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41.問.事件を起こした犯人は?

 原木が休んだこととクラスの雰囲気を敏感に察知した担任の妙典姫咲こと赤ちゃんは、俺と野原を職員室に呼び出すと事情を尋ねてきた。

 ありのまま起こっていることを話すと納得した様子で頷きながら机に手をつき立ち上がる。


「ははーん。なんかクラスが微妙な雰囲気だったのはそんなことがあったのか。で、お前らはどうするんだ?」


「どうするって、どうするんですかね?」


 俺は赤ちゃんを見下ろしながら首を傾げて野原に視線を移す。


「空渡。お前に聞いてるのに野原に聞いてどうするんだ?」


「いや、だって野原のほうが頼りになるし、クラスの事情にも詳しいでしょ」


「買いかぶりすぎだ空渡。俺だって今年このクラスになったばかりなんだから知らないこともたくさんある」


 そう野原は言うが、俺は原木、中山、萩山の3人とは全く話したことがない。

 どれくらい仲が良いとか、普段どんな話をしていたのかとかそうゆうところも全然わからないのだ。

 野原は多少なりともあの3人と関わりがあるし、俺より理解ある行動ができるのは当然だろう。


「そうだぞ空渡。お前だから感じること、見えてることもあるんじゃないか?」


 俺を見上げながら言う赤ちゃん。

 そんなことを言うこの人こそ買いかぶりすぎだ。

 俺が見えていることといえば、原木にとって萩山は中山の友達というところで、同じグループでもあまり仲が良くなかったということくらいだろう。

 それは水ノ下が話してくれた萩山の『元々余所余所しかった』という言葉からの憶測に過ぎないが。

 

「というか先生なんで女子じゃないんです? 女子の方が色々とやりやすいでしょ?」


「いやーこうゆうのを女子に頼むのは難しいんだよ。下手するとそこからまた思わぬいざこざが発生する場合があるからな。男子の方が単純明快だからお前たちを呼んだんだ。まっ、この件はD班であるお前たち二人に託そう」


「た、託そうって……。先生が介入した方が早いでしょ?」


「私が介入したからといって何か解決できるわけもあるまい。先生の言うことを素直に聞くのは小学生までだからな」


 結局その後、赤ちゃんの独断で原木と中山の問題は俺と野原に託される形となった。

 教室へ戻る廊下で野原は「う〜ん」っと頭を悩ませていた。


「結局中山と萩山のどっちが犯人なんだろうな? 空渡はどう思う?」


「さっぱりわからんな。そもそもあのグループトークって誰が作ったんだ?」


「確かあれを作ったのは桜子だったかな。4月の新クラスになってからすぐにできたから」


 そうだったのか。俺誘われた記憶ないんだけどな。

 まあ誘われても前の俺は絶対に入ってなかったけど。


「今も原木を批判する発言は流れてくるんだよな?」


「ああ、同じ文章が1日に3回な」


 1日に3回とかご飯感覚かよ。

 ただそれであれば犯人を見つけることは可能だ。

 かなり回りくどく、めんどくさい作戦ではあるが……。


「なら新しいグループを作ってそれを疑わしいと思われる中山と萩山に1日ずらして伝えればいいんじゃないか?」


「つまり今日桜子さんにクラスの新しいグループを作ってもらって、それを明日中山、次の日萩山と伝えればいいわけか」


「そう。ただ中山が萩山に伝えることもあるかもしれんが、加入して批判的な発言が再開されれば萩山が疑わしいわけだし、もしそのゴーストアカウントが同じタイミングで加入したらビンゴだろ」


「確かにそうだな。ただやっぱり気は引けるよな」


 この作戦はもちろん中山と萩山のみを疑った作戦であり、それを知ったら彼女達もいい思いはしないだろう。

 それがクラスのことを気にかけ、友達を大切に思う野原であれば良心の呵責に苛まれるのも仕方のないことだ。


「別に勧めるわけじゃないから嫌ならやらなければいいだけだ。ただこのまま真相が分からずじまいだと原木と中山の関係は改善しないだろ。まあわかっても改善できない可能性の方が高いが」


 野原は再び目を閉じて頭を悩ませた。

 

「これは俺の発案だし、バレても野原は俺をスケープゴーストにしても構わないぞ」


「それはお断りだ。託されたのは俺と空渡だからな。批判されるのは俺も一緒だ」


 野原はそういうと眦を決して「やってみるか」と小さな声で呟いた。

 早速俺たちは小道具の準備を進めている桜子さんの元に行くと新しいグループを作成してもらうように依頼した。

 ちなみに原木はショックを受けているであろうという理由で外すことに決めた。

 今日は中山、明日は萩山をグループに加えることになる。


「なんか、気分の良くない作戦じゃん」


「それはわかるんだが頼むよ桜子」


「まあ、野原くんがそう言うならちゃんと協力するけどさ」


「私もあんまりいい気分しないかな」


 水ノ下も眉根を寄せてそう言った。

 今日アイルは仕事で学校に来ていないがきっと同じことを言いそうだ。

 そんなみんなを見ながら俺は中学1年のクラスを思い出していた。このクラスは本当にいい奴が多すぎると。

 兎にも角にもこうしてゴーストアカウント撃退作戦が開始されたのである。

 


 翌日。本日も原木は休み。

 作戦1日目を終え、ゴーストアカウントは現れなかった。

 ただ旧グループトークでは未だに原木の批判的発言が流れていた。

 ちなみに不審に思われないように旧アカウントを退会しないようみんなには伝えてある。

 今日の2限後に萩山に伝える予定なのでそこで現れるかどうかだ。


「ねぇ星くん。ちなみにみほちゃんも違ったらどうするの?」


「どうするのって……。わかんねーけどもう一人伝えてない奴がいるだろ?」


「もしかしてりっちゃん? 自分で自分の悪口書いてどうすんのよ。ハハッ。それはないわー」


 輝く白い歯を見せながら笑うアイル。

 確かに原木にとって自分の悪口を書くメリットはなさそうだ。

 中山の事を書くのであればわかるけどな。


 2限目を終え、作戦は最終段階に入った。

 桜子はタイミングを見計らって萩山をグループに加えた。

 怪しまれないように抜けててごめんねと猪瀬と木場、委員長も一緒に招待してある。


 俺も不要物だと思っていたトークアプリを入れて監視を始めるも、その後昼休み動きなし。

 放課後もゴーストアカウントは追加されなかった。

 旧トークではまだ原木の批判が流れている。

 こうして俺たちは犯人の正体を確定させたのである。──原木律子本人であると。


 そうと分かれば後は原因だ。

 なぜ彼女は自分を批判するような事をしたのだろうか?

 それに偽の萩山の名前を使ってゴーストアカウントを作ったのか?


 思わぬヒントは赤ちゃんの適当な発言から明らかになったのだった。


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