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第零隔離区ー特異感染者と呼ばれた少年ー  作者: 茅ヶ崎 真
特務第零部隊の訓練生

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17/42

第17話 初めての実践

♢♢♢


翌日。

雪斗はB6階、武器訓練区画にいた。


「さっさとやるぞ。」


(何で俺…この人と訓練やることになったんだ…。)


氷室と真壁は別任務で施設を離れており、鷹宮は朝から事務処理の為部屋にこもっていると聞いた。

…ほとんど始末書らしいが。

そこで空いてるのが小瀧しかいなかったらしく、こうして訓練場へ来ているのだ。


「ほら。」


「!?」


いきなり木刀を投げられ反射的に受け取ってしまう。


「えっと…?」


「流石に真剣はまだ早ぇからな。」


「俺…木刀自体触ったこともないんでけど…。」


「はぁ?チッ…。じゃあ慣れるまで素振りしてろ。」


(何で俺怒られてんの…。)


雪斗は木刀を握り直し、ゆっくりと構える。

…あまりにもぎこちない。

明らかに“戦い方を知らない人間の構え”だった。


(ひとまず振ればいいんだろ、振れば…。)


ヒュッ――。


「腰が入ってねぇんだよ腰が。」


ヒュッ――。

ヒュッ――。


「ちげぇ。もっかいやれ。」


どれぐらい振り続けているだろうか。

木刀を握る手にも力が入る。気付けば手のひらには血が滲んできていた。


ヒュッ――。


次の瞬間、雪斗が振っていた木刀を小瀧が素手で止めた。


「っ……!」


「力入れすぎ。」


「えっ…。」


「刀ってのはな、力任せに振るもんじゃねぇよ。敵の動きに合わせて流れを読むんだ。」


「流れ…。」


そう言うと小瀧は別の木刀を取り出し、雪斗に見本を見せた。

小瀧は木刀を軽く振る。それは無駄のない一閃。

力任せに振り下ろしていないのは、素人の雪斗でも分かる。


「ほら、やってみろ。」


雪斗は深く息を吸い、軽く…空気を切るように木刀を振り落とした。


ヒュッ――。


「…まぁ、妥協点。飲み込みは早ぇが真剣はまだだな。」


「はい…。」


「他の武器が使いたいんなら他当たれよ。俺は刀しか使えねぇからな。」


そう言い戸棚の奥にあった救急セットを持ってきてくれた。


「ほら。見せろ。」


雪斗の血に気付いていたのか、小瀧が手首をつかみ強制的に手のひらを上を向ける。


「…我慢しろ。」


「いっ――。」


小瀧は容赦なく消毒液を手のひらにドバドバかけ始めた。


「っっっ!!!」


「チッ。動くな。」


「いいいい痛…!」


「大袈裟…。学校の時の傷と比べたらただのかすり傷だろ?」


さらにガーゼで強めに押さえられる。


「っ……!!」

(雑い…!!雑すぎる…!!!)


――ピシリッ


空気が変わった。

訓練場の入口付近から、冷たい気配が流れ込んでくる。


(あれ…この懐かしい寒さは…。)


「……何をしている?」


第零部隊副隊長 “氷室椿”だった。

白に近い髪がわずかに揺れ、無表情のまま小瀧と雪斗を見ている。


「お前…一ノ瀬を…」


「ちょ、違います違います!」


「…庇うのか?」


「そうじゃなくて…!刀の指導をしてもらってて、今は怪我した傷の手当中なんです!」


氷室副隊長の眉が少し動き、わずかに目が細くなる。


「…小瀧が一ノ瀬を?」


雪斗は頷き、小瀧は氷室に構わず救急箱に消毒液を直していく。


「…そうだったのか。すまない。勘違いをしていた。」


「…いえ。それよりなんでここにいるんですか?真壁さんと別任務だって聞きましたが。」


「あぁ…。真壁だけで事足りたから帰ってきた。」


「チッ…。じゃあ俺が訓練手伝わなくても良かったじゃねぇか。」


「…小瀧、もう少し大きい声で話してくれるか。」


素直じゃないのか、シンプルに仲が悪いのか…気まずい雰囲気が流れる。


(…そういえば、氷室副隊長は感情を表に出さないけど、冷気は出すんだよな。)


