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第零隔離区ー特異感染者と呼ばれた少年ー  作者: 茅ヶ崎 真
ウイルスの定着

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8/11

第8話 第零部隊の監視下へ

あれから一週間。

雪斗の状態は安定していた。

熱は下がり点滴も外れ、暴走の兆候も見られない。

血液検査の数値も特に大きな変化はなく、古川からは経過良好と言われている。


(結局…俺はいつまでここにいればいいんだろう。さすがに暇すぎるな。)


ウィーン――


病室の扉が開く。どうせ古川か小倉だろうと思い特に反応はしなかった。


「失礼するよ。」


「!?」


聞いた事のない穏やかな声と共に、一人の男性が入ってきた。

青みのある長髪を後ろで一つに束ねている。

垂れ気味の目元に柔らかな笑みを浮かべ、雪斗へ近付いてきた。


「初めましてだね。俺はSIO戦闘部門所属の特務第零部隊隊員、“真壁 隼人”だよ。以後、よろしくね。」


そっと右手を出され、反射的に雪斗も右手を出し握手をした。


「一ノ瀬雪斗…です。」


「ははっ。緊張しなくても大丈夫。君を迎えに来ただけだからね。」


「迎えに…?」


「うん。小倉主任も古川先生も会議でいないから、今のうちに抜け出そうと思ってね。」


「…抜け出す?」


「ははっ。細かいことは気にしないで。それとも…ずっとここにいたい?」


そんなわけは無い。だが勝手に部屋を出てもいいのか…と少し考えてしまう。雪斗の考えを読み取ったのか、真壁が雪斗に笑いかける。


「安心して。君が暴れても止めれる自信あるからさ。一応、能力者でもあるしね。」


「能力者?あんたも…?」


「そうだよ。暴君ータイラントーって言ってね。」


真壁は自分の拳を軽く握り、雪斗の前へ突き出してきた。


「簡単に言うと身体能力強化かな。体のリミッターを外す能力でね。例えば…第一解放なら筋力と耐久力が二倍くらい。大型感染者ぐらいなら殴り倒せるよ。」


雪斗の表情が引きつる。


「殴るって…素手であいつらを?」


「うん。一度武器も使ってみたんだけど…力入れすぎて壊しちゃってさ。隊長に怒られてからは素手で討伐してるよ。」


真壁は穏やかに微笑んでいるが、言っている内容は全然穏やかじゃない。


「第二解放になるともっと強いんだけど、ちょっとしんどくなってくるからね。基本は第一解放止まりにしてる。」


「しんどいって…?」


「能力をもった代償だよ。人によって違うんだけどね。」


「代償?何それ?」


「あれ、能力のことは知ってるのに代償は聞いてないの?」


「元々、能力のこと自体そんなに詳しくないし…。」


「あー…えっとね…能力は本来、人間にはない力でしょ?俺らの身体はね、その力に耐えられるようには作られていないんだ。」


「どんな能力も…?」


「そうだね。だから無理やり力を使えば、その反動は必ず自分に返ってくる。能力者はみんな、自分の身体や精神を削って戦ってるんだよ。」


(人間の限界を超えた力を与える…でも身体は耐えられない。そんなの矛盾してるだろ。)


「ちなみに俺は不可逆な肉体固定化。」


「不可逆…?なにそれ…。」


「戦うために進化した身体が元に戻らなくなるんだよね。まぁ、第一解放ぐらいなら特に問題は無いんだけど。」


「怖すぎるだろ…。」


「そう?俺なんかマシな方だと思うけどなぁ。」


(マシ!?それがか!?)


真壁は驚く雪斗の反応を横目に、ゆっくりと扉へ向った。


「じゃあ行こうか。」


「行こうかって…どこに?」


「そうだなー…。まずはB1階 共有施設にしようか。案内するよ。」


「でも…。」

(いいのか…?古川先生ならともかく、小倉は反対してきそうだけど…。)


真壁は病室の扉を開き、振り返りながら笑った。


「?行かないの?」


「…行く。」


少し悩んだがいい加減病室を出たい気持ちもあった為、真壁に着いていくことに決めた。

――雪斗がB20の病室を出るのは、一週間ぶりだった。


♢♢♢


病室を出た雪斗は真壁の後ろを歩いていた。

エレベーターへ乗り込み、上の階へ向かう。


「まずはB1。共有施設フロアだよ。」


――チン。


到着音と共に扉が開くと、雪斗は思わず目を見開いた。


「……え?」


想像していたものと全く違ったからだ。

そこには数多くの人間がいた。

職員達が行き交い、談笑しながら歩いている。

白衣を着た人や警備服を着た人、私服の人もいた。

食堂からは料理の良い匂いがしている。

売店横のラウンジでは、数人がコーヒーを飲みながら話し込んでおり、その奥には卓球台まで見えた。


「なに…ここ…。」


「各フロアは制限があって誰でも入れる訳じゃないんだけど、ここの共用施設フロアは誰でも利用出来る場所でね。普段交わることの無い職員や隊員達が集まって、一緒にご飯食べたりコーヒー飲んだり…。」


