14.問.好きな人とデートしたらどうなる?
今日は何の日、フッフー♪
今日は土曜日、おもいっきり、水ノ下とデートの日だ。
何度も言おう。水ノ下とデートの日だ。
水ノ下と──。
だが本日の天気は生憎の雨。
五月雨に降り続く雨粒は屋根を落ちると破裂し、不規則なテンポを奏でて家の中に響いてくる。
季節はもうすぐ梅雨に差し掛かる。
ジメジメした梅雨は別に嫌いではない。
何でもかんでも梅雨のせいにできるから。
例えば元気ないね? と聞かれたら梅雨だからと言い返せるし、ゲームしてないで外に行きなさいと親に言われても梅雨だからと返せる。
もっとも元気ないねと聞いてくる友達はいないけど……。
先日のアイルと仲直りしたあの日から関係は再び元に戻った。
ギャルゲもちゃんと教えているし、昨日は学校帰りのデート練習というものにも付き合った。
もちろん顔バレしたくないアイルは、ブレザーの制服にサングラスという実に怪しさ満点の格好をしていた。
ゲーセンに行ったり、本屋に行ったり、なぜか昔遊んだ神社にも行った。
ちゃんと恋愛協力になっているのかというとかなり疑問だが、アイルがなっているというのできっと問題ないのだろう。
クラス連中の会話を盗み聞く限りでは、アイルの好きな人はどうやら3年生の先輩らしい。
ただ本人に聞くと大いに否定して罵詈雑言を浴びせられた。
まあ単に恥ずかしいだけなのかもしれないが。
俺はデートの2時間前に起きると人生2回目のワックスを髪の毛つけた。ネットで調べたところによると量は一円玉大くらい。
一円玉大って何だよ。それ十円なの? 五円なの?
とりあえず適量を手に取るとハンドクリームを塗るように手を擦り合わせて髪の毛をわしゃわしゃとセッティングした。
ふむ。我ながらバッチリである。
そしてセットを終えると普段絶対にやることのない朝シャンのために風呂に入った。
頭を濡らしてシャンプーをつけた時に俺は気づいた。順番逆じゃね? と。
しかしやってしまったことは仕方がない。
体を洗い終えると、真っ新な青のシャツに真っ白のチノパンを着て、頭を乾かすと再びワックスをつけた。
そうこうしている間に時間もなくなり、食パンを一枚掻っ攫うと口に咥えて家を出る。
途中でトイレ掃除するの忘れてたと気づいたが無論そんな時間はないので、心の中で静かに、だが強く祈った。
どうかいい1日になりますようにと。
雨は思いの外強く、いつの間にかズボンの裾は濡れて茶色にくすんでいた。
祈った早々、幸先の悪いスタートである。
10分前に到着するとすでに水ノ下は待っていた。
「ご、ごめん。待たせた?」
「ううん、今来たところだから。大丈夫だよ」
手を膝につき、肩で息をして呼吸を整えると彼女を見上げた。
ロング丈のデニムシャツワンピースに灰色のレインブーツ。左の髪を赤いリボンで結んでいた。
何というか今日は清楚というよりは可愛らしい服装である。
水ノ下は不快そうに空を見つめると、
「今日は雨で残念だね。もう完全に梅雨入ったのかな?」
「天気予報ではもうすぐだって言ってたぞ」
「そうなんだ。晴れれば良かったのにな……。なんだか今日の星斗くんいつもと違うね」
「ま、まあ私服だからな」
「でも前にあった時の私服よりなんかオシャレな気がするな」
おぉ。人生で初めてオシャレと言われたぞ。
青シャツと白のチノパン、お前らなかなかいけるやんけっ!
母さんに買って来てもらって良かったぜ。
「私はどうかな?」
どうと言われてももちろん可愛いが、なんかそれだけでは適当な感じがしてしまうだろうか?
