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第零隔離区ー特異感染者と呼ばれた少年ー  作者: 茅ヶ崎 真
能力発動の為の監禁

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24/42

第24話 捜索班と防衛班

♢♢♢


都市部に降り立った戦闘部隊は、予想よりも早く制圧を終えていた。

建物の間に広がっていたのは、すでに沈黙した戦闘の痕跡だけ。

そして橘の通信が全隊員の耳に入る。


『感染者の生体反応、全て消失。』


確かに感染者の数は多かった。

だが、出てきたのは第二段階まで。

それ以上の“異常個体”はいない。

戦闘というより、処理に近いものだった。

小瀧は血の付いた刀を軽く振り、刃を払う。


「手応えねぇな……。」


否定はできない。周囲ではすでに後処理と確認作業が始まっている。

そんな中、鷹宮も後処理にまわっていた。


「で? 一ノ瀬のこと気にしてんだろ。」


五十嵐が鷹宮の肩に腕をまわし、ニヤニヤと話しかけてくる。


「後処理はこっちでやっとくからよ。お前はさっさと帰って、一ノ瀬に会ってやれよ。」


「いや、仕事が……。」


「いいからいいから。な!真壁もそう思うだろ?」


五十嵐が近くにいた真壁に話を振る。


「そうですね。本当は帰りたいくせに、素直に言えないんです、うちの隊長。」


「真壁…お前なぁ…。」


「まぁ、ここは五十嵐隊長のお言葉に甘えて先に帰っちゃいましょうよ。俺、雪斗くんに連絡入れますね。」


……と、思ったが雪斗の腕輪は壊れている。どうしたものかと少し悩み、真壁は耳に手をあて情報分析部へ連絡を入れた。


「こちら真壁。雪斗くんの腕輪、まだ直ってないよね?」


『現在、修理中です。直るのにあと二、三日はかかるかと。』


「んー……。じゃあさ、悪いんだけど雪斗くん今何してるか分かる?監視カメラとセンサーで調べられないかな?」


『了解。施設内データ検索中……』


数秒の間……誰も、まだ異常を疑っていなかった。


「まぁ施設内にはいるはずだし、居場所が分かったらそこに俺らが向かえば──」


真壁の言葉が途中で止まる。…情報分析部に遮られたからだ。


『……該当位置、検出できませんでした。』


「……え?いないってなに? んなわけないでしょ。ちゃんと捜して──」


『施設内のカメラおよびセンサーは正常に稼働しています。』


一気に真壁の表情から笑みが消え、焦りに変わる。


「ヘリが着陸してた辺りに監視カメラあるよね?見て!! 今すぐに!!!」


真壁の怒鳴り声に、鷹宮と五十嵐の動きが止まる。

温厚な真壁が声を荒らげることはまずない。

そして数分後、情報分析部の声が入る。


『…一ノ瀬雪斗と思われる人物を発見しました。』


「どこ!?雪斗くんは!」


『それは──。』


情報分析部からの連絡を受け、真壁は膝から崩れ落ちた。その様子を見て鷹宮と五十嵐が駆けつける。


「おい、真壁どうした!?」


「真壁……。一ノ瀬に何かあったのか?」


真壁は二人の顔を交互に見たあと、ゆっくり息を吸い込んでから伝えた。


「雪斗くんが…昨日の男と思われる人物に攫われました。」


真壁の言葉を聞いた瞬間、鷹宮の動きが止まった。

数秒、何も言えないまま立ち尽くす。

その横で五十嵐も同じように固まっていた。


「……俺の……せいだ。」


鷹宮の声は小さく、弱々しかった。

その声を聞いた五十嵐がハッと顔を上げる。

次の瞬間、耳に手を当て通信装置を起動する。


「全隊員に告ぐ。一ノ瀬がさらわれた。第二部隊と第三部隊はそのまま事後処理に回ってくれ。第零部隊、第一部隊、それと橘、宮下はヘリで本部に戻れ。ミーティングだ。」


通信が一斉に走る。指示は短く、迷いがない。

それが余計に事態の重さを際立たせていた。

通信を切ったあと、五十嵐は一歩踏み出す。

そして、動けないままの鷹宮の背中を──

思い切り叩いた。


「何してんだ!!」


乾いた音が響く。


「早く行くぞバカタレ!!ほら!真壁もだ!」


その目は怒っていたが、責めるためではない。

止まっている時間を動かすための怒りだった。


「「……了解。」」


♢♢♢


とある地下室で三人の男が会話をしていた。


「へぇー、あのセツくんがちゃんと持ってこれたなんて驚き!すごいね!」


それはあまりにも軽い声だった。

素直に褒めているのだろうが、なぜかそれが妙に癪に障る。

地下施設の奥にある牢屋。

雪斗はすでに“檻”の中に入れられていた。

薄暗い照明に金属音だけが静かに響く空間。

その中央で、雪斗は動かないまま横たわっている。


「この子が一ノ瀬雪斗くんかぁー。」


ナギが檻の隙間から覗き込む。


「普通の子にしか見えないけど…。」


そう言いながら、指先がゆっくりと伸びた。

だが、その手は途中で止められる。


「やめておいた方がいい。」


それは上司の声だった。

ナギは少しだけ不満そうに口を尖らせる。


「えー。触るのもダメなんですかー?」


「何があるか分からないからね。触る時は手袋はめてね。」


上司は檻の中の雪斗を静かに見下ろした。


「セツに渡した薬は少しキツくてね。しばらくはまだ、眠っているはずだよ。」


「えー。まだ起きないのかー。つまんないなー。」


「焦らなくても、この檻に入れていれば逃げられないよ。それよりセツ……よくやったね。」


静かな褒め言葉。

だがセツの表情は晴れない。

むしろ、その言葉が重くのしかかる。


「セツが頑張ったんだから……次はナギだよ。」


「それは分かってますけどー。で、俺は何したらいいんですかー?」


「ナギの能力を使って、彼を恐怖で支配してもらう。」


ナギは目をまん丸にして上司を見つめている。


「それはいいですけど…でもそれして何か意味ありますかー?」


まるで興味のないゲームの感想みたいだ。


「俺……男いじめても別に楽しくな──……」


そこでセツと一度目が合い、言葉が詰まってしまった。


「あ、セツくんは別だよー。凄い楽しー。」


だがセツはその言葉に反応しなかった。

ただ俯いたまま、そこに“存在していないもの”のように立っている。


「彼の能力に関わる大事な仕事だよ。ナギにしかできない。」


ナギの表情が少しだけ真面目になる。…ほんの少しだけ。


「彼の能力を強制的に発動させる。まぁ…下手したら死ぬか、怪物になるけど。その時はその時だからナギは気にしなくていいよ。」


「能力ぅ?ほっとけば、いつかは勝手に発動するものじゃないんですかー?」


「彼をそのままにしておくことは危険なんだよ。能力持ちなのは分かりきっているからね。発動してしまえば、戦闘部隊の奴らと手を組んでしまう。そうなるくらいなら……怪物か死ぬかの方がいい。」