「みんな仲良いの?」


「いや、実際そうでも無いよ。研究員と医療部員は険悪だし、僕らもよく情報分析部と揉めているからね。」


真壁は、はははと笑いながら雪斗に共用施設フロアを案内していく。


「大型食堂。」

「売店。」

「カフェスペース。」

「ラウンジ。」

「医務室。」

「ジム。」

「娯楽室。」

「交流ホール。」


淡々とフロアを案内してくれている。今まで監禁状態だった為、このフロアはすごく新鮮に感じた。

しばらく歩いた後、再びエレベーターへ向かう。


「じゃあここの案内は以上になるかな。次はB2階に行くね。戦闘部隊専用のフロアで特務第零、第一、第二、第三部隊が住んでる所だよ。」


「えっ、戦闘部隊専用?俺なんかが行っていいのか?」


「まぁー…ひとまずはね。」


「はぁ…。」

(曖昧な言い方するな…。)


真壁達はエレベーターに乗り込みB2へ移動した。


――チン。


エレベーターの扉が静かに開く。

雪斗は一歩踏み出し、思わず足を止めた。


「うわぁ……」


長い廊下が真っ直ぐ続いている。

床には深い灰色のカーペットが続いており、天井には間接照明。

白い壁には余計な装飾がなく、整然としていた。

左右には同じ形の扉が並んでいる。

それぞれの扉には金属製のプレート。


【2020】

【2021】

【2022】…


それはまるでホテルの客室みたいだった。


(戦闘部隊の寮……だよな?)


人の気配はするがとても静かだ。


「部屋にいる戦闘部隊の人たちは基本寝てるから、廊下ではあんまりうるさくしないようにね。すぐ攻撃してくるから。」


「攻撃って…。」


「ははは。冗談冗談。さぁ、着いてきて。」


真壁は先程と同様、ゆっくり歩き出しフロアの説明を始めた。


「ここはミーティングルーム。まぁそんなに使わないけどね。基本会議はB10階で行うからさ。で、その横が装備保管室に武器庫。武器庫に関しては隊長の許可を得てから入ってね。」


そして奥まで進んで行くと大きな扉が見えた。そのプレートには【ラウンジ】と書かれている。

真壁がその扉を開けると、人がいないのか中は静かだった。

ソファやテレビもある。


「……地下だよな?」


「地下だよ。」


窓の向こうには人工庭園が広がっていた。

巨大なモニターと照明で昼空が再現されている。

植物も多い。


「人工的に作られた展望ラウンジ。どう?いいでしょここ。閉塞感がなくて好きなんだぁ。僕のお気に入り。」


そう言いながら近くの自販機へ向かう。


「雪斗くんは何がいい?」


「じゃあ…コーヒーブラックで。」


「へぇ。大人だねぇ。」


真壁が自販機に左手首をかざし、コーヒーのボタンを押す。


ガコン――


取り出し口から缶コーヒーを取り出し、円を描くようにして雪斗へ投げた。


パシっ――


「ナイスキャッチ!」


「……どうも。」


二人はソファへ腰掛ける。向かいではなく、なぜか雪斗の横へ座る真壁。


「近い…。」


「えー?そう?」


(…変な奴だな。)

「そういえば、古川先生と小倉ってなんの会議してんの?」


「あれ?聞いてない?君の処遇改善についての会議だよ。B10階の会議室で開かれてて、戦闘部隊の各隊長と副隊長に各部門の責任者もいてね。」


「…え?まだ終わってないの?」


「なんも連絡ないから終わってないね。」


「え…?やっぱり部屋から出ちゃいけないんじゃ…。」


「…やっぱり桃味がいちばん美味しいね。」


雪斗の返答を完全に無視し、美味しい美味しいと桃味のジュースをニコニコしながら真壁は飲んでいた。


(見つかったら大問題なんじゃ…?)


