21.問.クラス会に行きたくなくて幼馴染に嘘をついたらどうなる?
球技大会は終了し、昼休みを迎えた。
体を動かした後の昼休みはかなり眠く、窓から見える雨で荒れ果てた校庭をただじっーと見つめながら独り、焼きそばパンを貪っていた。
「あいつが最後ミスらなければ勝ててのになー」
「だな。顔面レシーブとかありえないわ〜。しかもジャージ破れてたしな。ははっ」
どこからともなくそんな声が聞こえる。
『赤い彗(自称)』として途中まではそこそこ活躍したものの最後の1点をミスした俺の評価は地にまで落ちていた。
終わり良ければすべて良しとは言うが、その逆も然り、終わりがダメならすべてダメなのである。
それくらい最後という場面は印象に残りやすい。
しかしまあこんなことも計算のうちで、水ノ下のボールを取りに行ったのだから仕方ない。
無論あの場面で俺じゃなく水ノ下が取っていたらミスしなかった可能性もあるが……。
「みんな球技大会お疲れ。惜しくも2位で終わってしまったがみんなが頑張って参加した姿は担任として誇らしく思う」
突然教室に入ってきた赤ちゃんは教壇に立つとそう言って満足したように、うんうんと首を縦に揺らした。
「でも2位だからねー」
「そうそう。悔しいよな」
各々が愚痴るように呟く生徒達。
「まあ確かに惜しかったことに違いないが、あくまでそれは結果だ。人生において結果は大切だが、君たち若人にとっては過程のほうが大切なこともある。だからそれを評価して明日、土曜日にクラス会を開こう。無論私の奢りだ」
「マジっすか先生! よっしゃー!」
「ありがとう! 姫咲先生!」
「落ち着けーい! んじゃ場所は後で委員長に連絡しとくからよろしく〜。委員長、連絡よろしくな」
「了解しました!」
先程の落ち込んだ雰囲気はどこへやら、大盛り上がりする教室内。
まあこいつらは優勝<奢りのクラス会だからな。
だがこれは幸いで、目的を達成したことだし俺に対する風当たり少しは弱まりそうだ。
☆
ホームルームも終えて放課後になり、早々に帰宅しようとすると水ノ下が俺を呼び止めた。
「星斗くん、今日はありがとう。最後の得点の時、私の事庇って取ってくれたよね?」
「いや、別に自分で取れると思ったから取っただけだよ」
「まあ星斗くんならそう言うと思ったけどね。ふふっ。じゃあ私、茶道部行くからまたクラス会でね!」
「いや、その俺クラス会には──」
「ちゃんと来るんだよ! じゃあね」
水ノ下はそう言って嬉しそうに部活に向かった。
クラス会かあ……。
元々行く気は無かったが、また水ノ下の私服を見れるのは嬉しいかもしれない。
でも行ったところでワイワイ、ガヤガヤと騒いでいるみんなの輪に入れる気はまったくしないしな。
校舎を出ると先程まで降っていた雨も止み、灰色雲の隙間からは眩い光の薄明光線が差し込んでいる。
クラス会に行くか、行かないか決めあぐねながら校門を抜け、学校を出ると、いつも水ノ下と待ち合わせしていた場所に腕を組みながらスマホを弄るアイルの姿があった。
「お前こんなところで何してんだ?」
「やっと来た。もう美織と仲直りしたんだから早速ギャルゲやるわよ」
「へいへい。それにしてもよくお前から謝ったよな」
「まあ、その、あんたのお陰ってのもあるし……、あの時、美織が落ち込んでたからね」
「別に俺、何もしてないけどな。でもまあ仲直りできて何よりだ」
「でも美織のことはやっぱり好きじゃないから。それに最後のサーブを無理に取りに行ったあんたのことも嫌い。ふんっ」
相変わらずのツンツン具合。
これでこそアイルらしいと言えばアイルらしいが。
俺達は1メートルほど距離を空けながら家路を進んでいく。
「まあ、嫌いで結構ですよ。そういえばお前はもちろんクラス会行くんだよな?」
「当たり前でしょ? あんたは行かないの?」
「俺が行っても楽しくないことくらい分かってるだろ。ボケーッとみんながはしゃぐ姿見るくらいなら家でゲームやってるほうがマシだ」
「そうやって逃げるんだ。いいからあんたも参加しなさい。赤ちゃんだってそう言うと思うし」
「別にクラス会如きに逃げるもなにもないだろ。単純に自分自身が楽しくないだけなんだから」
そう、楽しくないだけだ。
決して逃げてるわけではない……と思う。
初めて話す人にはキョドるし、話題を振られなければ会話もままならない。
水ノ下のような優しい人ならともかく、普通の奴ならこんな俺と話しても絶対に楽しくない。そして俺自身も楽しくないのだ。
