、覚悟を決め、一か八かの策に打って出ることにした。
その策は、竜神エルバが自身もろとも魔神の封印を行う、というものだった。
封印は困難を極めた。しかし、多くの助けと犠牲の上で成功し、今に至る千年の平和を築くことができた。
そういう伝説だ。その真偽を確かめる術を千年後の今の人々は持ちようがない。出所の分からない文献とこの世界に残る大地の傷跡がその証拠だと信じることが限界だ。
正直に言おう。俺は神の存在を信じてはいなかった。正確にいえば、興味がなかった。今この時点で直接恩恵や被害があればまだしも、このご時世では祈りか恐れの象徴に過ぎないという認識だったのだ。
――今思えば、だ。その認識は無知であるがゆえの幸せだったのかもしれない。
千年前の封印から僅かに逃れた魔神シラ・メレガモンの残滓が眠る『常闇の神殿』。魔界の最果てで何者かによって密かに祀られ、いつのまにか存在を忘れられたその神殿は、生物はおろか草木一つない荒廃した大地で招かれざる客人を迎えていた。
「……!」
俺は異様な気配に息をのんだ。
神殿の外観は千年もの年月によってそこかしこが崩れ落ち、神殿の体を成していない。古の建造物はかつての原型を失い、瓦礫の山ばかりが目立つ荒廃した光景だった。
そう。見た目に限って言えば、ただの荒れ果てた遺跡に過ぎない。だが、入り口から立ち込める瘴気は過去見たことがないほど強い呪いを帯びていた。
千年の時は魔神の力を回復させるには十分だったということか。魔神の本体ははるか遠くの人間の地で封印され、ここにあるのは論じるに値しない紛い物のはずだった。例えそれがどれほど力を付けようとしても、核となるものがない以上形を保つはずもない。その残滓が魔神の復活なんてことにはどうあってもなりえない――そう思われていた。
だが、現実はどうだ。神殿の奥から感じる力はあまりに禍々しく、入口に立っているだけで全身の感覚が警告を発している。その力の発生源を辿れば計り知れないほど強大な力を持つ存在がいるのだと容易に想像がついた。
「てめえでも動揺することがあるんだな、ダスク」
無骨な片手斧を肩に担ぎ、統一性のない重鎧を装備した大男――ドルジが俺の隣に立つ。普段豪快で怪力無双を誇るこの大男をして、異様な気配を前に平静でいられないようだった。神殿に眠る魔神は生半可な相手ではないことは明らかだ。茶化すようにかけたその声は幾分固い。
ドルジの険しい目が神殿の入り口を覗き込む。
しかし、屋内に差し込もうとする太陽は闇の中に消え、外から中の様子を窺うことはできない。暗く澱んだ空気は意思を持ったかのように怪しくうごめくばかりだった。
「神はいない……。例えいたとしても、多少力を持つに過ぎないと思っていた。――けど、それは間違いだった、か」
「魔神シラ・メレガモン。俺も甘く見ていたみたいだ。やっぱり、実物になると違うってか」
感じる気配は生物の範疇に収まるものではない。封印され弱まってなお、来訪者を圧倒させるプレッシャー。魔神の存在は最早疑いようがない。
「知りたくないものを知ってしまった。まさか魔神が存在するとはな。全く、嫌な時代に産まれてしまったもんだ」
やれやれと首を振りため息をついて見せると、ドルジが面白そうに肘で小突いた。
「おいおい、もう軽口か?いつもの調子が戻ってきたみたいだな」
「まあな。受け入れの早さだけは自信があるんだ」
「神はいます。言うまでもないことです」
後ろから錫杖の涼やかな音と共に女神官が澄ました顔で現れた。彼女の名はティアナ。東の大聖堂で神童と謳われたこの少女と俺の相性ははっきり言って良くない。どうせまた性懲りもなく、俺に説教でも垂れに来たのだろう。内心うんざりして頭を掻く。
