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16.問.日ノ上アイルの悩める夜とは?

 お風呂上がり、濡れた髪の水分をタオルで拭きながら、使い古した机の引き出しを開ける。

 手に取ったのは一冊のピンク色の日記帳。


 ここには私、日ノ上アイルの決意、悩み、希望、そして好きって想いがたくさん記されている。

 書き始めてからすでに10年の月日が経ち、すでにその数は40冊を超えた。


「はぁ……。やっぱり今日、美織に言い過ぎちゃったよな……」


 罪悪感に苛まれながらも、私は美織のことが嫌いだ。

 それは別に憎いとか、単にムカつくとかそんなことではない。

 嫉妬もあるけど、それだけではない。

 何も考えることなく、素の姿でいい子として人と接することのできる彼女が羨ましいから。

 きっと私の幼馴染である(せい)くんに対してもそうなんだろう。

 自分と真逆ゆえの嫌悪感というやつなのかもしれない。

 

 本当は私だって星くんにいい顔してみたい。ツンツンしてない違う私も見てもらいたい。

 それに甘えてみたい。ギュッとしたいし、してもらいたいよ。

 それから……それからずっと、ずっと大好きだったよって伝えたいよ。


 日々揺らぎそうになる心を()()()に書いた日記を見て改めて戒める。

 アイドルになった目的を達成するまでは、絶対に星くんに好きって気付かれる訳にはいかないから。

 それは私の背負った十字架でもあり、決して途中で放り出すことはできない、叶えたい目標だ。


「私は1位を取って、センターになってトップアイドルになる! 絶対にっ!」


 そう声に出し、自分の頬を叩いて鼓舞した。

 6月中旬には今年の人気投票が行われる。

 昨年は9位。研修生時代からは想像もできなかった進歩だ。


 仕事時間やメディアへの露出が少し制限される高校生にしてはかなりの大健闘だと思う。

 だけど今年こそは1位になってセンターになりたい。

 そして伝えるんだ、星くんに。好きって言葉と一緒に伝えたかったもう一つのことを。


 日記帳をそっと閉じるとベッドに体を預けた。

 髪の毛乾かさなきゃな。

 そう思いながらも枕元に置いてあるモフモフした猫の人形を手に取った。


 この子は私の悩みをなんでも聞いてくれる『星太(せいた)にゃん』。

 虚ろな瞳がどことなく星くんに似ている。


「星太にゃん。美織が星くんのこと好きになって、両思いになったりしないよね? 二人がいきなり近づいたから私、心配だよ。今日も2人で、で、デートなんて……」


「大丈夫だにゃん。美織が星くんのこと好きになるのなんて全国的に見て0%だにゃん」


「そうかなぁ? そうだといいんだけど……はぁ。ちょっとだけ星くんにデレても大丈夫かな?」


「今までツンツンしてて、いきなりデレたら変に勘ぐられるにゃんよ? 大きいサングラスまでしてニヤついた目、隠すために頑張ってたにゃん」


「だよねぇー」


 もちろん星太にゃんは喋らないのでこれは私の完全なる独り言だ。

 星くんは美織が好き。

 そのことは前から気づいて知っている。まさかラブレターなんか書いているとは思わなかったけど……。

 だけど私は動じずに安心していた。星くんと美織が近づくことなんてないだろうと。

 だから2人が一緒に登校して来たあの日から、予想外なことが起き続けている。

 もし2人がさらに仲良くなって、両思いになって、付き合ったりしたら私はどうするんだろ。


 きっとどうしようもなく、ただただ落ち込むだけだ。

 付き合ってからでは好きという気持ちを伝えても遅いかもしれない。

 それでも、それでも譲れないんだ。


「まあ今は選挙に向けて頑張るにゃん! アイル、ファイトにゃん!」


「うん! ──月曜日美織に謝った方がいいよね。嫌いだからって身勝手すぎたし……」


「素直に謝れるかにゃん?」


「うぅ……。多分無理かも」


「まあ、きっと謝れる時がすぐ来るにゃんよ」 

 

「そ、そうかな……」


──ガチャ。


 星太にゃんとの会話に夢中になっていると、突然自室のドアが開いた。

 私はあわあわとしながら起き上がり、なぜかアキレス腱を伸ばす。


「アイル、入ったよ。何してんの?」


「ちょ、ちょっとお姉ちゃん! ノックぐらいしてよ。入ったよって……。で、何?」


「明日ライブあったよね?」


「うん。午後からだけど?」


「私とお母さん行くから星くんも誘おうかと思って」


「え、いいよ! まだ……」


「そっ。まっ、了解だよ。今年こそセンター取れるといいね」


 私のお姉ちゃん。日ノ上セイラはサムズアップしながらそう言うと、何か見透かした様子でニヤリと微笑む。

 

「取れるんじゃない、絶対取るんだから!」


 自信満々に返した私にお姉ちゃんは「頑張れ、アイル」と小さく呟くと私の部屋を後にした。

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