↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第零隔離区ー特異感染者と呼ばれた少年ー  作者: 茅ヶ崎 真
能力発動の為の監禁

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/42

第23話 攫われた主人公

♢♢♢


翌日。

B10階 中央会議室には、重い空気が漂っていた。

円卓を囲むのは、各部隊の隊長たち。

鷹宮、五十嵐、橘――そしてもう一人。

第三部隊隊長・木戸正孝。

日焼けした肌に、無駄のない筋肉質な体格。 短く刈られた黒髪と、静かな目つき。

能力者ではないが、その代わりに積み上げた経験値が異常だった。


「……状況の共有をお願いします。」


木戸が静かに口を開く。

その声は大きくはないが、会議室全体に自然と通る。

鷹宮が目を閉じながら、状況を説明し始めた。


「昨日、一ノ瀬が外出中にフードを被った男と接触した。場所はこの島の南海岸だ。予想だが、そいつはただの人間じゃなく、能力持ちの可能性がある。」


鷹宮の言葉に全員が目を見開く。


「穏やかな話じゃねぇなぁ。…で?なんで能力持ちだって分かんの?」


五十嵐が腕を組みながら、鷹宮へ問いかける。


「…消えたからだ。」


「消えたぁ?」


「あぁ。真壁たちがその場面を目撃している。実際、島の監視カメラを確認したが事実だ。……能力者以外ありえないだろう。」


「へぇ……。見た目は普通の人間で、意思疎通も出来る能力持ちの男ってことか?俺らと一緒じゃねぇか。」


五十嵐の言葉に周りが少しざわつく。それもそのはずだ。能力を持つには、研究部員が開発した人工ワクチンを打たなければならない。それなのに外部に能力を持った人間が現れたとなれば、戸惑うのも仕方のないことだろう。


「能力を使う怪物が現れたと思ったら、次は能力を使う人間が一ノ瀬を狙ってるってことか?どうなってんだよ…。」


五十嵐のボヤきに対して、先程から顎に手を当てながら考え事をしている橘が横から口を挟む。


「でも…変ですよね?雪斗くんが特別な感染者だってことは、この施設内でも一部の人間しか知りえませんし……。適当に能力者を連れていきたいなら、琴音や太一みたいなすぐ誘拐できそうな人物でもいい訳ですし……。」


もちろん橘の発言は、全員が疑問に思っていることだ。


「で?どーすんだよ。一ノ瀬をこのまま施設内に閉じ込めておくってのか?」


「いや……。フードの男を捕まえ目的を話させる。」


「そんな簡単な話じゃねぇだろ?鷹宮んとこの自慢の部下が逃がすレベルだぜ?」


「……だから、各部隊の隊長を呼んだんだ。俺だけでは一ノ瀬を守り切れるか分からんからな。」


ブー……ブー……


その時、施設全体に警告音が響いた。


『外部エリアにて感染者の大量発生を確認』

『出動可能な戦闘部隊は直ちに地上へ』


無機質な放送が、淡々と状況を告げる。

一瞬の沈黙のあと、空気が一気に動いた。


「……行くぞ。」


鷹宮が短く言い、全員椅子から立ち上がる。

鷹宮に続き、各隊長たちも一斉に動き出した。

外は既に、複数のヘリがエンジン音を唸らせていた。

隊員たちは慣れた動きで乗り込み、武装チェックを進めている。

雪斗は先にヘリへ乗り込んでいたが、その顔はわずかに強ばっていた。


「一ノ瀬。」


「!隊長……。」


「今すぐ降りろ。お前は待機だ。」


「えっ…どうして…?」


鷹宮からの指示に雪斗は驚き固まってしまう。

外出禁止とは言われたが、任務はまた別だと思っていたからだ。


「今回は前回より規模が大きい。敵の質が分からない以上、お前を守り切れる保証はない。」


周囲の隊員たちも一瞬だけ雪斗に視線を向けるが、誰も口を挟まない。

鷹宮の目は本気だ。


「……わかりました。」


その視線に耐えきれず、雪斗はヘリから降りてしまった。


ゴオオオォォォ…………


ヘリのローター音が遠ざかっていく。

空が少しだけ広く見えた気がした。

雪斗はその場に立ち尽くしたまま、ため息をついてしまった。

何か成果をあげれば、外出許可がまたおりるかもしれない。もしかしたら今回の戦闘で能力が発動し、今度こそ皆を守れるかもしれない。

だが全て妄想だ。今の雪斗に何か出来るはずがない。


「……帰ろう。」


誰に言うでもなく呟き、ゆっくりと施設へ歩き出した。


(いつになったら家に帰れるんだろう…。それよりもう、二度と外には出れないかもしれない。)


肩が重い。

腕輪は修理中で今は手元にない。もし心拍が上がっても、警告音は鳴らない。

つまり――止めてくれるものが、何もない。

そのことが、妙に怖かった。


(それもあって、待機って言われたのかな。)


施設へ戻る道は、いつもよりやけに長く感じた。

そのとき。


ふわっ──


風が頬を撫でた。

いつもなら気持ちの良い風だ。

だがその時、妙な不気味さを感じた。


(……今の)


おもわず足が止まってしまう。

背後から、じっと観察されているような感覚だ。


「……まさか。」


振り返ろうとしたその瞬間、左肩に重みが落ちた。

まるで“そこに最初からいた”かのように。

雪斗の耳元で低い声が響く。


「昨日ぶりだな。」


「お……お前……。」

(昨日の……。)


反射的に距離を取ろうとするが、その手は読まれていたみたいで、腰をがっつり掴まれている。

逃げられない。

完全に、読まれている。


「離せ!!」


だがその叫びは空気に溶けるだけだった。


「思った通り、お前だけ置いてかれたな。」


その一言で、雪斗の動きが一瞬止まってしまったが、また暴れだした。

否定できない現実が胸に刺さり、少し動揺してしまった。

男はその反応を見て、軽く息を吐いた。


「賭けだったが……来てみて正解だったな。」


雪斗は必死にもがく。

腕を振り、足を動かすが拘束はびくともしない。

そのとき、遠くで鳥の声がした。


「……チッ。また邪魔されたら厄介だからな。」


男はポケットから何かを取り出した。

――小さな注射針だ。

先端の針が太陽に照らされキラリと光っている。

それを見た瞬間、雪斗の血の気が引いた。


「なっ……なにすんだよ……。」


雪斗の心拍はドンドン上がっていくが、それを通知するものは何もない。


「大丈夫、大人しくしてろ。」


そう言うと、素早く雪斗の首筋に針を刺した。


「いっ……!何を……した……!」


首筋を押さえながら、雪斗は男を睨みつけた。

だが男は答えない。


「すぐ分かる。」


その言葉の直後、視界がふっと揺れた。


(……え?)


世界が傾く。

足元の感覚が消えていく。


「……っ、な……」


言い返そうとした声は途中で途切れてしまった。

体が支えを失い、前へ崩れる。

だが――落ちない。

男の腕が、当たり前のように受け止めていたのだ。


「……っ、はな……せ。」


腕で男の体を押し返そうとするが、力が入らない。

指先すらまともに動かない。

男は淡々としたまま、雪斗を抱え直した。


「眠ってろ。」


その一言だけが、やけに近くで聞こえた。


(あれ……死ぬ……?)


そして――

雪斗の意識は、静かに沈んだ。



第24話は13日19時頃更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。