「……あの、氷室副隊長。」


「なんだ。」


「今出してるその冷気って、意図的に出してるんですか?」


「……どういう意味だ。」


「いや…威嚇の為に冷気を出しているのかなって思ってたんですけど…前に鷹宮隊長が氷室副隊長は怒りすぎて、体から冷気が溢れている時があるって言ってたからどっちなんだろうと思って…。」


氷室は少しだけ目線を落とし、考え事をしている。過去の自分の行いを思い出しているのだろうか。


「…会議で意見が通りそうにない時は、意図的に出している。」


「え?」

(それは…いいのか?)


「だが…感情が高ぶった時は無意識に出る。今みたいにな。」


「それって…小瀧さんが俺を虐めてたと思って怒ったから、勝手に能力が発動したってことですか?」


「…あぁ。」


「それは…氷室副隊長だけですか?」


「いや…ほかの能力者も感情が高ぶれば無意識に能力が出る。そうならないよう日々鍛錬をし、気をつけているがな。」


胸の奥に引っかかるものがあった。


(それって俺と…少し似てる?)


能力者は感情が高ぶると能力が“溢れる”。

雪斗は談話室での出来事が脳裏をよぎった。


(俺は暴走して怪物になりかけた…いや、違う。)


感情が高ぶり、自分が自分じゃなくなるあの感じ――


(あれは暴走じゃなくて、発動しかけた能力を制御できなかっただけ…。だから身体が耐えられず、怪物化しかけたとしたら…。)


「…一ノ瀬?」


雪斗が先程から黙り込んでしまい、氷室がどうしたと声をかける。だが、返事はない。


(もし…この考えが正しいんなら…俺にはやっぱり他の隊員と同じ、能力があるってことか…?)


「おい。大丈夫か?」


「あ、すみません…少し考えごとをしていて…。」


仮にこの考えが正しかったとしても、結局暴走したんじゃ意味がない。


「…小瀧さん、手当ありがとうございました。」


「でも木刀はもう握れねぇだろ。今日は――…」


そう言いかけた時、雪斗が言葉で遮る。


「受け身なら出来ます。」


「はぁ?受け身?」


「はい。前回、さおと…梓さんの攻撃をモロに受けてしまったので、受け身がとりたいんです。」


「受け身…なら、副隊長に頼めばいいだろ。」


「え?」


「俺は横からアドバイスしてやるから、攻撃は副隊長にしてもらえ。いいですよね、副隊長。」


「…まぁいいだろう。一ノ瀬、構えろ。」


「え?え?」


氷室は勝手に承諾し、右手を軽く上げる。


パキ……。


足元の床が白く凍り始め、小さな氷塊がゆっくりと宙へ浮かぶ。


「加減はしてやるが…避けられなければ痛いぞ。」


「あ…はい…。」

(痛いどころか…普通に流血騒ぎだろ…)


その様子を見ながら、小瀧は腕を組み近くの椅子へ座った。


「いいか、転んでもすぐ立て。倒されても次の攻撃に備えろ。それが受け身だ。」


雪斗の二度目の回避訓練は始まったばかりだ。


♢♢♢


「いってぇ…。」


あれから一時間ほど小瀧のアドバイスを受けながら、氷室から繰り出される氷塊を避けている。

避けるより氷塊に当たる回数の方が多いため、雪斗の頬からは血が流れていた。


(ちょっとは感覚つかんできたけど…やっぱり完全に避けるのは難しいな。)


氷室が手を上げ再度氷塊を飛ばそうとした時、突如室内に設置してあるスピーカーから警報音が鳴り響いた。


『――緊急出動要請。緊急出動要請。』


訓練場の空気が一変し、全員その場で固まる。


『〇〇市にて複数の感染者を確認。現在、第一部隊が交戦中。』


『対象数は増加中。戦力不足のため、手の空いている戦闘部隊員は至急出動せよ。繰り返す――』


放送が終わるより早く、氷室は浮かべていた氷塊を消し去る。

小瀧も舌打ちをしたあと、雪斗へ声をかけた。


「訓練は中止だ。行くぞ。」


「えっ…は、はい!」


雪斗は慌てて返事をし、二人の後を追った。

エレベーターは一気に上昇し、地上階へ到着する。

重厚な扉が開くと、眩しい太陽の光が差し込んだ。


(久しぶりの外だ…。)


もちろん、感動している暇はない。

施設のすぐ近くにはヘリポートがあり、既に一機の大型輸送ヘリがローターを激しく回転させながら待機していた。


ゴォォォォッ――!!


