20.問.パツパツ赤ジャージで球技大会に出たらどうなる?
いよいよ始まった球技大会。
これは学年ごとに行われ、初日の金曜日は午前中は2年生、午後は1年生。
来週の月曜日は3年生と時間分けされて行われる。
バレーは15点1セットマッチの総当たり戦だ。
2年生は6クラスあるので、5回も戦うこととなる。
俺達2年2組の最初の対戦相手は4組。
パツパツ赤ジャージ姿の俺は希望しなくともベンチ控えとなった。
体育館の隅っこであぐらをかいてボーッとしていると同じくバレーを選択していたアイルがやって来た。
「ぷぷっ、あんたの格好ヤバすぎ。スネ毛丸見えじゃない。キンモー、モイキー」
「うるせーよ。ジャージ忘れたんだから仕方ないだろ。そういえば水ノ下が今日お前に謝るってさ」
「な、なんであんたがそんな事知ってんのよ」
「水ノ下が昨日言ってたんだよ。いいチャンスなんだからお前もツンツンしてないでちゃんと謝るんだぞ」
「うん……。言われなくてもそうするよ」
「これが解決したら、また恋愛の協力してやるからさ」
「当たり前だし。そういえばサインの件だけど一枚だけなら書いてあげる」
「本当か!? ありがとう!」
「じゃあ私みんなの所行くから。あんたも不貞腐れてないで、優勝するために頑張りなさいよ。赤ちゃん♪」
「っつ。赤ちゃん言うな!」
だいたい俺が頑張った所で優勝なんてできるわけないだろ。
それに、このジャージで頑張るとかマジ恥ずかしすぎるし。
1試合目は無事勝利に終わり、2試合目が始まる。
結局俺は見に来ていた赤ちゃんに呼び出されるとそのまま試合に出ることとなってしまった。
メンバーには水ノ下とアイルがいる。
学園の2大美少女が出るとあって、否が応でも注文が集まる。
ついでにパツパツ赤ジャージ姿の俺にも『なんだ、あいつやべーやつだな』と小さい声ながらも聞こえるヤジと薄ら笑いが注がれた。
「星斗くん、気にしないで頑張ろ!」
「ああ。でもあんまり頑張りすぎるとジャージ破れるかも……」
「それはそれで面白いじゃん。絶対勝つんだから、パンツになってもプレーしなさい」
俺を励ます水ノ下と無茶を言うアイル。
「パンツになったらその前に退場させられるだろが」
アイルは何故か気合い十分で俺との温度差は大きい。
ホイッスルが鳴り、相手からサーブが放たれた。
ボールは一直線に俺に向ってくる。
「星斗!」
「くっ……」
アイルの声に反応して手を前に出し、一応それっぽく構えると運良くセッターの彼女の元へと返った。
やれやれ、バレーなんて簡単じゃないか。
俺の役目は終わった。
そう思い佇んでいるとまたしてもアイルから檄が飛んだ。
「アタック!」
おい、俺になんで上げるんだよ。
ジャージが気になってジャンプなんてできねーよ。
トスの落下地点に向かい、ヤクルトくらいの高さでジャンプするとヒョイっとボールを相手コートに返した。
ブロックする相手のすぐ背後にボールはゆっくりと落ちていく。そのまま運良くコートにボールは着地した。
棚ぼたの先制点ゲットだ。
「星斗くんすごい! やったね」
「いや、たまたまだよ」
「本当にたまたまね。あんた次からはちゃんと動きなさいよ。ミスったらぶち殺すから」
ただの球技大会のバレー如きに熱くなりやがって。
そんなにクラス会やりたいのかよ。
優勝したとしても俺は参加しないけどな。
「なあ、俺にトス上げなくていいぞ」
「それは無理! 私に考えがあるの。あんたの適当さがついに生かされるのよ」
「なんだよそれ」
「まあやってれば分かるわよ」
その後もアイルは俺が前衛の時にはトスを上げてきた。
ぶっちゃけ打てないし、フェイントで返すことしかできない。
しかもジャージが気になるせいか自然と力が適当になり、ボールを落す位置はバラバラだ。
だがこれが素人ばかりの球技大会では十分な威力を発揮して7得点の大活躍をした。
「大活躍だったね! 星斗くん」
「いやー、それほどでも」
と言いながら確かに自分でもそう思う。
これはもう『フェイントの魔術師』とか『赤い彗星』とか異名が付いちゃうレベルだろ。
「なーに調子乗ってんのよ。まだあと3戦もあるんだからね」
「へいへい。わかってますよ」
その後、試合は進み3勝1敗となった。