「そんなのどうだっていいわよ。明日迎えに行くから準備しときなさいよね」
「どうだっていいってお前な……。俺の気持ち考えてくれよ」
「うっさいわね。あんたの事を考えて言ってるんだから少しは感謝しなさいよね」
こうして俺は半ば強制的にクラス会に参加することとなった。
☆
──クラス会当日。
今日も天気は雨。
どうやら完全なる梅雨入りを迎えたらしい。
梅雨特有の湿気を含んだ空気が体を包み込み、布団から俺を出さないようにしている。
時刻は10時を過ぎ、アイルが迎えにくるまで1時間を切った。
すべては梅雨のせいだ。
そうゆうことにしてやっぱりクラス会には行かないでおこう。
俺は体温計と季節外れのカイロを持ってくると枕元に置いてアイルが来るのを待った。
これで準備は完璧。
流石に熱が出てしまったと言えばあいつもすぐに諦めてくれるだろう。我ながら完璧なまでの策士っぷりである。
10分前になるとカイロを空気に晒して、熱を帯びてきたら体温計にくっつけた。
さあ、あとはアイルが来るのを待つのみだ。
──ガチャ
勢い良くトビラが開くと俺はわざとらしく咳き込んだ。
「ゴホッ、ゴホッ」
「兄! アイルが来てるぞぉ」
「月花か、お兄ちゃん熱出ちゃったみたいでな。ゴホッ、アイルにそう伝えてくれ。ゴホッ、ゴッホ」
「おぉ、わかったぁ」
もちろんこれだけであいつは引き下がらない。
必ず部屋に来て様子を伺うだろう。
月花が伝えに行って、すぐに階段を登る足音が聞こえた。
ヤツが来た。
「熱出たって、大丈夫?」
「ゴホッ、ゴホッ。だ、大丈夫。きっと昨日頑張り過ぎたからだろうな」
「そう。今日お母さん居なくて、月ちゃんもこれから出掛けちゃうんでしょ? 私が面倒見ようか?」
なんでこいつ今日優しいんだよ。
いつも通り『ふんっ、そう。バカは風ひかないって嘘だったようね。バカ』とか言ってくれればいいのに。
俺の良心が少しばかり痛む。
「だ、大丈夫だ。だからアイルは俺に構わずクラス会行ってくれていいぞ。お前が行かないとみんな寂しがるだろ」
「病人をほっとけるわけないでしょバカっ。遠慮しないでいいわよ」
遠慮なんかしてないのに……。
くそっ。思わぬ展開になってしまった。
アイルは1階から冷やしたタオルと風呂桶を持ってきて、俺の額にタオルを乗せるとベッド横に座り込んだ。
「そういえば昔、あんたに看病してもらったことあったわね」
「そ、そんな事、あ、あったか?」
なにこれ。現役アイドルに看病してもらうとか夢のような光景ではあるが、相手がこいつなだけになんか怖い。
「うんっ。まあ気にせずゆっくり寝てなさい。そういえば熱はどれくらあるの?」
「えっ? ああ、もう一回測ってみるよ」
そう言って布団の中に忍ばせていたカイロで温めた体温計を脇に挟んだ。
──ピピッ、ピピッ
すぐに音が鳴り、アイルに体温計を渡した。
「どうだ、ゴホッゴホッ。やばいだろ」
「──48℃……。あんた、熱使いの異能力者かなんかなの?」
チラッと横を見ると、アイルはぷるぷると肩を震わせ不適に笑っていた。
その直後、俺の布団をバサッと勢い良く捲り上げた。
「い、イヤン! 何するんだよ」
「おい、その白い袋はなんなのかなぁ?」
「んっ? これは寒かったからカイロを持ってきただけだ。断じて不正なんかしてない」
「ちょっとあんた、おでこ貸しなさいよ」
「おでこは取り外しできないから貸せない!」
「何言ってんよ、バカっ! 早くかせーっ!」
アイルは俺の顔を両手で掴むとそのままおでこをくっつけた。
額に感じる生温かい温もり。ギュッと目を瞑るアイルの顔が近くにあって、幼馴染といえど、どうしようもなくドキドキしてしまう。
アイルは額をゆっくりと離すと天を仰いで叫んだ。
「ぬぁー、もう分かんないわよ。この部屋暑すぎ!」
別に暑くないと思うが……。
それにしてもどうすればいい。
さすがに嘘とバレたらかなり面倒くさいことになりそうだ。
「とりあえず5分ほど経ったら、またその体温計で測るわよ! いいっ!?」
「えっ、あ、ああ……」
こうなれば運を天に任せるしかない。
頼むから俺の体よ、発熱してくれぇ!
五分が経ち、俺は恐る恐る脇に体温計を挟んだ。
──ピピッ、ピピッ
「ほら、体温計出しなさいよ」
「へいっ……」
その後、天の願いが通じなかった俺はアイルの逆鱗に触れ、怒鳴られながら準備を済ますと急いでクラス会に向かう羽目になった。




