第33話 やっと見つけた訓練生
男は静かに雪斗へ近付きその場でしゃがみ込む。
息はしているが弱い。
男はそっと前髪をかき上げる。
「ナギの“本当の記憶”を見せちゃうなんて…さすがに予想しなかったな。」
「……。」
「君の能力についてもっと調べたいけど…残念ながら時間切れだ。」
そう言うと、男はゆっくりと立ち上がる。
「このまま戦闘部隊に渡すわけにもいかないからね。」
男はポケットから小さな装置を取り出し、躊躇いもなく親指でスイッチを押した。
――ピッ。
電子音が鳴ると男は牢の鍵をかけ部屋を出た。
「……念には念をね。」
万が一、戦闘部隊が助けに来た場合のことを考え、雪斗がいる部屋の扉にも鍵をかけチェーンもつけた。
そして廊下の奥へ進み自身の部屋へ行く。
部屋の隅に置いてあった携行缶を手に持ち、中身をぶちまけた。
中身はもちろんガソリンだ。
書類やパソコン、部屋全体にガソリンをかけていく。
一通りかけ終わると携行缶を掘り投げ、振り向かずに部屋を出て行った。
そして雪斗が眠っている部屋の方向へ視線を向け、一言呟く。
「さようなら。……雪斗。」
そして、男は地下施設を後にした。
♢♢♢
一方、その頃――。
数台のヘリが、広大な草原に着陸していた。
隊員たちが次々と降り立ち、雪斗を捜している。
「……いねぇな。」
辺りを見渡しても、見えるのは風に揺れる草だけ。
建物どころか、人の気配すらない。
鷹宮は眉をひそめ、橘へ声をかける。
「本当にここなのか?」
「はい。雪斗くんの過去の痕跡は、この周辺で途切れていますので。」
そう言うと、ゆっくりと地面へ片膝をつき、右手を地面へ添えた。
雪斗の生体反応を確認する。
「……っ!雪斗くんは恐らく地下にいます。」
「地下だと?」
「はい。地下から生体反応を感じました。」
「じゃあ俺が適当に地面殴って入り口作ります!」
「眞壁!それはやめろ。一ノ瀬が埋もれたらどうすんだ。とにかく入口を探せ!」
鷹宮の号令が響き、隊員たちは一斉に駆け出した。
草をかき分け、地面を叩き、少しでも不自然な場所がないか探していく。
「隊長!!!鷹宮隊長!」
小瀧の声で周りの隊員が振り向く。
「どうした!」
鷹宮が駆け寄ると、小滝はしゃがみ込み草むらへゆっくり手を伸ばした。
「この辺だけ、風が吹いてるんです。」
「風……?」
鷹宮もしゃがみ、その場へ手を伸ばす。
確かに他の場所とは違い、草が一定の方向へわずかに揺れていた。
鷹宮は持っていたナイフで草を切り進めると、土の下から金属製の格子が姿を現した。
「換気口か……!」
地下施設は空気の循環が必要の為、必ずどこかに換気口がある。
小瀧はそれを見つけたのだ。
「換気口があるってことは、入口も近くにあるはずだ。捜せ!!!」
隊員たちは再び周囲を捜索する。
そして数分後。
「隊長!」
今度は不知火が大声を上げた。
駆け寄ると、大きな岩陰に不自然な切れ目があったのだ。
草木で巧妙に隠されているが、これは金属製の扉だ。
鷹宮は扉を見据え、深く息を吸った。
「橘はここに残って俺らに一ノ瀬の場所を教えろ。あと…宮下と不知火はここで待機だ。」
「え!?俺も!?」
「橘も宮下も非戦闘員だ。もしも敵が近くにいた場合、俺らでは対処出来ない。だが、不知火がいればこちらも安心して一ノ瀬を救出しに行ける。……頼めるか?」
「…了解!!」
「よし…。一ノ瀬を必ず連れて帰るぞ。」
「「了解!!」」
鷹宮は重い鉄扉を開き、地下施設へ足を踏み入れた。
他の隊員たちも後に続く。
「っ……!」
熱気が一気に押し寄せる。
通路のあちこちで炎が燃え上がり、黒煙が視界を奪っていた。
「燃えてる…!」
その時、通信機から橘の声が聞こえた。
『聞こえますか!』
「あぁ。」
『そのまま真っ直ぐ進んでください!雪斗くんはそう遠くない場所にいます!!』
「了解。」
橘は地上から能力を使い続け、雪斗の生体反応を追っていた。
『急いでください!生体反応がどんどん弱くなっています!』
ゴォッ!!
目の前で炎が大きく噴き上がり、通路を塞いだ。
「隊長!」
氷室は鷹宮の前へ出る。
そして燃え盛る炎へ向かって右手をかざした。
パアアアアア……
白い冷気が通路を駆け抜ける。
炎が一気に氷に包まれ勢いを失った。
床には霜が広がり、熱気がわずかに和らぐ。
「助かった。」
「行きましょう。」
隊員たちは氷でできたわずかな安全な道を、一気に駆け抜けた。
通信機から再び橘の声が響く。
『雪斗くんまで、約三十メートル!』
その言葉に、全員の足がさらに速くなった。
地上では橘が能力を維持し続け、その隣では琴音が医療器具を並べながら、いつでも治療に入れるよう静かに待機していた。
『近いです!その辺に扉はありませんか!?』
見渡すと、明らかに怪しい扉がある。
重いチェーンがかかった部屋。
「真壁、いけるか?」
「これぐらい余裕です。」
真壁が一歩前へ出る。
そして能力を発動した瞬間、分厚いチェーンが引き裂かれた。
「あとは扉ですね。」
バキィンッ!!
真壁の足蹴りで錠前が砕け散り、扉が大きく開く。
目の前にいたのだ。
ずっと探していた仲間が――。
「一ノ瀬!!」