この最後の試合で勝てば優勝となるドラマチックな展開を迎える。
外は雨が降り出したらしく、サッカーとテニスを選んでいた生徒達が試合中断により体育館に押し掛けてきた。
体育館のバルコニーに溢れるギャラリー。
ラストメンバーは公平を期すため、あみだくじで選定された。不運なことに俺はメンバー入りを果たした。
アイルと水ノ下も選ばれたようで、アイルはやる気満々、運動の苦手な水ノ下は『私はやればできる子』と呟きながら自らに自己暗示をかけ、コートに入っていった。
「頑張れー! アイルちゃん!!」
「美織ちゃん、ファイト!!」
運動部連中である野原グループが入ったことで俺達クラスの声援は凄まじいことになっている。プレッシャーが凄まじい……。
試合が始まると盛大なシーソーゲームとなっていった。
無論、赤い彗星の異名を持つ俺もフェイントを駆使して大活躍だ。
「いいぞー! 赤い奴!」
こんな俺にもこの時ばかりは声援が送られた。
それにしても赤い奴とは……。なんかお揚げが入ってるうどんっぽいだろそれ。
そんな盛り上がりの中、ひとり浮かない顔をしていたのは水ノ下だ。
別にみんな気にしていないとは思うが、ミスでの失点が多かった彼女は責任感を感じて俯いたまま黙り込んでいた。
誰でも得意や不得意なことがあるし、たかが球技大会如きに重荷を背負うこともないのに。
試合はその後も取って、取られての展開が続き14対13と俺達のクラスがマッチポイントを迎えた。
ここでサーブは水ノ下。
俺は転がったボールを手に取り彼女に手渡す。
「大丈夫か?」
「うん……。みんな頑張って点取ってくれたんだし、絶対サーブ入れてみせるから」
そう言った水ノ下の顔はぎこちない笑顔で笑った。
この場面でのサーブは相当なプレッシャーだろう。
これ以上ミスをして落ち込まないことを祈るばかりだ。
手を大きく振りかざしながら水ノ下は相手コート目掛けてサーブを放った。
そのまま一直線にボールは飛んでいくとセッターであるアイルの後頭部に直撃した。
騒然となる場内。
頭を押さえながら振り返るアイルと今にも泣き出しそうな水ノ下。
さすがのアイルもキレてしまうのかと思った矢先、
「大丈夫。まだ次があるから頑張ろうよ! それとこの前は言い過ぎてごめん」
アイルは水ノ下の手を取るとにこやかに微笑んだ。
ゆっくりと頷く水ノ下。
「アイルちゃん……ありがとう。私もごめんね」
プライドの高いアイルから謝ったのはかなりの驚きだった。
きっとあいつなりに頑張ったのだろう。
二人の和解に何か力になれたわけでもないが、目の前の光景に俺は満足した。
しかしその直後、水ノ下がサーブレシーブをミスってしまい、俺達は一気に窮地に立たされた。
応援にも焦りの熱が加わり、先程より一層声が大きくなっている。
「空渡! なんとかしろー! 負けたらその格好で一週間登校させるぞ」
赤ちゃんの耳障りな声援が聞こえる。
しかしこの人の冗談は本気だから困る。
こんな格好で一週間登校してみろ。近所のガキどもにイジメられるぞ。
これを落とせば優勝は叶わない。そんなプレッシャーがみんなを包んでいる。
1番この状況がキツイと感じてるのは水ノ下だろう。
ここで俺は一つ決意した。
サーブが水ノ下に向かったら俺が代わりに取ろうと。
きっと彼女の場合、これで負けたら自分自身を酷く責めるだろうし、水ノ下に落ち込んだ表情は似合わない。
俺が上手く取れる自信はないが、彼女にあの時の恩返しできたらと思った。
相手クラスのサーバーがバレー部に替わり、サーブが打たれると最悪なことにボールは再び水ノ下に向かった。
俺は予定通りサーブを追いかけて彼女の前に入るとボールを上げようと手を顔の前に構えた。
しかし無様にも指と指の間をボールがすり抜けると、顔面に直撃した。ついでにジャージの股も限界を迎えたのかビリッと音を立てて、ぱっくりと破れた。
──ピッピー!
ホイッスルと同時に聞こえる2組連中のため息。
試合に敗れ、ジャージも破れた。
まあ俺なりに頑張ったのだから悔いはない。
そもそも優勝などどうでもいいと思ってたからな。
破れたお尻部分を押さえながら整列する時、水ノ下は小さな声で「ごめんね。ありがとう星斗くん」と呟いた。




