12.問.空渡星斗の悲しい過去とは?
中学1年生の時。
俺にはたった一人の友達がいた。
向こうはまったくそんなことを思っていなかったみたいだが、俺にはかけがえの無い大切な、大切だと思っていた友達だ。
俺は小さい時からコミュ障で、親が仲良しで家族ぐるみの付き合いをしていた幼馴染のアイル以外は、なかなか上手く話すことができなかった。
きっと口下手な俺と一緒にいても楽しくないだろう。
そんなことを思いながら勝手に気を使って小学校生活を送っていた。まあ人一倍気を使える点でいえば自分で言うのもなんだが結構いいやつな自信はある。
中学になった。小学校同様に友達などできないだろと思って入学式に挑んだ矢先、そいつは現れた。
そいつの名は思い出したくもないから仮名でいくが、林健人。
あくまで仮名だ。
健人は誰にでも優しく、かっこいい見た目も相まってあっという間にクラスの人気者になった。
それは俺にも例外ではなく、クラスに馴染めないコミュ障な俺を人一倍気にかけて接してくれた。
最初は無理に気を使ってくれてると思って、偽善者ぶってる健人のことが嫌いだった。
だが諦めずに話しかけてくれる健人に俺も徐々に慣れていき、数ヶ月後には俺達は友達と呼べる関係にまで発展していったと思う。
心を許し、何でも話せ、対等に接することのできる真の友達。真友だ。
時に二人で、時にアイルと三人で。
休みの日は何度も一緒に出かけた。
楽しく過ごす時間はあっという間で、1年も終わりに差し掛かった頃。
クラスで財布の盗難事件が起こった。
もちろん俺はこの事件の犯人でもないし、ホームルームで担任に告げられるまでは知らなかった。
単純にそいつが落として無くしただけだろう。
そう思っていた。
念のためにクラス全員の持ち物検査が行われ、そこで俺は信じられない光景を目にした。
自分のカバンの中に誰だか知らない財布があったのだ。
その後はお察しの通り。
最後まで否定し続けた俺に対して担任を含め、みんなは冷めた目で俺を見るとたくさんの罵声を浴びせた。
その中には友達だと思っていた健人もいた。
俺は残酷ともいえるその光景に弁明する気持ちもなくなるとただひたすらに目に涙を浮かべながら、誰に向けてかわからない謝罪をし続けたのだった。
盗人というあだ名がすっかり定着した数週間後の昼休み。
ボケっと座り込んでいる俺にひとりの女子が声を掛けてきた。
『あの、ちょっと伝えたいことがあって』
久しぶりに声を掛けられた俺は黙って頷いた。
彼女は言い難そうにスカートの裾を弄りながら口を閉ざしている。
しばらく経って決意を固めたのか俺の手を引くと、誰もいない図書室の前に連れ出した。
『私、見ちゃったんだよね。星斗くんのカバンに健人くんが財布を入れてるとこ。でも見間違いかもしれないし、確実じゃないからなにも言い出せなくて』
その話を聞いた俺は無我夢中で走り出した。
彼女が言い出せなかったことなどどうでもいい。俺がみんなに犯人だと思われていることもこの際別に構わない。
純粋に彼に聞きたかった。
なんでそんなことをしたのか、友達じゃなかったのかよと。
俺は健人の元に到着すると彼の腕を力いっぱい引っ張り廊下に連れ出した。
『財布の件、お前がやったのか? なんでそんなことしたんだよ』
『……』
『なんか言えよ!!』
『だとしたら』
『俺達友達じゃなかったのかよ』
そう言った俺から健人は視線を外すと、
『友達? そんなわけ無いだろ。勉強、運動、外見。すべてで劣るお前が友達って言えるのか。釣り合うわけないだろ……』
淡々とした口調で言い放った。
単純にショックだった。友達だと思っていたやつに友達だと思われていないということが。
言い返す言葉も浮かばないくらいに。
だが今でもきっと健人にも何か事情があったのだろうと信じてしまう自分がいて、もどかしくって、濁り水を飲んだように胸が気持ち悪くなる。
こんな自分が俺は大嫌いだ。
☆
目の前では楽しそうに貴一がまなみちゃんに俺の話をしている。無論、健人が犯人だということを彼は知らない。
この事実を俺は誰にも話していないからだ。
事実を知らずに楽しそうに話す貴一がなんだかだんだん滑稽に見えてきた頃合い。
水ノ下は俺の服の裾を引っ張った。
「嘘……だよね? 星斗くんはそんなことする人じゃない」
「ど、どうして?」
