第20話 謎の組織
◇◇◇
懐かしい夢を見た。
高校一年生のとき、友人たちと海へ行った日。
光太郎、まどか、奈々子、そして怜侍…。
ビーチバレーをしたり、他愛もない話をしたり…夕日が沈むまで遊んだ。
何でもない一日。
けれど、それは今となっては二度と戻らない日常だ。
胸の奥がじんわりと温かくなる。
(このままずっと、この夢を見ていたい……。)
その時だった。
コンッ!
「いっ!」
額に小さな衝撃が走り飛び起きる。
目の前には一羽の小鳥が。
「お前…さっきの鳥だろ。」
「チュン!」
まるで返事をするように鳴く。
先程八雲と一緒にいた三羽のうちの一羽だろう。
何故か誇らしげな態度をしている。
「チュン!チュンチュン!!チュン!」
「何言ってるか分かんねぇ…。」
少しずつ意識もはっきりしてきた。
いつの間にか空は茜色に染まり始め、太陽はゆっくりと水平線へ沈もうとしていた。
「……やば。」
“日没までには戻るように。”
鷹宮との約束を思い出し、雪斗は慌てて立ち上がる。
「もしかしてお前…起こしてくれた?」
「チュンチュンチュン!!」
「いてぇ!!」
何故かまた額をつつかれ、逃げるように施設への道を走り始めた。
いつの間にか鳥は追いかけてこなくなった。
雪斗は夕日に照らされた通路を駆け抜け、施設へ飛び込んだ。
そのままエレベーターへ乗り込み、地下一階へ向かう。
「はぁ…腹減った。何食おう。」
先程やられた額の傷がジンジン痛むが、朝から何も食べていない為、手当を後回しにしようと食堂へ向かった。
「あれ? 雪斗くん!」
エレベーターを降り食堂へ歩き出したその時、聞き覚えのある明るい声が後ろからふってきた。
振り向くと、琴音がこちらへ歩いてきていた。
「琴音さん。」
「ちょうど良かった……って、その額どうしたの!?」
琴音は慌てて雪斗の額へ手を伸ばす。
そんなに驚くほどか?と思い指で触れてみると、小鳥につつかれた場所から少し血が滲んでいた。
「あー…鳥にやられて…。」
「じっとして。」
淡い光が琴音の手から溢れ、額を包み込む。
すると傷口から痛がだんだんと消えていく。
「え!?何能力使ってんすか!こんな擦り傷……。」
「だめ。傷に小さくも大きいもないよ。」
(あるだろ!ただの鳥だぞ。)
拒否しようにも琴音の圧が強く、治療をさせないと食堂へ行かせてくれなさそうだったので、渋々立ち止まる。
傷口が小さいせいか、治療は直ぐに終わり気付けば痛みどころか傷一つ綺麗に無くなっていた。
「はい。おしまい。」
「ありがとうございます…。」
「どういたしまして。雪斗くん食堂に用があるの?ご飯食べるんだったら一緒に食べよう?」
特に断る理由もないため、雪斗は琴音と並んで食堂へ向かった。
(今日はハンバーグにするかー……。)
いつものようにトレーをとり、適当に小鉢を取った後メインのハンバーグをトレーにのせた。
琴音はカレーのようだ。
二人は空いている席へ移動し、向かい合って座る。
しばらく他愛もない話をしながら食事を進めていた。
「そういえばね。」
「?」
「明日から任務に復帰することになったの。」
「お、おめでとうございます……?」
「なんで疑問形なの?」
「あ、いや……復帰ってことはまたキツイことが待ってるんで…『おめでとう』で合ってるのかなって。」
「ふふっ。そうだね。でも、おめでとうで合ってるよ。」
琴音の笑顔を見て、雪斗も少し照れくさそうに笑った。
「そういえば雪斗くんは今日どこにいたの?」
「あぁ…外に出て島の探索してました。まぁほとんど寝てましたけど…。いや、八雲って人に初めて会ったな…。」
「八雲くんか。じゃあさっきの額の傷はもしかして?」
「…その人にまとわりついてた鳥です。」
「ははは!やっぱり。あの鳥、敵だと思った人には絶対攻撃してくるの。八雲くんの保護者みたいなポジションなんだよ。」
(やっぱ敵と思われてたのか…。)
「八雲って人も能力者なんですよね?」
「うん。八雲くんの能力は【共有】だよ。」
「共有?」
「相手と感覚を共有する能力だよ。だから負傷者がどこを痛めているのか、意識がない人でもどんな状態なのかが分かるの。」
「へぇ…。」