♢♢♢


場面は変わり、同時刻。

B10 会議区画、第一会議室。

長机を囲むように隊長、副隊長、各部長が座っていた。

長机右側には特務第一部隊副隊長“不知火 圭吾”。左側には特務第零部隊副隊長“氷室 椿”が座っている。

二人は互いを睨み合っており、氷室の周囲には冷気が漂っている。テーブルの端には霜が張っていて、近くにいる職員はカタカタと震えていた。

対する不知火の周囲は熱気で揺らいでいる。こちらも近くにいる職員は額に汗を浮かべている。

そんな二人を気にもせず、鷹宮は立ち上がり手に持っていた資料を読み出す。

いよいよ本題だ。


「今日集まってもらったのは他でもない。一ノ瀬 雪斗の処遇改善についてだ。」


そう言うと、鷹宮は目の前の大きなスクリーンへリモコンを向けデータを表示した。


「経過観察開始から一週間たったが発症なし。見てわかる通り、暴走兆候もなく数値も安定している。」


確かにデータ上は問題なく思えるが、まだ一週間しかたっていない。職員たちに緊張が走る。


「…そこでた。俺から提案がある。一ノ瀬 雪斗をこのままB20に留めていても意味がねぇ。今後は第零部隊で管理しようと思う。」


ざわっ…


周囲が一斉に騒がしくなる。小倉に関しては異議ありいぃ!!と大きな声で叫んでいるが、鷹宮は目を合わせない。

そんな中、五十嵐が嫌な笑みを浮かべながらゆっくりと手を上げた。


「鷹宮ー、質問。」


「…なんだ。」


五十嵐は肘をつきながら話し始めた。


「第零部隊で管理するって言うけどさぁ…もし彼の能力が発現したら?その力が強すぎて制御できなかったら?理性を失って怪物になったら?その時に死人が出たらどうするわけ?」


先程まで騒がしかった会議室が静まる。

五十嵐の意見はもっともで、誰もが考えていたことだ。話は止まらない。


「一週間安全な空間で過ごしてたから、一ノ瀬雪斗の数値が安定してるだけじゃないの?実際外へ出して刺激を与えたらどうなるか…試したのか?」


「…いや。」


「はっ、試してないのかよ。前の会議では鷹宮と氷室が何かれば責任とりまーすって言ってたけどさ…ほんとに取れるわけ?口だけじゃないの?」


「!五十嵐隊長。」


氷室が思わず立ち上がり五十嵐を睨みつける。鷹宮は氷室の方を見ず五十嵐をジッと見ていた。そして低い声で氷室に注意をする。


「…椿。座れ。会議中だ。」


「…失礼しました。」


「…一ノ瀬雪斗の責任は全部俺が持つ。もちろん口だけじゃねぇ。一ノ瀬を監視し、俺らと同様に訓練させる。能力が発動しても暴走して怪物化になりそうな時でも、あいつ自身が制御出来るように一から教育する。それでも…怪我人や死人が出たら、俺があいつを始末し全責任をとる。」


その言葉を聞き、五十嵐は数秒黙った後ニヤリと笑った。


「ふっ。さすが第零部隊 隊長さまだな。オーケーオーケー。俺からは以上だ。」


あえて嫌な質問をし、周りを黙らせたのだろう。鷹宮はそれを分かっていて質問に答えたのだ。

だがもちろん、納得しない者もいる。


「異議ありいいいぃぃぃ!!!」


さすがにうるさすぎる。無視すれば後々めんどくさい事になりそうだと、鷹宮は渋々小倉に話しかける。


「…小倉主任。どうぞ。」


鷹宮に当てられた瞬間、待ってましたと言わんばかりの勢いで立ち上がり、マシンガンのように話し出した。


「まずねぇ、彼をB20から出すなんて…そんな事許されるはずがありません!いいですかみなさん。彼の体内には既に二種類のウイルスが共存しているのです!もちろん私は彼に何も投与していませよ!しかも、その内の一種類は未知の変異株です!」


「そんなこと分かっている。だから第零部隊で…。」


「甘い!甘すぎる!彼はね最高の研究対象なのですよ!研究部の監視下において、B23へ移送し隅々まで調べる…それが我々研究部の意見です!」


「…研究対象だと?」


「えぇ。発症したかと思えば自我を保ち、見た目も変化したかと思えば元に戻り…。こんなこと今までありましたか!?能力者のあなたたちなら分かるでしょう!?彼の身体は謎が多すぎる。彼は言うならば…“特異感染者”です。」


ドン!!!


