22.問.クラス会に行ったらどうなる?
クラス会に向かう道中。
降りしきる雨の中、アイルは傘をくるくると回しながら俺の目の前をゆっくりと歩いていた。
「あんた、私の優しさ返しなさいよね」
「そんなもん返せるわけないだろ。嘘ついたことは済まなかったって」
「まあ、とりあえず熱がなくて良かったけど」
「お前ってたまに良い奴だよな。俺のこと心配してくれたんだもんな」
「だーれがあんたの心配するか! べーっ!」
そう言って振り返ったアイルは無邪気に舌を出した。
今日は黒いロングコートではなく、可愛らしいガーリーコーデ。
透け感のある白いブラウスに花の刺繍された紺色のミニスカート。
いつものツインテールではなく、髪を下ろして白のカチューシャを着けている。
昔はよく私服姿は見ていたが、アイドルになってからは恐らく初めて見るちゃんとした私服姿だ。
正直言ってさすがアイドル。そこらの高校生とはレベルが桁違いな程に可愛い。
こいつが未だにグループのセンターじゃないのが不思議なくらいだ。
「お前ってさ今センターじゃないなら何番目に人気あるの?」
「いきなりなに。あんたがそんなこと聞いてくるなんて珍しいじゃん」
「別に何となく気になっただけだ」
「去年は9位よ。なかなか高校生でトップになるのは難しいけど、今年こそはセンターになって、あんたなんか構ってられないくらい凄いアイドルになるんだからっ♪」
アイルはニヒヒっと笑うと足取り軽やかにスキップした。
白銀のロングヘアーが大きくたゆたうと、ほんのりと甘い香りが後ろを歩く俺に伝わった。
「そういえばさ、お前の好きな人ってクラスにいるのか? 野原とか?」
「はぁ? んなわけないでしょ」
「なんだよ、早く教えてくれればいいのに」
「そのうち分かるわよ」
「さいですか」
駅前に到着すると10分前なのにクラスの半数以上が待っていた。
アイルは友達を見つけると手を振りながら駆け足で向かっていく。
独り取り残された俺は行く宛もなく、集合場所が見えるコンビニで暇を潰すことにした。
店内に入ると缶チューハイ片手に出てきた赤ちゃんと鉢合わせる。
「よぉ、来たんだな星斗」
「アイルに無理やり来させられたんですよ。行かないと先生もうるさそうですし」
「そりゃ当たり前だ。お前もそろそろ一皮剥けて、人と接することを覚えろ。このクラスは結構みんないいやつだし、お前さえ変われば自然と友達できるだろうさ」
「はぁ……、そんなストロングなチューハイ持ちながら言われても説得力ないんですがね……。てかよくお酒買えましたね」
「んっ? 年確はされるさ。先生若いからな! あはは」
若いってか幼いんですけどね。
見た目完全に合法ロリですよ。
「それにしてもこんな時でも赤ジャージなんですね」
「無論だ。お前に一枚破られたしな。ストックが減ったから買い足した」
やはりこの人はこれから先もずっと結婚できなさそうだ。
そうこうしているとクラス全員が集まり、会場となるしゃぶしゃぶ食べ放題の店に移動した。
男も女もみんな服装に気合いが入っており、これから合コンが始まるのかと勘違いしそうだ。
俺の服装は灰色のパーカーと色あせたジーパン。
無難ではあるが、オシャレ度は最底辺だろう。
そんな事を考えながらふと横を見ると、似たような服装のやつもいた。
俺が言うのも難だが地味系グループの三人組だ。
彼等は俺を一瞥するとコクリと会釈した。俺もそれに応えてコクリと返す。
なんだか少し安心した気がする。多分だけどこいつらも来る気は無かったが、仕方なく来たのだろう。
店内に入り、宴会場の和室に案内されると、各々が好き勝手に席に着いた。
クラス総勢34名+ちびっ子教師。
もちろん仲のいいグループで固まっている。
アイルグループの近くには野原グループ。その向かいのテーブルには水ノ下グループがいて、その他の男子はそちらに固まっている。
俺は入り口付近の周りに誰もいない端っこの席に着席すると、スマホをポチポチと弄った。
俺にとってボールは友達ならぬスマホは友達だ。
結局こうなることは目に見えていたし、やはり来るべきではなかった。