しかし顔に出ていたのか、ティアナは一瞬むっと口を結ぶ。が、すぐに元の澄まし顔に戻って言った。
「確かに魔神シラ・メレガモンは恐るべき力を持っています。私たちの戦いは厳しいものになるでしょう。しかし、私たちには竜神エルバの加護があります。それをお忘れなきよう」
「ああ、悪いな。今いるかいないか分からない神様の話をされても困るんだ。そんな冗談に付き合っている暇はない」
それこそちょっとした冗談だったのだが、ティアナは目を剥いた。
「冗談⁉なんと無礼な!忌まわしき魔神は認めておいて、なんですか⁉」
「え?いや、だって……竜神には会ってないし」
「こっの……!あなたという人は!いいですか!そもそも竜神エルバがいるからこそ――。ちょっと聞いていますか!?待ちなさい!今度こそその性根叩き直して――」
無視しようとしたが、それが火に油を注ぐ結果になってしまったようだった。逃げようとした俺を捕まえ、ティアナが馬の耳に念仏の長時間説法コースに行こうとしたとき、西の賢者と呼び声高い女魔法師ノエルが間に割って入ってきた。
「まあまあ。落ち着いて!ね?ダスクさんもこんな時にからかわないで!もう!」
時空の狭間で年を取ることなく、長き時に亘って一人魔導の研究に費やした偉大なる魔女。外見こそティアナと同年代の少女だが、身に宿す魔力はもちろん、魔法への知識は他者の追随を許さない。
手に握る古びた短杖は一流の魔法師にしか使いこなせない代物で、彼女のただでさえ強力な魔法をちょっとした災害クラスに押し上げる最高級の杖だ。
ぱっとしない、だぼついた漆黒のローブの少女と思って侮ってはならない。生真面目で泣き虫な彼女を怒らせて何度死にそうになったことか。
それにしても今更だが、彼女の実年齢はいくつなのだろう。精神年齢は見た目相応過ぎて正直設定を忘れそうになる。
「なんですか、その顔?変なこと考えてませんか?」
「無駄だ。どうせこいつは道化を演じていないと落ち着かないんだろ」
そんな厳しいことを言う青年剣士の名はキース。こと剣技において並ぶ者なしと世界に名を轟かせた凄腕の剣士だ。鷹のように鋭い目は誰彼構わず萎縮させ、ぶっきらぼうな口調は不機嫌そのものだが、これが普通の状態。判り辛いが、今僅かに口の端を吊り上げた皮肉気な笑みはむしろ機嫌の良さを示している。
「え?なになに?緊張とか、そういうことぉ⁉なんだ、意外に可愛いとこあるじゃん!」
「……」
そこに女レンジャーのジェシカがここぞとばかりに便乗し、俺は顔をしかめた。その反応をどう思ったのか、目の前の妙齢の美女が白い歯を見せて笑う。
まず目を引くのは彼女の格好だ。何を守っているのかも分からない露出が多い装いはこれから魔神と戦う人間とはとても思えない。以前訊いた話では縁もゆかりもないどこぞの民族衣装だそうだ。惜しげもなく健康的な褐色の肌を晒し、美しい黒髪が本人の奔放さを表すかのように躍動的に揺れる。
軽やかな身のこなしはその一つ一つが扇情的で、挑発的な仕草は異性の目を虜にする。町の盛り場に行けば否応なしに衆目を集め、たちまち人気者になる彼女は陽気な性格もあって、彼女の行くところに笑顔は絶えない。
そんな彼女もまた魔神討伐の戦力足りうる存在だ。
盗賊に吟遊詩人、踊り子に占い師、傭兵家業等々。彼女は持ち前の器用さと器量で生きるために様々な職を身に修め、転々と世を渡り歩いてきた。数々の修羅場や荒事を潜り抜けてきた彼女は、罠の解除や索敵を難なくこなし、戦闘時にはあらゆるサポートを的確に行う。彼女の機転と技の数々に救われたことは一度や二度ではない。
……一方で、彼女には何度も博打に付き合わされ、あげく大負けした恨みがあったりする。くそったれ!