「ただ、共有している間は相手の痛みを八雲くん自身も感じちゃうの。骨折してる人を診れば、自分も骨折した時と同じ痛みを受ける。重傷者なら、それだけ負担も大きい。何度か痛みで意識を失ったこともあったかな。」
(怖…。)
「橘隊長はあまり私たちに能力を使わせたくないみたいで、基本は医療班と一緒に手当してるんだけどね。緊急の場合はどうしても必要だから…。」
雪斗は話を聞きながら、ハンバーグを食べ進めていく。少しずつ他の隊員の事も分かってきた。八雲のことはまだ分からないが、そこまで悪い人物でもなさそうだ。…鳥は例外だが。
その時、ふと思い出した。
(悪い人物といえば……。)
「琴音さんって天宮の事知ってますか?」
「天宮さん?知ってるけど、どうかしたの?」
「いや……なんか、一方的に嫌われてるみたいで。鷹宮隊長に理由を聞いても教えてくれないし。」
琴音は少し考え込むように視線を落とした。
「うーん…。ごめんね。私も詳しくは知らないの。天宮さんと交流もそこまでないし…。」
(確かに人と交流しなさそうだもんな…あいつ。)
「鷹宮隊長がダメなら真壁さんに聞いてみたら?」
「真壁さん?なんで?」
「確かあの二人同僚なの。だから付き合いも長いし、何か知ってるんじゃないかな。」
「なるほど…。」
(おちゃらけてるし聞いたら普通に答えてくれそうだな。)
他にも聞きたいことは山ほどあるが、この話を最後に二人とも丁度食事を終えてしまう。
不知火のことも聞きたがったが、琴音は古川に用があると言っていた為、引き留めるのもな…と思い、話はここで終了した。
トレーを片付け、琴音と別れたあと雪斗はエレベーターへ乗り込む。
そこに扉が閉まる寸前で、一人の男が滑り込んできた。
「うわっ!…なんだ真壁さんか。」
「雪斗くんだ。部屋戻るの?」
真壁はいつもの笑顔で軽く手を振ってきた。
「そうですけど……。」
「一緒だね。」
「まぁ…。」
「そういえば雪斗くん急に敬語使うようになったね。どういう心境?」
「…隊長の指示なので仕方なしですよ。特に真壁さんには……。」
「え!俺には敬語使いたくいの!?」
どうでもいい会話を少しした後、エレベーターはB2階へ到着した。
そして雪斗は気になっていたことを思い切って口にする。
「真壁さん。」
「ん?」
「天宮って人が俺のことを嫌ってる理由…知ってますか?」
その質問をした瞬間、真壁の表情が一瞬だけ止まった。
「んー…ごめんね。俺の口からは言えないや。」
「え。」
(意外…。)
「意外って顔してるー。…何でもかんでも喋ると思った?」
首を縦に振り、それを見た真壁はまたいつもの笑顔に戻る。
「はははっ、雪斗くんは正直だなぁ。でもまぁ…もしまた何かされたら言ってよ。次は俺から注意する。可愛い訓練生いじめるなーって。」
「可愛いは余計です。」
「じゃあまた!明日の訓練も寝坊しちゃだめだよー。おやすみ!」
「おやすみなさい…。」
真壁は笑顔のまま自身の部屋へ入っていく。
雪斗はその背中を見送りながら、結局何も分からなかったと少し落胆してしまった。
(かといって天宮本人に聞くのはなぁ……。)
♢♢♢
薄暗い地下施設には、無数の培養カプセルが並んでいた。
その中央に、黒いフードを被った男が立っている。
その横には椅子に深く腰掛けた謎の人物が。
フードの男から何やら報告を受けているようだ。
「報告します。あの少年を確認しました。ですが…見たところ変化は特にありませんでした。」
「ふーん…。じゃああいつの言ってることは本当か…。」
「そのようです。」
「いつまでたっても発動しない能力……。面白いなぁ。そんなの聞いたことないよ。」
「……いかがなさいますか?」
「そうだね…。強制的に能力を発動させるよ。使えない奴を頼るより…ね。」
「そんな方法が……?」
「あるある。僕を誰だと思ってるのさ。」
謎の人物が微笑みながら手に持っていたカップを口につける。
「じゃあ…準備しようか。」
第21話は7日19時頃更新予定です。
本日19時半頃に新しい作品を掲載する予定です。
こちらも同じくバトルものになりますので、
お時間がある方はぜひ、そちらも確認してみてください。