吹き荒れる風が隊服を大きく揺らす。


「一ノ瀬、急げ。」


氷室に促され、雪斗は急いで輸送ヘリへ足を踏み入れた。


(このヘリ…俺がここに連れてこられた時の…)


雪斗が懐かしさを感じている間、氷室が最後に乗り込んだあと後ろのハッチが閉まった。

胸の鼓動が、一気に速くなる。


「来たか。」


先に乗り込んでいたのか、中央の座席には鷹宮がいた。


「一ノ瀬。」


「は、はい。」


「今回、お前は実戦経験を積むために同行させる。…だが、危険だと判断した場合はすぐにヘリへ戻れ。」


「はい。」


「第一部隊の攻撃は周囲を巻き込む。気をつけろ。」


「わ、わかりました。」


「まず現場…そして感染者を知れ。隊員がどう戦うのか、その目で焼き付けろ。」


そう言うと、鷹宮は機内のモニターを起動した。

画面には市街地の地図と、赤い点がいくつも表示されている。


「現場は〇〇市〇〇地区。約三十分前、市民から『人を襲う怪物がいる』と通報が入った。」


その瞬間、画面が切り替わり監視カメラの映像になる。そこには、瓦礫の上を這い回る異形の怪物が映っていた。

雪斗は思わず息を呑む。


「現在確認されている感染者は十五体。そのうち五体が第一段階で、九体が第二段階。」


(感染者がそんなに?…というか…。)


「そして一体、第三段階の疑いがある感染者が確認されたる。」


(その段階ってなんだ…?)


「第一部隊は感染者の討伐。第二部隊と第三部隊は住民救助と避難指示。俺たち第零部隊は状況に応じて援護に入る。」


「あの…その第三段階とかって何ですか?」


「簡単に言えば、第一段階は理性を失っただけの怪物だ。ただもがき苦しむだけで攻撃を仕掛けてこない個体。で、第二段階は身体能力が飛躍的に向上する。こちらに攻撃をしかけてくる奴らだ。」


(俺が学校で出会った感染者は、第二段階ってことか?)


「そして第三段階だが…地下にいた感染者を覚えているな?あいつだ。」


「あいつが……第三段階。」


「あぁ。知能や身体能力が上がるだけじゃない。能力も使ってくる。」


「そんなの……何人もいるんですか?」


「いや、多くはない。だが確認数は年々増えている。」


(昔はいなかったってことだろ…?何で最近になって増えてきてるんだ?)


「…着くぞ…気を引き締めろ。」


ゴォォォッ――。


輸送ヘリはゆっくりと高度を下げ始める。

雪斗は小さな窓から外を覗いた。

遠くには黒い煙が立ち上り、赤色灯を点滅させた消防車や救急車が何台も集まっている。

その周囲を、黒い隊服に身を包んだ隊員たちが慌ただしく走り回っていた。


「……あれが、現場。」」


思わず息を呑む。

学校で遭遇した事件とは比べものにならない。

そこはまさに"戦場"だった。


「よし…小瀧と氷室は第一部隊と合流しろ。」


「「了解。」」


「俺は第二部隊の様子を見に行く。一ノ瀬は俺から離れるな。」


「は、はい!」


『ギャァァァァッ!!』


その瞬間、ヘリのローター音すらかき消すほどの獣のような咆哮が外から響いた。


「…始まるぞ。」


輸送ヘリが着地した瞬間ハッチが開いた。

熱気と土埃、そして鼻を刺す鉄のような臭いが一気に流れ込んでくる。


「行くぞ!」


18話は3日19時頃更新予定です。

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