ジェシカはあっという間に俺の懐に入り込むと肩に腕を回し、俺の頬に指をぐりぐりと押し付けて、
「素直じゃないんだからぁ!うりうり。どう?落ち着いたぁ?」
「いや、緊張してねえし。というかお前らこそ、緊張感が足りてないんじゃない?つうか、離れろ」
俺がジェシカを押しのけると、彼女は黄色い声で「きゃーっ!ダスクが冷たい!」と言って、ノエルにしなだれかかる。
慌てて受け止めるノエル。慣れぬ手つきでよしよしとジェシカの髪を撫でる彼女だったが、ふと気づいたように尋ねる。
「あれ?でもそもそも、ダスクさんって戦えないんじゃなかったですか?」
落ち着きを取り戻したティアナがその問いに答えた。
「ええ。半魔であるダスクは竜神の加護を受けられません。それに、魔の系列に連なる者として魔神の強力な呪いを受け、操られてしまう可能性があります」
「魔族の宿命か。ふん。情けない奴め」
キースが冷たく吐き捨てると、ドルジが苦笑して、
「まあ、ダスクは聖術が受けられないっていうのもあるよな。魔族だからエルバの祝福を受けられないのは仕方ないけどよ。かといって魔神相手にティアナの回復も結界の守りもなけりゃ、あっという間に死んじまう」
半魔。一般的に魔族と人間の混血を指す呼称だ。とはいえ俺自身、親の出自はおろか顔も知らず、純粋な魔族ではないとしか言えない。半端者なのだ。そして半端者であるがゆえに、便利なところもあれば不便なところもある。
その不便にあたる一つがエルバの祝福だ。そしてエルバの信仰心とやらを基に発動される奇跡が聖術。
神童の聖女であるティアナの聖術は強力な呪いを弾き、対象を癒す。一方、俺がその聖術を受けると身体がむずがゆくなり、ただ集中力を乱される。場合によっては激痛でのたうち回ることすらありうる。俺にとって祝福とは毒である。
だが、魔神相手に祝福なしで挑むのは自殺行為。俺と同程度のレベルの魔族の呪いであれば、同じ魔族の血によって抵抗ができたとしても、魔神の呪いは一秒の抵抗すら許されないだろう。実際、古の文献でも魔族は魔の頂点たる魔神に逆らえないとあった。
要するに今回の戦いで俺は全く使えないということだ。けど、お前ら言い方ってものがあるだろう。流石の俺も心に刺さるんだが。
ノエルが納得したように頷いた。
「そうですよね。でも普通にここまで来てくれたから、てっきり一緒に戦うのかと。ちょっと……心細いです」
「ああ、もうっ!ちょっと可愛い!大丈夫!お姉さんがしっかり守ってやるから安心しな!」
「わっ!えっと、あの、苦しいです、ジェシカさん!や、やめてください!」
ジェシカがたまらずノエルを抱きしめる。その微笑ましい光景に頬を緩める。本当に緊張感の欠片もないやり取り。……それでいいのか?
だが、俺がいなくて心細い、と言われたのは嬉しかった。まあ、無理なものは無理なのだが、頼られているようで悪い気はしない。少し得意げな気持ちになっていると、呼んでもないのにキースが近づいてきて釘を刺してきた。
「言っておくが、妙な真似をしてついてくるんじゃないぞ。足手まといだからな」
「誰が行くかよ、あんな場所に。俺は安全なこの場所で他人事のように応援しているさ」
憎まれ口を叩くと、ドルジが破顔した。
「はっはっはっ!素直じゃねえなあ、ダスク!こんなところまで見送りに来ておいて、他人事っていうのは流石に厳しいと思うぜ!」
「……」
認めたくないが、否定はできなかった。いつもの俺ならば、確かにやることさえやってしまえば、何はさておき一度逃亡の道を選んだだろう。
答えに窮していると、キースが腰に手を当てて、しかめっ面で彼なりの不器用な慰め方をした。
「ここまでの道案内だけで十分だ。お前一人いなくてもどうにでもなる。せいぜいそこで待っているんだな」
「とか言っちゃってぇー。本当は一緒に来てほしかったんじゃないのぉ?」
「そんなわけあるか。完全体でもない魔神の相手なんざ俺一人で十分だ」
じゃれあう五人。世界を背負うこいつらに一切の気負いはない。浮ついた様子もなく、かといって萎縮しているわけでもない。実力と積み上げてきた実績に裏付けられた自信はこの最終決戦を前にして揺らぐことはなかった。
知っているとも。間違いない。俺の存在は不要だ。
一抹の寂しさと同時に納得があった。送り出し、ここで見守ることしかできない自分の無力さにため息が出る。しかし、このメンバーならば魔神討伐をやってのけるに違いないという確信があった。