気の聞いたことを言える男になりたいが、人の服装とか褒めたことないからな。
「い、いいんじゃないかな」
何だそれおい。
これなら普通に可愛いと言っておけばよかった。
「ありがとう! どこらへんがいいかな?」
「その、赤いリボンとか東雲あずきちゃんみたいだ」
くっ。ここでギャルゲのキャラの名前だしてどうすんだよ。
やっぱり俺に気の利いたことなど言うのは無理なことが判明した。
だが予想外に水ノ下は嬉しそうに微笑むとリボンを触りだした。
「本当に!? ありがとう! このリボンはあずきちゃんをイメージして作ってみたんだ。さすが星斗くんだよ」
「いや、もちろん。あはは」
これは俺的ファインプレーだな。全く狙ってもいなかったが。
照れて後ろ頭を掻くと、水ノ下は不思議そうに俺を見つめた。
「星斗くん? なんか手の甲に白いのついてるよ?」
「へっ?」
そう言われて手の甲を見ると生クリームのような白いワックスがぺとりと小さく、だがはっきりと存在感を主張して付着していた。
白い、生クリームのような……。
「いや、これはワックスで、決して、その、いかがわしいものでは」
「ん? ワックスだよね? はい、ハンカチあるから使って」
一瞬ヒヤリとしたが水ノ下が理解ある子で良かった。
これがアイルだったら多分『マジキモい、死ね、変態』とか言われていただろう。
☆
電車に乗り、秋葉原に着いた俺たちはギャルゲの品揃えの豊富なゲームショップに向かった。
たくさんの美少女達が描かれたパッケージを美少女の水ノ下が食い入るように見つめている。
不思議で異様な光景だ。
店内にいた我が同士ともいえる客達もチラチラと警戒するように彼女を見ている。
「なんか、私達結構見られてるね」
「いや、俺達じゃなくって、水ノ下を見てるんだろ。いつもギャルゲはこの店で買ってるのか?」
「親にバレないように隠れてネットで買うことが多いかな? 実はここに来るの2回目なんだ」
「そうなんだ。親にバレたらダメなの?」
「うん……。うちの親、アニメとかゲームはあんまり好きじゃなくて。だからゲームのハードも携帯機しか持ってなくてさ」
基本的に放任主義の我が家は親が趣味に口を出してくるとか考えられない。
自分の好きなことを堂々とできない、また本当のことを言えないと言うのは辛いことなのかもしれないな。
「あのさ、据え置き機がやりたかったら言ってくれ。貸してほしいなら貸すし」
こんな小さいことだけど、水ノ下に恩返しになればと思ってそう伝えると彼女は綺麗なブラウンアイを輝かせて大いに喜んだ。
「ありがとう! こうやって心置きなくギャルゲのことを友達と話せるってやっぱりいいね」
「そ、そうだな」
友達……か。
好きな人と友達というのはやや悲しい気もするが、こんな俺と対等に接してくれて、ギャルゲが好きという心の内を明かしてくれた彼女は本当に友達といえるのかもしれないな。
そんなことを思いながら、その後も楽しそうにギャルゲ談を続ける水ノ下に照れくさく笑い返した。
中古のゲームを購入した俺達は店を出ると傘を差し、ブラブラと歩きだす。
朝方強かった雨も今はその手を休め、ぽつりぽつりと弱々しくアスファルトに落下している。
「お昼どうする?」
「お、俺あんまりお金ないからハンバーガーでもいいかな?」
「もちろん、なんでも大丈夫だよ。んーっ、こっちの道であってたっけ? ──わっ、ごごめんなさい」
よそ見をしていた水ノ下はドスッと真っ黒なロングコートを着た女の人に激突した。
女の胸ポケットから真っ黒なサングラスが落下する。
俺とぶつかった時といい、ギャルゲを持って帰るのを忘れたところといい、たまにだけど水ノ下はおっちょこちょいな一面がある。
まあそこも彼女の魅力で可愛らしいが。
女は落としたサングラスを地面から拾い上げると、
「こちらこそごめんなさい。私もよく見てなかったので」
そう言って顔を上げた女を見て俺と水ノ下は驚愕の声を上げた。
「あ、アイル……」
「アイルちゃん!」
「な、何であんた達二人がここに……?」
悪寒がするほど嫌な展開しか予想できない。




