17.問.カップルと出会ったらどうなる?
あれから4日が過ぎ水曜日を迎えた。
アイルと水ノ下を見ていると和解の進展はまったくない。
お互いに視線を合わせることもなく、なるべく近づかないようにしている姿すら見受けられる。
これは彼女達を和解させるのはかなり難しそうだ。
そして今日も何の進展もなく学校を終えてしまった。
結局アイルにあんなことを言っておきながら俺自身どうする事もできずに、ただぼーっと机にひれ伏して状況を眺めているだけだ。
水ノ下にアイルのことを話そうとすると察して逃げられるし、アイルはアイルであんな性格だ。
所詮俺に和解の協力などできそうにもないと痛感している。
帰り道。
一人で家路を歩いていると目の前から男女のカップルが歩いてきた。
仲良く手を繋ぎながら楽しそうに話すその姿は、実に微笑ましい光景だ。ヒューヒュー! どうせこの後めちゃくちゃエッチするんだろ。爆ぜろ!
目を合わせないよう俯いて通り過ぎようとした時、
「あれ? 盗人くんじゃん! 今日は美織と一緒じゃないんだ」
「え? あ、ああ、どうも」
以前帰り道で会った水ノ下の友達。まなみちゃんに声を掛けられた。隣りにはぴたりと寄り添っている貴一がいる。
それにしても、会って2回目なのにいきなり盗人くんと呼ぶとはこのビッチ女め。コミュ力が高いからって調子に乗るなよ!
貴一は「よっ!」と手を上げ、親しげに挨拶をすると、
「そういえばさ、お前って日ノ上アイルと確か幼馴染だったよな? 中1の時よく一緒にいたし。こいつがサインほしいってずっと言っててさ、俺はもう関わりがないから代わりにサインもらってくれないか?」
「お願いします! 盗人くんっ!」
「か、確約はできないけど、それで良ければ」
と言いながらも俺はサインをもらう気など毛頭ない。
初めてこうゆう出来事があった時にアイルに頼んだら、あっさりと断られた上に色紙をビリビリに破かれたことがあった。
その時は自分でマネして書いて事なきを得たが、さすがにまた偽物の俺直筆サインを渡すのは気が引ける。
だから俺はこうゆう時は曖昧な言葉で逃げ道を作るのだ。
「本当にっ! ありがとう! じゃあ、なんか奢るよ!」
「そうだな。コーヒーとパンケーキくらい奢らせてくれ」
「いや、全然いいよそんなの。か、確約できたわけじゃないし」
寧ろ確約しないしな。
だいたい俺に頼まずとも他の女の子に頼めばいいのに。
いや、待て。まなみちゃんが水ノ下に頼めば話せるきっかけになるんじゃないだろうか。
そうすれば少しは二人の状況は変わるかもしれない。
「もしかしたら水ノ下に頼んだ方が確実かもよ」
「いやー、もう頼んだんだよね。だけど珍しく断られちゃってさ」
なかなか上手く事は運ばないものだ。
いずれにせよ、親しくもないカップルと3人で喫茶店とか俺には拷問すぎる。
適当に言い訳して帰るか。
「そっかあ。じゃあサインは俺で多分なんとかするから、それじゃ用事も──」
「ありがとう星斗! じゃあ前と同じ喫茶店でいいか?」
なんだよこいつ。人の話を最後まで聞きましょうと習わなかったのか。
俺の気持ちを少しは忖度してほしいものである。
「じゃ、行こうぜ」
「お、おい。ちょっと……」
貴一に肩を押され俺は無理矢理喫茶店に入ることとなってしまった。
この鈍感バカップルめ。
店内に入ると以前と同じ席に案内された。まったく何が悲しくてワンカップル、ワンボーイで時を過ごさなければいけないのか。
普通に気不味すぎるだろ。
「盗人くん、何食べる?」
「じゃ、じゃあフレンチトーストで」
「おっ、いいね。俺もそれにしようかな?」
「じゃあ貴一はそれね。私はパンケーキ頼むから交換しようよ」
「オッケーだぜ」
くっ。まったく見せつけてくれやがる。どうせこいつらは間接キスとかでドキドキしたりすることも、もうないんだろうな。むちゃくちゃ濃厚なエッチしてるからな! 多分。
「じゃあ星斗はパフェにしろよ。そうすれば3人で交換できるだろ?」
何そのトリックプレー。俺も混ぜてくれるの? もうそれ3Pの域に達してるんじゃないの?
