23.問.クラス会の二次会で判明したこととは?
「どうしたの?」
「その、この後、空いてるかな?」
「うん、特に用事はないけど」
水ノ下はフーッと息を吐くと、荒れた呼吸を整える。
かなり急いで来たのだろう。ブロンド色のショートヘアーも少しボサついている。
彼女は髪を手で直し、俺から視線を外すと、
「あの、その、これから2人で遊びに行かない?」
ふむ。今一度冷静に考えてみよう。
仲のいいグループでもなく、クラスで目立っている野原グループの者でもなく、彼女は俺を誘った。
しかも『2人で』というワード。こことっても重要。
「大丈夫だけど、どうして?」
「球技大会のお礼とかしたくて。やっぱり最後の1点、星斗くんが庇ってくれたんだよね? 星斗くんは違うって言うかもしれないけど、私はそうだって思ってるよ」
お礼かぁ……。
まあそうだよな。少し期待はしてみたが、水ノ下が俺を好きってことはないだろう。
だいたい話すようになってまだ1ヶ月も経ってないしな。
それにしても、あの1点。変に彼女に気を使わせてしまったのかもな。
ここは惜しいが、断っておいた方がいいのかもしれない。
「あの、──」
「あれ、美織こんなとこで何してるの? あと、えーっと、空なんとか渡くんも」
水ノ下の背後からそう声をかけて来たのはアイルグループの化粧が濃い金髪ギャル。
あだ名はマンドリルだったか。
空なんとか渡とか中途半端に名前覚えすぎだろ。
ミドルネームみたいになってるぞ。
「ちょっと星斗くんと話しがあって。桜子ちゃん達はこれからどこかに行くの?」
「今、アイルが男子と写真撮ってるから、それが終わったらみんなでカラオケ行こっかって話してたんだ。美織も来るっしょ?」
カラオケか。何ともリア充らしい。
それよりもこの子の名前、桜子だったのかよ。
見た目とあだ名とのギャップに少し笑いそうになってしまう。
俺が俯きながら手で口を押さえて笑いを堪えていると、「お待たせ!」の声と共にアイルがやって来た。
「桜子どうしたの? って美織もどうしたの?」
「結構早かったね。美織が空なんとかくんと話してたからさ。カラオケ、美織も誘っていいよね?」
おい、渡が消えたぞ。どこに行った。
最終的には空も消えて、なんとかくんになりそうだ。
アイルは上半身を傾け、水ノ下と俺をチラッと見る。
「そっか、そっか! 全然いいよ! みんなで行った方が楽しいし。行こうよ」
「あ、アイルちゃん、私は……」
「遠慮しないでいいよ。星斗くんも行くでしょ?」
なに当然のように言ってんだよこいつ。
グループの集まりに俺が行くかっての。
しかもカラオケだぞ。人前で鼻歌すら歌えない俺が行ってどうするんだよ。
「俺はいいよ」
「この後、何か予定でもあるの?」
ぐっ……。さっき水ノ下に予定ないって言っちゃったしな。
どないしよ……。
「よし、決定! 野原くん達は後で来るから先に言っててだってさ」
アイルは桜子にそう言うとこちらに向かって来て、俺と水ノ下の背中を押した。
こうして俺は人生初となるクラスカースト上位グループの集いに参加することとなってしまった。
☆
カラオケボックスにリア充達。
この状況は俺からすれば暗黒世界のディストピアだ。
混沌たる薄暗い室内に雰囲気を盛り立てる照明。
さらにマラカスやタンバリンなどの小道具も備わっている。
普段からワイワイ、ガヤガヤと楽しく過ごすことに命をかけている奴らにとって、この閉ざされた空間は劇薬のカンフル剤となり、ドーパミンがドバドバと分泌され、更なる進化を遂げる。
熱唱に次ぐ熱唱。盛り上げに次ぐ盛り上げ。
野原グループが合流してスタートしたカラオケは俺の予想していた通りの光景になった。
木場は「Yo! Yo!」とラップを歌い上げ、野原を始めとする連中は今流行りのアップテンポなJ-POPを歌っている。
マンドリルこと桜子は乙女の恋愛を代弁したような、震える曲を歌った。
みんなそれなりに可もなく不可もなくと言った感じで十分に聞いていられる歌声だ。
「次、美織だよ。どうする?」
「うぉう! 美織ちゃんの歌、聞けるとかマジ、本当感激!」
