40.問.深まるっていく問題の謎とは?
クラスのグループトークには萩山なるアカウントの人物が【最近原木律子って調子乗ってない?】から始まるキャッチーなタイトルで、原木がアイルと水ノ下に擦り寄っているという内容がつらつらと書かれていた。
一体誰かこんなことをしたのか? 安易に考えると今原木といい関係ではない中山だ。
彼女がもう一つのアカウントを作って萩山なる人物を名乗って書き込んだと考えるのが普通だ。
「なんかすごいな。中山がやったのか? それにしても萩山ってリアルな名前だな」
「多分そうかもしんないけど、うちのクラスに萩山みほちゃんって子いるんだよ? しかもりっちゃん、あゆみちゃんと同じグループに」
「ならその萩山が犯人じゃないの?」
「はぁ? バレるのにわざわざ本名使って書き込まないでしょ。しかもみほちゃんはその後、すぐに自分のアカウントで否定するコメント書いてるし」
確かにそうだ。アイルの言う通り、自らの名前を出す下手なマネはさすがにしないだろう。
どのみち原木を誹謗中傷する内容なのだから彼女と関わりの深い人物。つまりグループ内の人間がやったことに違いはない。
ちびっ子メガネ探偵ばりに脳内で推理しているとアイルのスマホに野原から電話が掛かってきた。
「もしもし、うん。見たよ。えっ、まだ家じゃないけど。わかった」
そう言ってアイルは電話を切るとガシッと俺の腕を掴む。
何やら嫌な予感がしてきた。そうだこんな時はトイレに行こう。
「すまん。俺ちょっとトイレ行きたいんだけど」
「そう。なら喫茶店のトイレ使えば?」
「なんで喫茶店のトイレなんだよ。俺は2丁目にあるコンビニのトイレがいいの!」
「トイレなんてどこも一緒でしょ。野原くんと喫茶店で待ち合わせしたから星くんも来なさいよ!」
歯を噛み締めて強引に俺を引っ張るアイル。
なんでこいつこんなに力強いんだよ。
必死で抗うも掴まれた手を振り切ることはできず結局俺は喫茶店に入るハメになってしまった。
☆
喫茶店で待つこと5分。
原木を除くD班の連中が神妙な面持ちでやって来た。
「野原くん。りっちゃんはどうしたの?」
「結構ショックだったみたいだから先に帰ってもらったよ。って空渡もいたのか」
「あ、うん。アイルに無理矢理引っ張られて。邪魔ならすぐに帰るぞ」
「いや全然そんなことないから大丈夫だ。ありがとうな来てくれて」
笑顔で微笑む野原。
クラス男子のリーダー的存在にお礼を言われるのは俺としても満更ではない。
野原はみんなを着席させると、
「さっきのグループトークの件で提案があるんだけど。原木をお化け係の準備から外そうと思う。それでもいいかな?」
各々の顔を見渡しながら言った。
これは犯人が中山だと仮定してアイル、水ノ下と仲良くする姿を見せないという提案だ。
みんな言わずもがなそのことは理解しているようで納得するように首肯する。しかし俺は反対だ。
原木と中山の間になにがあったか知らないが、お化け役をやりたいと言ったのは原木本人だ。言い出しっぺはちゃんと責任を負うべきである。
それに原木自身こうなることを理解していた節もあった。ならば完全に自己責任じゃないか。
言いづらい雰囲気中、俺は片手を上げる。
「あの、俺は反対なんだけど……」
「ど、どうしてだ空渡?」
「原木自身のいざこざとお化け係は関係ないんじゃないかと思う」
「冷たいな〜、空渡くん。クラスの仲間が困ってるんだぞ。助けなきゃ〜。ワンワンオールフォーワンだろ」
おい、なんだよそのかわいい犬語。
馴れ馴れしく言う木場にイラッとしながらも俺は反論する。
「そもそもこの件以前に中山と原木の仲が悪くなっていたはずだ。だからそんなことしたからといって根本的な原因は解決されないだろ」
「確かにそうだけどな。ここで中山を変に刺激しても仕方ないだろ」
「じゃあ残り半年以上、あの2人に気を使って過ごしていくのか? このクラスは」
「そ、それはだな時間が経てば改善されるかもしれないだろ」
確かに野原の言う通り時間が経てば解決することもある。だがそれはあまりにも不確定だ。
クラスという小さなコミュニティーではお互いに顔を合わせる機会も多いわけで、むしろ私怨が消えることは難しい。
「確かに星くんの言う通りだと思う」
「んーあたしも賛成かなぁー。てゆうかさ、律子とあゆみに何があったか聞けばなんか二人を仲直りさせる方法思いつくんじゃない? 律子は口を割らないし、あゆみに聞いてみようか!?」
俺に共感したアイルに便乗した桜子さん。
彼女はそう言うとスマホを取り出して中山に電話し始めた。
大胆な行動に俺達一同唖然となる。
桜子さんは電話を終えると聞いた内容をみんなに説明した。
手に入れた情報は2つ。
1つ目はグループトークで萩山を名乗ったのは中山じゃないこと。ただしこれは本人の言い分であり、嘘をついている可能性も否定できない。
2つ目は原木との関係が悪くなったのは急に彼女が余所余所しくなり、中山に対して冷たくなったからだということだ。もちろんその理由はわからない。
「根本的な原因は原木にあるってことか」
「それを決めるのは早いんじゃないか? 萩山が同じグループにいたってことは萩山にも聞いたほうがより正確な情報が掴めるだろ」
首を傾げた野原に俺は提案した。
中山ひとりの言葉を信じたところで真相は見えてこないだろう。物事は多角的に捉えてやっと全体が見えてくるのだから。
「それなら私が聞いておくよ。席近くだからみほちゃんと話す機会も多いし」
俺達は進んでそう言ってくれた水ノ下に萩山のことを託すと一同解散して再び家路についた。
結局のところ野原が提案した原木をお化け係の準備から外すか否かの結論は彼女に決めてもらうとのことで保留にしたままだ。
日も沈みすっかり暗くなった帰り道をアイルと並んで歩く。
静かで涼やかな、これから訪れる真夏の始まりを感じさせる夜道だった。
「なかなか的確な事言ってたじゃん♪」
「いや、俺は単に言い出しっぺの原木が準備をしないのがムカつくだけだ」
「ふーん」っとアイルはニヤニヤしながら言うと、俺の前に躍り出る。そしてツインテールを揺らしながらくるりと回って
振り返った。
「星くんならなにかいい方向に導いてくるって思ってる♪ ひひっ」
なーにを勝手に期待しているんだ。
野原という頼れるやつがいるんだから、きっとあいつがうまく解決に導いてくれるだろう。
俺の出る幕なんてなさそうだ。
☆
翌日。
原木は学校を休んでいた。
当たり前だがグループトークの件でクラスの雰囲気はすこぶる悪い。
みんなの疑惑を含んだ視線は萩山と中山に集中していた。
そんな状況に2人は迷惑そうな表情浮かべて過ごしている。
水ノ下は昼休みに頃合いを見計らって萩山を呼び出すと原木と中山の喧嘩の原因について尋ねた。
萩山は中山同様にトークの件は即座に否定した。
喧嘩の原因についても中山と同じ分からないという答えだったが、違ったのは急に余所余所しくなったという部分。
萩山からしてみれば、元々原木は余所余所しかったらしい。
この違いは一体どういうことだろうか。俺達は再び頭を悩ませたのだった。