「大した奴らだよ、本当に」
俺は一人静かに神殿を見据えている男に目を向ける。名をレックス。このメンバーを率いるリーダーであり、そして竜神エルバの加護を一身に受ける世界の希望そのものだ。
受けた加護は魔神を滅ぼすための力とその使命。それは命懸けの戦いを宿命づけられた加護だ。もし仮にその加護が戦いを望まぬ者に渡れば呪いのようなものだっただろう。だが、レックスはその加護を受けるに相応しい人間だった。
危険があれば無理を承知で駆けつける。数多くの困難に臆することなく立ち向かい、その悉くを仲間とともに乗り越えた。人々のために全力を尽くし、多くの人間を救ってきた。ここにいる皆が知っている。この男の起こしてきた奇跡を。この男が成し遂げてきた偉業を。
今回は救うべき対象が世界だったに過ぎない。今回は倒すべき対象が魔神だったに過ぎない。
――全くもって正気の沙汰じゃねえ。
レックスが俺の視線に気が付くと、こちらに向き直る。いつもの人懐っこい目が静かだった。
「どうした?」
レックスが問う。俺は一瞬言葉に迷う。
ふと尋ねたくなった。いや試してみたくなった。なぜこの男はこうまで己を世界に捧げることができるのか。レックスの在り様がどこにあるのか無性に今は知りたかった。
「千年間の時を経て災厄の象徴である神が目覚める。これは千年間、神の封印を疑うことなく、与えられた平和を享受し、怠惰に過ごした人間たちのツケなんだろ?ご苦労なことだ、と思ってな」
俺の毒のある言葉に特に気にも留めず、レックスが続きを目で促す。俺は再び口を開いて言った。
「ああ、分かっている。お前らがただ世界のために、っていうのは他から嫌々引き受けたような義務感や責任感じゃねえ。お前らなりの理由があって、使命感があるってことはよく知っているつもりだ」
だが、と俺は続けた。
「こう言っちゃなんだが、今お前たちが戦う理由はないと思う。人類の敵なら総出で立ちむかうべきだし、できなければ放っておけばいい。魔神が封印から目覚めたときになってからでもいい。敢えていうと、だ。お前らだけが身体を張る必要はねえんだ」
そもそも、人類の存亡をかけた戦いに向かうのがこの人数だけってどういうことだ、と俺は文句を言った。
「また何を言い出すかと思えば、お前は。今そんなこと言うのかよ」
ドルジが呆れたように言った。
「言うさ。今だからこそだ」
俺はレックスの目を見た。レックスは何も答えない。だが、その目に宿る決意に揺らぎはない。
俺は内心の焦りを苦労して抑えながら、言葉を尽くす。
「俺はな。今じゃねえと思うんだ。いくらお前がご立派な竜神の加護持ちだからといっても、簡単に勝てる相手だとは思わねえ。それにな。この戦い自体割に合わないと思っている。危険はもちろんそうだが、例え勝ったとしてもろくな事にならねえ」
「待ってください。勝ったとしてもとはどういうことですか?」
聞き捨てならないことを聞いた、とティアナが柳眉を逆立てた。
余計なことを言ったか。俺は内心顔をしかめる。戦う前に勝利した後のことを、それも不安を煽るようなことを口にするなんて最悪だ。だが、ここまで言ってしまえば最後まで言わねばならない。
「奴ら人間は最初の内は感謝するだろう。だが、魔神を滅ぼす力を持ったお前らをどう思う?その存在を危惧し、あるいは囲い込もうとする。最悪殺されるかもしれねえ。己の醜い保身のためにだ」
「そんなことはありません!確かに人の心は弱い。だからと言ってそんなこと……!」
ティアナが叫ぶ。
それは確かに俺の心配のし過ぎなのかもしれない。だが、可能性は低くない。良くも悪くも何をするか全く分からない。それが人間ではないか。
「それにだ。もし俺たちだけで対処してみろ。じきに、人間は救いを求めるばかりか、救われることを当然と考えるようになる。それは盲目的な信仰と変わらない。そういう他人任せの考えが人間を腐らせていくんだ」
現に今そうじゃないか。神々の封印を盲信した挙句、今になって慌てだしている時点で、どうかしている。
俺の言葉を黙って聞いていたレックスがしばらくして、「なるほどね」と一言返した。
「けど、今やらないと犠牲が出る。それを見過ごせる俺だと思うか?」
改めて実感する。俺とは大違いだ。己の使命に酔っているだけなら、俺は鼻で笑っていただろう。義務感に縛られてのことであれば、理解しつつも痛ましさに眉を顰めていた。しかし、レックスはそのどちらでもない。心の底から人のために尽くす聖人で、そして――最も気高き奴隷だ。