「んー…。目的は分かりましたけど、能力を発動した後はどうするんですかー?そのまま殺しちゃうなら意味無くないですかー?」


「殺しちゃうのはもったいないよ。それよりも“もっといいもの”がある。……セツとナギみたいに、僕のものにするつもりだよ。家族は多い方が良いだろう?」


その一言が落ちた瞬間、ナギは軽く手を叩いた。


「じゃあ弟だ〜。」


呑気な声で納得したように見えるナギの横で、セツは何も言えず固まっていた。


「でもなんでこの子が能力もってるって知ってるんですかー?見たところ俺には分かりませんけどー。」


「さぁ……どうしてだろうね。」


それ以上は答えない。むしろ、答える気がないのだろう。その曖昧さが、逆に引っかかる。

ナギは特に気にした様子もなく肩をすくめた。


「ふーん。じゃあ起きたらやる感じでいいんですー?」


「そうだね。彼が起きたらナギは仕事を始めてくれるかい?」


そして、少しだけ視線を横にずらす。


「セツは……御手柄だったから、少し休んでもいいよ。じゃあ僕は用事があるから出かけるね。」


「え、見ていかないんですかー?」


「僕はいいよ。……まだね。」


その言葉だけを残し、扉の向こうへ消えていく。

残されたのはナギとセツと、眠ったままの雪斗。

静かすぎる地下の空気だけが、ゆっくりと満ちていた。


♢♢♢


B10階


先頭を歩く鷹宮に続き、第零部隊、第一部隊、そして橘朔夜と宮下琴音が中央会議室内へ足を踏み入れる。

施設へ戻る間、誰一人として口を開かなかった。

部屋の中央には長机が並び、その正面の大型モニターには、すでに島全域の地図が映し出されている。

モニターの前に立っていたのは、情報分析部責任者“藤堂亮介”だった。

七三に分けた焦げ茶色の髪を整え、眼鏡の位置を指先で静かに直す。


「皆さんお揃いですね。……では始めます。」


部屋の証明が落とされ、大型モニターだけが白く光り、室内を照らした。


「島内に設置されていた監視カメラ、およびドローン映像の解析が完了しました。まずはこちらをご覧ください。」


藤堂が手元のリモコンを操作し、映像が再生された。

画面に映ったのは、今朝ヘリがスタンバイしていた場所の近くの森。

全員が黙ってそのモニターを見ていた。


「少し早送りします。」


藤堂は、またリモコンを操作し映像を早送りしていく。すると森しか映っていなかった部分にある人物が現れた。

──雪斗だ。


「戦闘部隊が出発してから、彼は少しその場に留まっていました。その後は施設へ戻ろうと歩き出したようですが…。」


藤堂がそこまで言いかけると、歩いていた雪斗が立ち止まり後ろを振り返っている。

そして雪斗が再び前へ向き直した瞬間、どこから現れたのかフードを被った人物が現れたのだ。


その瞬間、会議室の空気が一気に張り詰めた。


「……こいつ。」


小瀧が低く呟く。それもそのはず、そいつは昨日逃がしてしまった男だからだ。

真壁は何も言わず、ただ真剣に映像を見ている。

映像に映る雪斗は抵抗も虚しく、そのまま気絶させられてしまった。


「ここからの位置では見えませんが…恐らく首筋辺りに薬を打たれたのかと。」


「薬!?」


藤堂の説明を聞き、早乙女が真っ青な顔のまま立ち上がる。

その様子を気にしていないのか、藤堂はそのまま映像をながしながら説明を続けた。


「そして…意識を失った彼を、この男が攫いました。」


雪斗を抱えた男は、歩いて逃げる訳でもなくそのまま雪斗ごと消えてしまった。まるで最初からそこにいなかったかのように。


「以上が、現場で確認できた最後の映像です。」


重苦しい空気だけが部屋を支配する。

藤堂は映像を止め、照明をつけた。


「この映像は皆さんが戻ってくるまでに何度も解析しました。直接現場にも向かい調べましたが…痕跡は確認されませんでした。」