「よーし、んじゃ、みんな。先生は飲むから各々好き勝手にやってくれ。ただし、店の人や他のお客さんに迷惑かけるんじゃないぞ」
「「はぁーい」」
そう言って赤ちゃんは適当に音頭を取ると、クラス会がスタートした。
一番騒がしいのはもちろんアイルグループと野原グループ。
特にテンション高いのはダンス部の木場。
野球部とサッカー部の集合体の野原グループにひとりだけ混じっている。
彼はクラスのムードメーカーであり、イジられ、イジり、どちらもイケる両刀使い。
パイナップルのようなチクチクと立たせた茶髪は今日はお留守番で、赤色のベースボールキャップを被っている。
ダボダボのジーパンにダボダボのTシャツ。総重量5キロくらいありそうな大袈裟なネックレスをこれでもかと着けており、今にも「レペゼン東京、ヨォーヨォー」とか言い出しそうな雰囲気だ。
「いやー、アイルちゃんの私服姿見れるなんてマジ、本当感激! なあ野原」
「ああ、現役アイドルの私服とかなかなか見れるもんじゃないからな。今年こそセンター取れるように頑張れよ。みんな応援してるからさ」
「ありがとう野原くん。今年こそは1位になれるように頑張るね!」
「そーいえばさ気になってたんだけど、アイルちゃんって好きな人いんの?」
「木場さぁ、アイドルにその質問はダメっしょ」
そう言ったのはいつもアイルと一緒につるんでいるギャル。
確か名前は……。
「えーっ、いいじゃん。マンドリルには聞いてないし」
そうそうマンドリル。ってなんだよマンドリルって。
多分派手で化粧が濃いからそんなあだ名が付いたと思うが、流石に可哀想だろ。女の子なんだから。
「うっせ。だいたいあんたがアイルの好きな人分かったところでまったく意味ないから」
「なんだとぉー」
「まあまあ2人とも。落ち着いて」
2人をなだめるアイル。
なんだかあいつもあいつなりに大変なんだな。
スマホをイジりながらそんなことを考えていると、ビール瓶片手にほろ酔い気味の赤ちゃんがこちらにやって来た。
「なに、スマホなんかでエロサイトみてんだよ。私にも見せろ!」
「み、見てないっすよ。てか先生が生徒の前で酒飲みまくってていいんですか?」
「犯罪じゃないんだからいいのいいの。てかお前、そんなとこに座ってないでみんなのとこ行けよ」
「無理ですって。俺と話したい奴なんていないでしょ?」
「そんなのわからんだろ。ただ、逆にお前と話したくない奴もいないと思うぞ。ほら! 行った行った」
赤ちゃんにガシガシと背中を押されると俺は地味系グループ三人組の隣に座らされた。
「よし、んじゃな」
満足したのか赤ちゃんはそう言うとビールを注文しに廊下に出ていく。
「……」
「……」
なんかいきなり来ちゃったから変な空気になっちゃったじゃねーかよ。
そりゃ自分達で楽しくやってたのに、突然異物が来たらこうなるよな。
沈黙を破ったのはメガネを掛けた猪瀬という男子だった。
「えっと、空渡くん」
「は、はいっ……」
「球技大会頑張ってたよね」
「ははっ、まあ」
「すごいなって思ってたよ。部活はなにしてるの?」
「き、きとく部」
げっ、噛んだ……。
なんだよその今にも死にそうな部活。
猪瀬を含む三人は顔を見合わせると笑いだした。
「なにそれ、ヤバそう」
「まあ、俺達も危篤部みたいなもんだしな」
「空渡くんって面白いね。趣味とかなんなの?」
「アニメとかゲームとか」
話せている。話せているぞ!
水ノ下と話せた時も嬉しかったが、男子と話せるというのはまた特別な嬉しさを覚える。
その後も三人組は俺に話題を振ってくれた。
アニメの話では少しだけ盛り上がれた気もする。
赤ちゃんの言っていた通り、このクラスは俺が知らないだけで良い奴が多いのかもしれないな。
気づいたら2時間が経ち、食べ放題の時間が終了になった。
「ヒクッ。えー、先生は酔っ払ったので、この後も適当に飲んどきます。クラス会はこれで終わるけど、遊ぶ奴は犯罪を犯さないように遊べ。以上」
最後まで絞まらない挨拶で終わった。
俺は三人組に「どもっ」と会釈すると店を一番に出て、家路に着こうと歩きだした。
「ちょ、ちょっと待って星斗くん!」
その声に踵を返すと水ノ下が肩で息をしながら佇んでいた。