理解しがたいがしかし奴はそういう人間なのだから仕方がない。
「それで、ダスク?お前は俺たちの勝利を祈ってくれないのか?」
俺は舌打ちをした。知っていてこの男は口にするのだから質が悪い。
「普段から言っているだろう。万能でない神にどうして祈るのか、俺には分からない」
「お前は本当に祈るだとか、神様とかそういうの嫌いだよな」
朗らかにレックスが笑う。魔神討伐を前にしてもいつもの大らかさが失われないのは流石と言うほかない。
「ああ、俺は嫌いだ。――祈って成功した試しがない」
「それでも人間は縋りたくなるんだよ。神様に」
俺は言い返せず黙り込んだ。そうだ。それが人間だ。そして、縋られると手を差し伸ばさずにはいられないのがこの男だ。何だ、お前は神にでもなるのか。
ああ、クソ。今のこいつらを止めるなんてことはできないのは知っていたことだ。今更俺がとやかく言おうなんておかしな話だ。見送るしかできない俺にそんな選択肢は存在するはずもないじゃないか。
深々とため息を付いた。いつの間にか頼もしい仲間が全員俺に注目していた。「お前ら」と俺は口を開いた。
「今更俺がどうこう言ったって、意味ねえことは知っている。戦いはすぐそこだ。お前らはそいつに挑む。全くバカげているが、それがお前たちだ。誰にもお前らを止めることはできねえ」
なら、と俺は言葉に力を籠める。一呼吸おいて俺は言った。
「勝て!そんでもって、全員生きて帰ってこい!当たり前だろう。じゃねえと戦う意味がねえ。生きて帰ってこそ酒が旨いってもんだ!」
俺の勢い任せの檄にドルジが声高らかに応じた。
「そうだな!一緒に限界まで飲み比べと行こうぜ!」
「それ、私も私も~!ふふっ、ダスク!覚悟しなさいよ~!」
ジェシカが俺にさらっと死刑宣告をし、キースが軽い笑みを浮かべる。
「全く、お前らときたらそればかりか。勝手にしろ」
「あ、でも私もちょっと飲んでみたいかも」
ノエルがおずおずと手を挙げて、隣のティアナが目を丸くした。
「ノエル⁉それは、あの、大丈夫ですか?あなたがそんなことを言うなんて……。そもそも、お酒苦手では?」
「え?……だめかな?」
「いや、だめじゃないですが。意外というかなんというか……」
「いいじゃない。この際、みんなでパーッと宴会にしましょうよ!」
騒がしいことだ。もう勝った気でいやがるのか。いや、確かに勝てとは言ったけどよ。
レックスが楽しそうに笑う。
「そうだな!これ以上ないってほど羽目を外してやろう!」
そう言った後、「ダスク」とレックスが向き直る。
「改めて言おう。ありがとう。ここまでよく一緒にいてくれた。本当に感謝だ」
俺は「はっ」と鼻を鳴らす。
「改まってなんだ、お前。感謝される筋合いはねえ。お前らが魔神に勝てば、俺への感謝なんざどうでもよくなるさ。さっさと行って英雄にでもなってしまえ。クソッたれ!」
不敵に立つ勇者と呼ぶべき人間たちが笑い飛ばす。揃いも揃って、魔神を相手に勝利を疑っていないようだ。
「そうだな」と笑みを見せたレックスが、仲間たちに向かって檄を飛ばす。
「さあ、行こう‼世界を、みんなを守る最後の戦いに‼」
「「おう‼」」「ええ‼」「「はい‼」」
レックスの掛け声に奴らは力強く応じて背を向ける。
そして、光届かぬ闇の中に恐れ一つなく入って行く仲間たちを俺は見送ったのだった。
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俺の友人が魔神討伐に向かってから一週間がたった。
「全く、俺に任せる意味を分かっているのかよ」
旅の準備を整えて外に出た俺は独り言ちる。空を仰ぐ。俺の気分を逆撫でするような晴天に唾を吐きたい気分だった。
奴らは俺にこの上なく面倒なことを押し付けていきやがった。古びた手紙には「何かあったら、後のことは頼む」と何ら具体性もない頼みごとが書かれていた。書き手はレックス。いつの間にか俺のポケットに忍ばせていたようだった。
取り出したそいつをもう一度ポケットに詰め込み俺は舌打ちをした。
「ま、すべてはなるようになる。俺一人でできることなんてたかが知れているが……やるだけのことはやってやるさ」
風が強く吹いて俺の薄汚れた外套がはためいた。
この冒頭は個人的に好きですが、情報量の多さをGA文庫様に突っ込まれました。
基本、登場人物は必要最低限かつシンプルでないと読み手には負担ですね。一つ学びでした。