木場はマラカスとタンバリンを両手に構えて準備万端だ。
水ノ下が歌を歌っているところとかなんか想像できないがどんな感じなのだろう。
「あ、あんまり聞かれたくないんだけどな」
「それは無理っしょ。カラオケなんだから」
桜子からデンモクを受け取った水ノ下は画面をタッチして曲を送信する。
流れて来た曲のイントロに思わず俺はモニターを注視した。
それは、『ふにゅ! ナイスな幼馴染100人とナイツなパンツでファイツなトキメキ』通称、ナイナイパンツの主題歌『愛したあなたに100の夢と希望を送ろう』と言う曲だった。
落ち着いた感じのローテンポな曲でアニメの主題歌なども手がけている女性シンガーが歌っている。
水ノ下は立ち上がると体と少し揺らしながら丁寧に歌い上げて行く。
彼女の凛とした美しい歌声に俺はおろか、その場にいたみんなも聞き惚れる。
歌い終えると水ノ下は照れ臭そうにはにかみ頬を掻いた。
「ぶ、ぶブラボー! 美織ちゃんスゲーよ。この曲知らないけどめちゃ感動しちゃったよ」
「うん、本当に凄かったよ。ホント聞かせる歌だったね。美織ちゃんすごいよ!」
ハイテンションな木場はもちろんだが、野原も興奮した様子だ。
下手だとは思っていなかったが、水ノ下がここまで歌が上手いとは俺もかなり驚いている。
てっきりアイルの独壇場になると思っていたが。
アイルも面食らったのか水ノ下が歌っている最中はポカンと口が開いていた。
「み、美織、すごいね。私はこうゆう曲、上手く歌えないから、素直にすごいって思ったよ」
歌い終えた水ノ下にアイルも感激の言葉を述べた。
さて、順番的には次はアイルの番だ。
「んじゃ、次は、そら笑いくんの番だよね?」
「へっ? 俺?」
木場は俺にそう言ってデンモクを渡して来た。
なに俺に気を使ってくれてんだよ。そら笑いくん思わずびっくりして受け取っちまったし。
一体この状況で何を歌えばいいんだよ……。
思い浮かぶ訳もないし、俺の下手な歌声を聞いたところで時間を無駄にするだけだろ。だいたい恥ずかしいし。
俺はデンモク越しにアイルに視線を送った。
こうゆう時くらい助けてくれ。
気づいたアイルは小さくため息をこぼすと、
「星斗くん、今日喉痛いらしいから私が代わりに歌うよ♪」
ありがたい。
でもこいつが誘ったんだからそれくらい当たり前だ。
アイルは俺からデンモクを受け取ると手早く曲を選んだ。
もちろんみんなの期待に応えて自分のアイドルグループの曲を選択していた。
俺はライブにも行ったことがないし、彼女のグループの曲はテレビで流れている時にちらっと聞いただけ。
だからちゃんと聞くのはこれが初めてである。
アイドルらしい賑やかな曲。
それに甲高い可愛らしい彼女の声がマッチしていて聞いていると思わず体を動かしたくなる。
水ノ下も曲は知っているようで小さく胸の前で手拍子していた。
無論、野原グループは掛け声を送ったりして大盛り上がり。
先ほどの水ノ下の綺麗な歌とは違う。彼女が癒しを与える歌ならアイルは元気を与える歌だ。
こうやって聞いてみるとさすがはアイドルって感じだな。
アイルが2曲続けて歌い終えるとしばしの休憩タイムに入った。
「本当に歌ってる姿も可愛いよ! さっきの話だけどさ、アイルちゃん好きな人いないの?」
木場はどうやらアイルのことが好きなのだろう。
真相はわからんが、そうだとしたら露骨すぎるだろこいつ。
「あんたもしつこいし、うっさいわね。さっき聞くなって言ったっしょ? 美織もなんか言ってやってよ」
桜子に促された水ノ下。ただ返って来た言葉は予想外のものだった。
「わ、私も気になるかな。アイルちゃんの好きな人」
「ちょ、ちょっと美織。いきなり何を言ってるの」
慌てるアイルに水ノ下はさらに口を開く。
「もしかしてアイルちゃんの好きな人ってせ──」
「せ、先輩よ。先輩」
立ち上がって声を張り上げたアイル。
そんな彼女を見て桜子は驚いたように聞き返した。
「えっ、やっぱりアイルって神楽坂先輩のこと好きなの?」
「ち、違うって桜子」
神楽坂先輩。それがアイルの好きな人だったのか。