なんでそんな事が言い切れるんだか。
まったく水ノ下はいい人過ぎる。
「ゲームの時だって言い訳したり隠したりすることもなくすべて話してくれたんだから、そんなことする人じゃないって私は分かってるよ」
そう言って水ノ下は優しく笑った。
信じてもらうことは悪い気はしない。
本当に有り難いことだ。
ただここまでいい人だとなんか勘繰っちゃうくらいちょっと不安になるな。
アイルが言っていた真性いい人って意味が少し分かった気がする。
「ありがとう……な」
「やっぱりね」
「な、なんで」
「今ありがとうって言ったんじゃん。信じてくれてありがとうって意味でしょ?」
「そうかも……な」
俺は自分に不釣り合いだと思いながらもこの時、彼女になにか恩返しができたらと考えてしまった。
好きという感情は置いておいて、ちょっとだけだが心の荷を取り払ってくれた水ノ下に。
「なになにー、2人でなに話してるの?」
「な、なんでもないよ! そろそろ時間だし帰ろっか」
喫茶店を出ると貴一とまなみちゃんは2人仲良く手を繋ぎながら帰っていった。
面白い話題提供してやったんだから少し感謝してほしいものだぜ。ヒューヒュー! どうせこの後、むちゃくちゃエッチするんだろ。
「じゃあ星斗くん、また明日ね! 今日アイルちゃんと仲直りするんだよ」
「お、おう。じゃあな」
楽しい土曜日を迎える前にちゃんとアイルに謝っておくか。
☆
家に帰ると見覚えのある車が家の前に止まっていた。SUVのデッカイ派手なアメ車。しかもオールペンで目がチカチカするくらいに真っ赤だ。
「ただいまー」
「おー、遅かったなけん玉野郎。何してた」
「けん玉野郎って……。先生こそ何しに来たんですか。ここあなたの家じゃないんですが」
赤ジャージ姿のちびっ子教師、妙典姫咲は自分家のようにくつろぎながらソファにだらしなく座って、煎餅をバリバリ咀嚼している。
この人は俺の母さんの姉さんの娘に当たる人物で、時々我が家にやってきては勝手に物を食べ、勝手に風呂に入り、勝手に呑みだす。
「学校じゃないんだから昔みたいに姫咲ねーちゃんって呼べよ。月花は今でも言ってくれるぞ」
「そりゃ、月花にとったら担任でもないし先生でもないからでしょ」
「相変わらず固いなお前は。便秘中のうんちか」
「くっ……。で、何しに来たんですか」
「いやー、アイルと喧嘩してるんだろ。だから人肌脱いでやろうと思ってな! あっ、今お前興奮しただろ」
くそ、アイル以上にウザぜーぞ、こいつ。
だいたいそんな幼児体系で興奮するかっての。
「で、何を」
「簡単だ。お前アイルの家行って謝ってこい」
「はぁ!? なんで俺が! あいつの家とか中1以来行ってないし、無理だ」
だいたい、いきなり女子の家に行くなど例え見知った幼馴染でも嫌だし、変に思われるだろ。
姫咲は露骨に嫌な顔をする俺を見て大きくため息をつくと、
「お前、文化祭実行委員長にでも推薦してやろうか? よし、決定だっ!」
「お、おい。この悪徳教師。権力振りかざすなんてズルいぞ!」
「バカもの。これくらいやらんとお前は動かんだろ。男ならささっと行って謝ってこい」
「くっ……。自分が男みたいな性格してるからって……」
「なんか言ったか? アイルは今日8時には帰ってくるってさ。見届けるまでここに居座るからな」
とんでもない展開になってしまった。
メールか電話で謝ろうと思ってたのになんで直接になるんだよ。
だがもうこうなってしまうと姫咲は断固としてここを動かないだろう。
「わ、わかりましたよ」
渋々返事を返すと姫咲は嬉しそうに笑った。
おせっかいってよりこの人俺の反応見て楽しんでんじゃないか。
「ただいまぁ」
「おう、月花お帰り! 会いたかったぞお」
姫咲は帰って来た月花を力一杯抱きしめた。
「姫咲ねーちゃん、く、苦しいぞぉ」
「おおー、本当に月花はかわいいなー。すりすり」
姫咲もアイル同様に妹の月花が大好きだ。
どうやらこのふわふわした雰囲気は人を引き寄せる力があるらしい。
なぜ、俺にそのスキル、受け継がれなかったんだよ。
こうして姫咲と月花がじゃれ合っているのを眺めていると母さんが帰ってきて、あっという間に8時になった。
「じゃ、しっかり謝ってこいよ」
「へいへい」
ダル重な気持を抱え、俺は家を出るとアイルの家に向かった。