でも俺、こいつと兄弟とか嫌なんだけど。
「いや、でも口つけたら食べれなだろ? その間接に、なるし……」
「ん? 最初に来たらみんなで交換するから問題ないだろ。普通」
そ、その手があったか。
こうゆう経験のない俺にとっては浮かばなかった発想だ。
なら俺の貞操は守られる。
「あはは、盗人くんって変わってるよね。美織にもいつもそんな感じなの?」
「そ、そりゃこれが俺なんで……ははっ」
「そういえばお前ってさ、昔、林健人と仲良かったよな。あいつとは連絡とってないのか?」
「あ、あぁ……」
嫌な名前を出してくれたもんだ。
あの出来事以来当たり前だが、健人とはずっと疎遠だ。
一緒に遊んでいたアイルの方はどうかわからないが、話題に上がらないからわからない。
「そうなんだ。あいつも今は芸能事務所入ってモデルやってるらしいぜ。まあ無名に近いけどな」
「そうなんだ……」
「それよりさ、美織とはどんな感じなの? あの子は付き合ってないとか言ってたけどさ」
「えっ、本当に付き合ってないって。普通に考えて俺と水ノ下が釣り合うわけないだろ」
そう言ってもまなみちゃんは訝しがる視線を緩めない。
だいたい水ノ下と付き合ったらウザいくらい自慢しまくるっての。
「確かにそうかもだけど、美織が男の子といるのって珍しいからさ。しかもなんか楽しそうだったし」
「そ、そうかな?」
「本当にいい子だからもし付き合ったら大切にするんだぞ。じゃないと盗人くんの髪の毛毟り取るから♪」
「いいね、俺も俺も♪」
なんでお前らカップルにイチゴ刈り感覚で毛を毟り取られなきゃならんのだ。
それにしても水ノ下の評判はすごいな。
みんなからいい子って言葉しか聞かない。
それなのに何故あの時、彼女は『私の本当の気持ちわからない癖に勝手なこと言わないでよ!』と言ったのだろうか?
「あ、あのさ、水ノ下ってなんか悩みとかあるのかな?」
「なになに!? なんかあったの?」
「いや、べ、別になにもないけどさ。なんとなく」
「んーないと思うよ。あんな優しくて可愛くて、めちゃくちゃいい子に悩みなんてないでしょ?」
「そ、そうだよな。昔なんかあったとかもないよな?」
「んーないね。小、中と一緒だったけど凄く頼りになるし、みんなから凄い好かれてたよ。てか盗人くん。そうゆうのは本人に聞いたほうが1番早いと思うよ?」
聞けないから聞いてるんだがな。
まったく自分のコミュ力基準で事を考えないでほしいものだ。
そうゆうデリケートゾーンの話を本人に聞くなど俺には到底できっこない。
「そ、そうか、ありがとう。まあまた機会があったら自分で聞いてみるよ」
「その時はまた教えてね。美織に悩みとかあったら気になるし」
「う、うん」
俺は小さく首肯すると貴一がポケットからスマホを取り出した。
「んじゃ、星斗。アドレス教えてよ」
「えっ、なんで?」
「アイルからサイン貰ったら取りに行くからさ」
すでに貰える気満々なのが伝わってくるぞこいつ。
まあ、めんどくさいが奢ってもらったし一応聞いておいてやろう。
貰えなかったら一生連絡しなければいいだけだし。
俺と貴一は連絡先を交換すると、デザートを食べ終え、店を出た。
俺のアドレス帳に不要ではあるが、男のアドレスが入ったのは健人以来である。
「んじゃ、期待してるからよろしくな! またな」
「美織にもよろしくねー! またねー」
「お、おう。また……な」
夕焼け沈む街並みに消えていく二人の後ろ姿は、この後めちゃくちゃエッチしそうな程に寄り添い合っていた。ヒューヒュー♪
「見せつけカップルめ爆ぜろ」
そう言って俺は一回フィンガースナップをして指を鳴らすと踵を返して家路についた。




