15.問.幼馴染の本性が好きな人にバレたら?
何でここにアイルがいるんだよ!?
しかもその姿は以前のデート練習で水ノ下と鉢合わせた時の格好だ。
あの暴言、暴力女がアイルだと流石に水ノ下も気付いてしまうだろ……。
「あ、アイルちゃん。その格好って……」
「えっ? あぁ、変装だよ!? さすがにアイドルが普通の格好で街中に出れないでしょ。あはは」
あはは、じゃねーぞ。
全く何でこんなところで、よりによってこんな時に会ってしまうのか。
めんどくさいし、世話の焼けるやつだ。
仕方ない。助けてやるか。
「へー、そうなんだな! アイドルってのも大変だな。お前の変装した格好、初めて、初めて見るよ!」
ナイスフォロー俺氏。
これはもうゴールデングラブ賞も取れちゃう勢いだろ。
初めてってとこは大事なの2回言っておくサービス付きだ。
これで水ノ下も疑いはしないだろ。
「はぁ? 何言ってんのあんた。1週間前に見てるでしょ?」
えぇ……。何こいつ自滅点決めてんだよ。
バカなの? アホなの? 死にたいの? せっかくフォローしてやったのに。
水ノ下は訝しがるようにアイルを瞠ると、
「1週間前って確か駅前で星斗くんと会った時だよね?」
「……くっ。そうよ、あー、もう隠しても仕方ないから教えるけど、あの時にいた女、私なの」
自ら明かしたアイルはサングラスを掛けると、不機嫌そうに腕を組んだ。
俺にはこいつの考えがさっぱりと言っていいほどわからん。
あれだけひた隠しにしたことをあっさりと言いやがって……。
自分の本性バレても大丈夫なのかよ。
「あの時、私のこと嫌いって言ってたよね?」
「そうだけど。私、美織みたいな子、大嫌いなの」
地獄だ。修羅場だ。昼ドラだ。
アイルはためらうことなく水ノ下に言葉をぶつけていった。
「も、もうやめろよ。お前が水ノ下と気が合わないからって、それを本人の目の前で言うことないだろ!」
「いいんです、星斗くん。あの時の女がアイルちゃんだったなんて驚きだけど、私も言いたいことたくさんあるんで」
はっきり、淡々と答えた水ノ下。もう俺に彼女達を止める術はない。
で、でもさすがに殴り合いになったら止めるしかないよな。女とはいえ、かなり痛そうだ……。
「ふーん、言いたいことね。真性いい子ちゃんのあなたがどんなこと言ってくれるのかなぁ?」
「学校でみるアイルちゃんと全然違うんだね。それが本当の姿なの?」
「そうだけど? でも勘違いしないでもらいたいのは私はアイドルって仕事のためにキャラ作って愛想振りまいてるの。私の絶対に譲れない目的のために。アイドルって性格や評判を作り込むのも大切だからね」
「そう。別にそうゆう性格が本当ならしょうがないけど、友達にも本当の姿を見せれないのって可哀想。いえ、むしろ無様だって思っちゃう」
「……っつ。知ったような口聞かないでよ。だいたい人間なんて良いとこ、悪いとこ、裏表あるから人間らしいのよ。プログラムされたロボットみたいに良い姿しか見せないあなたなんて気持ち悪いだけじゃない」
「良い姿しか見せない? 別に私は偽善者気取ってる訳じゃないんだよ! いい子で何が悪いの! あなただって私の本当の気持ちわからない癖に勝手なこと言わないでよ! バカぁ!!」
この時初めて水ノ下が怒鳴った。
清楚で美人、心優しい、いい人だと思ってた水ノ下が見せたその姿に俺は衝撃を受けた。
アイルも意表を突かれたのか歯をギリギリと噛み締め、ただ黙って彼女を見つめている。
傘に当たる弱々しい雨音だけが、沈黙に陥った俺たちの耳に届いていた。
「ごめん。星斗くん、私帰るね。今日は本当にありがとう」
そう言い残すと水ノ下は手で顔を隠しながら走り去って行った。
この時の俺は彼女が抱えていた心の奥底にある理解し難い悩みを知るすべもなかった。
取り残された俺は呆然と佇んんでいるアイルの手を仕方なく取ると、近くの喫茶店に入った。
「お前さ、なんで正体明かしたの?」
「なんとなく、気まぐれってやつ」
「気まぐれって……。お前はフレンチ屋のメニューか」
「うるさいな。あんたはなんで美織と2人っきりでアキバなんかにいるのよ!?」
「お前こそなんでここにいるんだよ」
「私は今日ここでライブがあったの。それが終わって、マネージャーが車出せないって言ったから、仕方なく電車で帰ろうと駅に向かってたの。であんたは?」
勘のいいアイルのことだ。ここでペラペラと嘘ついても見透かされて問い詰められるだけだし、本当のことを話しておくか。
水ノ下がギャルゲ好きってことは秘密って言っておけばこいつも言うことはないだろう。
こうして俺は今日のデートに至った経緯を全てアイルに話した。
彼女はふーん適当に頷いて俺の話を聞き終えると机を強く1回叩いた。
「あーなんか思い出しただけでもムカつく。だいたい泣いて逃げ帰るなら言い返してくるんじゃねえつーの。まったく」
「いや、でもな、お前相当キツイこと言ってたと思うぞ。お前の豹変した姿、怖いしな」
「うっさいわね。でも途中まで淡々と言い返してきた癖に最後のは一体なんなんだか。まあ彼女のことだから今日のことを言いふらしたりすることはないだろうけど」
「確かに水ノ下は言わないから大丈夫かもな。でもクラスで顔合わせるの気まずくなるだろ?」
「別に。美織と話すことなんてあんまりだろうし、どうでもいいわよ……」
「お前、実はちょっと言い過ぎたって思ってるだろ」
「う、うっさいわね。米粒1個くらいよ……」
こうゆう所は分かりやすいやつだ。
プライドが高くて傲慢。だけど脆くて不器用。セイラさんが言ってた通りだ。
「素直に謝ってみたら?」
「はぁ? わ・た・しがなんで謝らなきゃいけないの!」
「そう言うと思った。まあお前がそれでもいいならいいけど」
「んーっ、あー! なんかめんどくさいな」
お前がめんどくさくしたんだろうよ。
俺自身も今後水ノ下と関わっていきたいし、なんとなくだが幼馴染と喧嘩してるのを見ているのも心地良いものではない。
自分に何ができるかわからないが、何か協力してやるか。
「とりあえず俺も協力してみるからさ」
「はぁ? なんで」
「前にあんなこと言っちゃっただろ。しばらくは恋愛の手伝いじゃなくて、和解する手伝いしてやるよ」
「ふーん。でもあんたなんかに、なんもできないと思うけど」
そう言ってアイルはサングラスのブリッジをあげると机の下で俺のスネを蹴り上げた。
「い、痛てえな! お前」
「ふふっ、まぁ、期待してないけど、期待してあげる。幼馴染くん」
どっちだよまったく。
こうして俺は恋愛協力を一時休止してアイルと水ノ下の和解に向けて協力していくことになった。




