42.問.事件を起こした理由とは?
「と言うことなんですよ」
野原は赤ちゃんに事件の真相を報告し終えると彼女は腕を組みながら跨ったディスクチェアでくるくると回り出した。
「ふーん。原木本人だったとはな。まあそれならいじめられているわけでもないし私としても安心だ」
「ま、まあそうなんですけど余計にわかんなくなっちゃって」
「野原、お前は深く考えすぎだ。だからサッカー部なのに童貞なんだぞ」
赤ちゃんにバカにされ苦笑いを浮かべた野原。
野原が貶されているところとかなかなかレアである。しかもクラスのリア充が童貞とは! こいつも俺となんら変わらないただの高校生なんだな。思わず笑みがこぼれる。
「空渡も笑っているが、お前なんか一生童貞だろ。あはは」
この人は俺をバカにするときはいつも実に楽しそうである。
それにしても結局俺をバカにする方向に持っていくのかよ。
横にいる野原を見るとなぜか同情されるように軽く会釈された。そして傷つく俺。
お前がサッカー部なのに童貞だから巻き込み事故を食らったんだぞ。
「おほん。それより先生としては何かアドバイスないんですか?」
気を取り直して言った俺に赤ちゃんは少し考えると、
「うーん、童貞ボーイズの諸君には難しいかもしれんが女心を理解してみろ。っと言ったところだな。友達は恋人ってな」
とはぐらかしながら言った。
うーん。それは童貞ボーイズである俺たちには難しい。
って童貞ボーイズってなんだよ。ちびっこ教師め。だいたい友達は恋人ってなんだよ、友達は友達だろ。
もしかして原木と中山は百合だったのか!?
赤ちゃんはそれ以上は言わずに俺たちを職員室から追い払ったのだった。
「友達は恋人か。空渡はわかるか?」
「いや、俺そんなに友達いないからわからないな」
「そ、そうか。なんかごめんな」
なんかじゃなく普通にごめんだぞ野原。
まあそんなにじゃなく全然いないからもっとひどいんですけどね。
教室に戻った俺たちは参考に準備で残っていた水ノ下とアイルに聞いて見ることにした。
「友達は恋人? なにそれ? 百合ってこと?」
そうやらアイルは俺と同じ考えらしい。
まあ百合ってことは100パーセントないとは言い切れないが特殊な例すぎるだろう。
「いや、多分先生はそうゆうことが言いたかったわけじゃないと思うんだよな」
「そうだね。野原くんの言う通りだと思う。私思うんだけど確かに友達って恋人みたいなものなんじゃないかな?」
「水ノ下って付き合ったことあるのか?」
俺が思わずそう口に出すと水ノ下は首をブンブン、手をブンブンと振って慌てた様子で否定した。
「1回もないけど、多分LOVEという感情じゃなくてLIKEって気持ちがあって、それでなんかその……」
「つまり相手を好きって気持ちに違いはあれど、相手を想っている気持ちは同じってことか?」
野原のフォローに水ノ下はうんうんと首を縦に振った。
ちょっとわかりづらいがいずれにせよ相手が好きなわけで、一緒にいたいと思ったり、たくさんおしゃべりしたいと思うわけか。
それに好きであれば嫉妬したり……。──嫉妬?
「野原。原木と中山って1年の時からクラスも部活も一緒で親友だったんだよな」
「うん。1年の時はよく二人で帰ってたりしてたから、ほとんど二人で行動するくらい仲よかったと思うぞ」
「2年から萩山がその輪に入って来たってことか。なら原木は萩山に嫉妬していたんだな」
「そうか、嫉妬か。でもならなんで中山と仲が悪くなる必要があるんだ?」
「そりゃ構って欲しいからだろ。萩山と私を最終的にどっちを取るんだってな。だから原木はわざわざアイルと水ノ下のグループに入りたいみたいなことを伝えたんじゃないか。グループトークで萩山の名を使ったのも中山に対して萩山の評判を落とそうとしていたんだろ」
原木は萩山のことを友達とは認めていなかったのだろう。それゆえに親友と思っていた中山を取られたのだと思ってしまったのかもしれない。
急に入って来た赤の他人に邪魔されたのだと恨んでさえいたのだろう。
「確かに星くんの言ってることは間違ってないかもね。それなら色々納得できるし」
「うん。私も星斗くんの言うこと結構合ってると思う。でもそれだったら私たちが出る幕はなくなるよね。変に関わっても余計に関係をこじらせちゃいそうだし」
水ノ下の言う通り、俺たちがここで割って入ることは難しい。
中山は原木のことをただでさえ良く思っていないのに、ここで犯人が原木本人だったことが判明すればさらに関係は悪化の一途を辿るだろう。
この件に関して解決してみろと赤ちゃんに言われているが、ここは見守るのがベストなのかもしれない。
ただ俺の横に立っていた野原はどうやら考えが違うらしい。彼は異常にやる気で「俺たちでも解決できるように関わることはあるんじゃないか?」と言って俺たちを鼓舞し始めた。
「野原くん、そうは言うけどあんまり深く関わると絶対こじれるって」
アイルは半ば呆れた様子で野原を見ている。
俺にはわからないが、野原自身この問題を解決してみたいと思わせる何か事情があるのかもしれない。
「私もアイルちゃんの意見に賛成かな。律子ちゃんもあんまり関わって欲しくないと思ってるかもしれないし」
「そうかもしれないけどさ、何か、何かあるんじゃないか? 俺なりに考えてみるよ」
野原は少しばかり必死な様子でそう言うと部活へと向かって行った。
残された俺たちは肝試しの準備に取り掛かる。
みんな部活とか習い事とかで全員集まることはなかったが着々と準備は進んでいた。
もちろん用事のない俺は一人だけ皆勤賞だ。ほんとに一番被害を受けたのは俺であると声高らかに主張したい。
明後日にはいよいよ臨海学校だ。
帰り道。
アイルはパタパタとカッターシャツの胸元を前後に動かして「夏ってこんなに暑かったけ?」と聞いてきた。
ただでさえ第二ボタンまで外しているのにそんなことをやられては目のやり場に困る。
キャミソールも黒色で透けてるってのに。アイドルなのにそうゆうの大丈夫なのか?
「人間の体感記憶ってのは結構曖昧で毎年同じこと思うよな」
日に日に日が暮れても気温が下がらず、今日は熱帯夜になりそうだ。
「あーアイス食べたい。ちょっとコンビニ行こうよ。アイス買ってあげる」
「マジか! 俺、ゴリゴリ君がいい」
「星くんって昔から安いアイス好きだよね」
「うっせ。経済的な男なんだ俺は」
エアコンの効きすぎた冷蔵庫のような店内に入るとアイスボックスを前に俺とアイルは子供のように目を輝かせた。
アイスを買うと歩き食いしながら家路を進む。
「ちょっとちょうだい♪」
横から首を伸ばして俺の食べかけのアイスをサクリと噛み切って咀嚼したアイル。
人の物を勝手に食べるなど言語道断だ。
「おい、お前のも食べさせろよ」
俺もアイルが食べていた高価そうなアイスに横からかぶりついた。
うまい。これが本当のアイスというやつか……。と思ったのも束の間、アイルの顔を見ると口元をキュッと締めて顔を赤らめている。
「か、間接キス……」
小さい声で呟いたアイル。
確かに……間接キスだ。
やってしまったと後悔してももう遅い。
大抵のやつは気にしないかもしれないが、俺たちは未経験のその行為に無性に恥ずかしくなると無言を保ったまま家に帰ったのだった。