低い音が響く。鷹宮が机を拳で叩いたようだ。


「鷹宮隊長…なんですか?」


「…。」


「嫌ですねぇ…。以前の会議でもそうでしたが、戦闘部隊は気に入らないことがあるとすぐに暴力で解決しようとする。まったく…野蛮な連中の集まりですね。」


「あぁ!?テメェなんつったこらぁ!!」


小倉の発言に真っ先に反応した不知火は、椅子から立ち上がり片手から炎を出した。五十嵐はすぐさま落ち着かせ彼を椅子へ座らしたが、手から出ている炎は消えていない。


「…不知火、炎でてる。しまって。…いやぁ、うちの部下が失礼しました。」


五十嵐はニコニコと反省していないであろう顔で、小倉含め他の研究部たちにも謝罪している。


「全くです。部下の管理も隊長の仕事でしょう!?」


バチッ

静電気程度の小さな音が響く。


「戦闘部隊にはねぇ、毎度毎度研究を邪魔されているんです!」


バチバチッ

だんだんと音が大きくなっていく。この時点で戦闘部隊たちは、何の音か分かっているようだった。


「天宮さんの時だってそうです!彼の能力を最大限に引き出す研究をしたかったのに、あなたがそれを止めたから出来なかった。もったいない…。彼は能力者の中で最高の研究対象なのに。」


バチッバチッ

五十嵐の方から青白い火花が散っている。音の正体はここからだった。話に夢中になっている小倉はまだ気付かない。


「戦闘部隊には研究価値があるのに、あなた方はすぐに止める。もっと素晴らしいデータが…」


バチンッ

会議室の照明が明滅した。一瞬ではあったが、小倉の話を遮るには丁度良いものだった。


「小倉主任。」


「!なんですか、五十嵐隊長…。」


「確かに戦闘部隊は気の短い奴が多い。研究部と違って感情的に動く奴も少なくない。」


「でしょう!?ですから…」


「ただ…。」


「!」


「戦闘部隊を野蛮な連中の集まりって言われるのは…ちょっと心外だな。」


五十嵐の声は穏やかだが、横にいる不知火だけは分かっていた。怒っている。普段怒らない人が怒ると怖いとはよく言うが、五十嵐は本当に怖い。不知火の手から出ていた炎もスー…と消える。


バチッバチッ


「もちろん研究部の皆様には感謝してる。毎日研究お疲れ様って思ってるけど…君たちは俺ら戦闘部隊に感謝したこと…ある?」


口元は笑っているが、目は笑っていない。会議室の照明は先程から何度も明滅していている。


バチッバチッ


「俺らは能力を持っているだけで君たちと同じ普通の人間だ。小倉主任よりうんと若い子だって何人もいる。そんな子達が命をかけて戦っているのに、野蛮な連中だの研究価値があるだの好き勝手言って…流石に悲しくなるなぁ。」


五十嵐の背後で電流が跳ねた。五十嵐は以前の会議中も、部下のことを悪く言われ今みたいに電流をバチバチさせたのちB10階を停電させた過去がある。


「い…五十嵐隊長…俺が言うのもおかしい話ですが、落ち着いて…。」


「不知火…。俺は落ち着いているし怒ってもいない。悲しんでるだけ…。野蛮な連中って言われるし可愛い部下の天宮を研究対象って呼ぶし。」


バチッバチッ

そんな五十嵐を見て鷹宮は額を抑える。


「五十嵐…。電流引っ込めろ。始末書案件だぞ。」


バチッバチッ


「…それは嫌だなぁ。」


そう言うと、背後から出ていた電流が収まった。だが相変わらず目は笑っていない。


「氷室や不知火のこと言えないね。ごめんごめん。許してくれるかな?小倉主任…。」


…バチッ


「この通りだからさ。」


ーバチバチッ!


全く止まない五十嵐の電流に鷹宮は頭を抱える。


「はぁ…。五十嵐には後で俺からキツく言っときます。…それで?小倉主任はまだ一ノ瀬の処遇改善を反対しますか?」


「…分かりましたよ。こちらも命は惜しいのでね。今回は第零部隊に任せます。」


「感謝します。他に反対意見は?」


シーン…

誰も手を挙げない。なんなら視線すら合わせようとはしない。


「…ないようですね。篠崎さんは?」


「100%賛成とは言えんが…まぁいいだろう。司令官には私から上手く伝えておこう。」


「ありがとうございます。」


「それとは別に、戦闘部隊は会議で能力を出すな。これでは話し合いが出来ん。この件に関しては氷室、不知火、五十嵐の三名は始末書提出だ。」


「「「…はい。」」」


「では改めて…。一ノ瀬 雪斗の処遇は、第零部隊へ一任する。以上、解散。」




第9話は本日20時頃更新予定です。

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