「確認されなかっただと…?」


藤堂の言葉に、氷室は眉をひそめた。無意識なのかだんだん冷気が体から溢れ出している。


「映像を見る限り、一ノ瀬雪斗を連れ去ったことは事実です。つまり…対象の男は我々と同じ能力者である可能性が極めて高い。」


その件は鷹宮も昨日既に予想がついていたことだ。だからこそ、対策を取らなければならなかった。

机の下で拳を強く握りしめる。


「……鷹宮。で、お前どうすんの?」


五十嵐の言葉に、鷹宮はゆっくりと椅子から立ち上がり全員を見渡した。


「…何としても一ノ瀬を取り戻す。でも俺だけの力じゃ絶対に無理だ。だから頼む…。力を貸して欲しい。」


鷹宮はそう言うと、全員に頭を下げた。

会議室が静まり返る。

意外にも口を開いたのは小瀧だった。


「鷹宮隊長に言われなくても行きます。あの野郎を逃がした責任は俺にもありますし。」


「小瀧……。」


「それを言うなら俺も逃がしちゃったからね。責任は最後まで取らないとって事で、もちろん行きます。」


「真壁……。」


良い部下をもったこと、鷹宮は誇りに思っていることだろう。それはもちろん氷室も一緒だ。


「全員が行っては、討伐部隊が無人になってしまいます。なので捜索班を決めましょう。鷹宮隊長、よろしいですか ?」


「あぁ……。氷室、頼む。」


「では、捜索班は特務第零部隊全員。そして第一部隊の不知火。第二部隊の橘隊長と宮下隊員。」


名前を呼ばれたメンバーの顔が引き締まる。


「第一部隊五十嵐隊長、早乙女隊員、天宮隊員は緊急通報に備え、施設に残っていただきます。」


本来なら全員で雪斗の捜索を行いたい所だが、第零隔離区を無人にするわけにはいかない。

誰も氷室の意見に異論はなかった。

救出班と防衛班。

それぞれが、自らの役目を胸に刻んだ。


「でも、どうやって雪斗くんを捜すんですか?」


真壁の質問に、藤堂がモニターを見つめたまま答える。


「現状、敵の拠点を特定する情報はありません。監視映像、通信記録、周辺の監視データ。全て確認しましたが、彼らの行方は完全に不明です。」


その言葉に誰もが答えを出せなかった。

会議室が数分の間静かになる。

そして最初に口を開いたのは橘だった。


「……僕の能力で探し出すことが出来るかもしれません。」


橘の能力――“索敵”は、生命反応を感知するもの。

今この瞬間、近くにいる存在を探すことには長けている。

だが――。


「そんなこと出来るのか?」


鷹宮の問いに、橘は静かに首を横に振る。


「過去の反応を探ったことはありません。…ですが、雪斗くんが最後にいた場所を起点にして、どこまで追えるか…やる価値はあるかと思います。」


橘の言葉に鷹宮は少し考える。

正直確証のない捜索は時間がかかるだけだ。

実際、こうしている間にも雪斗が安全だという保証はない。

だが、鷹宮は橘の意見にのってみることにした。


「…橘に賭けてみよう。頼めるか?」


「はい。」


「よし…。藤堂は他に一ノ瀬が映っているカメラがないか調べてくれ。五十嵐たちは通常任務へ戻り、捜索班は一ノ瀬が最後にいた場所へ向かい、手がかりを探してくれ。……以上、解散。」


鷹宮の言葉で、全員が一斉に立ち上がった。

各々の役目を果たすために――。


「鷹宮。」


鷹宮も捜索班に続き地上へ行こうとしたその時、五十嵐に話しかけられた。


「一ノ瀬が戻ってきたら打ち上げすんぞ。いい酒用意しとく。」


「…経費でおとすなよ。」


そして鷹宮は会議室を後にし、雪斗の捜索へ向かった。



第25話は14日19時頃更新予定です。

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