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第零隔離区ー特異感染者と呼ばれた少年ー  作者: 茅ヶ崎 真
特務第零部隊の訓練生

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第16話 不知火副隊長の助け

室温が一気に上昇し、研究員達が一斉に入口へ視線を向けた。

そこにいたのは、赤い髪に鋭い眼光…そして右手には揺らめく炎。

特務第一部隊副隊長“不知火 圭吾”がいた。


「何してんだ。」


怒りのこもった低い声が響く。

不知火はゆっくりと研究室を見渡した。

すると、捕まえられている雪斗は涙目で半裸状態。

そして側には小倉がいる。


「おい研究部。…そいつ離せ。」


右手の炎がさらに大きくなり、天井近くまで熱気が広がった。

だが誰も動かない。

男は面倒そうに首を鳴らし、炎の威力を上げた。


「聞こえなかったか?離せって言ってんだけど。」


ゴォッ――!!


突如上がった炎が、研究室の一角を飲み込んだ。


「あっ。」


誰かの間抜けな声が響く。

メラメラと燃え上がった炎は、机の上へ無造作に積まれていた大量の書類へと引火した。


「何をしているんだああああぁぁぁぁぁ!!」


小倉の絶叫が研究室中へ響いた。


「三ヶ月分の研究データがあああぁ!!」


「おぉー。やっぱよく燃えるな。」


「燃えるなじゃない!!消せ!!早く消せ!!」


研究員達が慌てて駆け出した。


「水!水持って来い!」

「消火器は!?」

「急げ!!」


研究室は一瞬で大混乱になった。

そして、雪斗を押さえつけていた研究員達も手を離し消火活動へ参加する。

その隙を見て不知火は雪斗へ近付く。


「これ着とけ。」


「うわっ。」


不知火は自分が羽織っていた上着を乱暴に雪斗へ掛けた。


「行くぞ。」


不知火は雪斗の腕を掴み、そのまま研究室の外へ引っ張り出した。


「待ちなさい!!不知火副隊長!!!」


後ろから小倉の声が聞こえるが、足を止めることはなかった。

そのまま廊下を歩き続け、エレベーターへ乗り込んだ。


――チン。


エレベーターが辿り着いたのはB2階。

そのまま奥へ進みラウンジへ移動する。

不知火は雪斗をソファへ押し込むように座らせた。

そのまま不知火自身も向かいのソファへ腰かける。


「この階なら研究員は入って来れねぇからな。まぁ、万が一入ってきたら燃やすけど。」


「…。」


さらっと恐ろしいことを言った気するが、きっと本気なのだろう。


(あ、上着…。)


ふと、自分が羽織っている上着へ視線を落とした。


「あの…上着…。」


「あ?」


「返します…。」


「はぁ?裸で施設歩き回る気か?」


「いや、でも……。」


「いいから羽織っとけ。風邪引くぞ。」


有無を言わせない口調だっため、返そうとした上着を引っ込める。

雪斗には少し大きい。


「あの…ありがとうございました。」


「…お前に礼を言われる筋合いはねぇよ。」


「え?」


先程から雪斗と目を合わせようとしない。

どこか気まずそうにも見える。


(俺…何かしたかな。初対面だと思うけど…。)


少しの沈黙の後、不知火が不意に何かを投げてきた。


「わっ!」


「……これ、やる。」


受け取った袋はスナック菓子。


(スパイシーチリ味だ。)


「俺の趣味で悪いが。」


「いえ…俺好きですこのお菓子。」


「は?」


「俺、甘いのは苦手なんですけど辛いのは好きで…これよく食べてます。」


「そうなのか?」


「はい。苦めのチョコレートとかなら食べれるんですけど。」


この時やっと不知火と目線が合う。

何故か嬉しそうな表情をしていた。


(ちゃんと顔見た。…カッコイイなこの人。)


受け取った袋を躊躇なく開け、一枚口へ放り込む。


パリッ。


久しぶりに食べるお菓子は普通に美味しかった。

不知火も食べるかもしれないと、スナック菓子を机の上に起きパーティー開けをする。


「……悪かった。」


「え?」

(俺に謝った?)


お菓子を食べる手が止まってしまう。

不知火は膝へ肘を乗せたまま俯いていた。


「前に会議があった。…お前の処遇について。」


(その会議は聞いたことある…。確か氷室副隊長がB23行きを止めてくれたとか…。)


「俺が言ったんだ。お前をB23へ送れってな。」


「えっ…。」

(この人が…。)


「…研究員が用意した書類を見た。」


不知火は自嘲気味に笑いながら話している。


「暴走の危険あり…特殊個体の可能性あり…。どこを見ても危険、危険、危険…。」


「…。」


「だから俺はお前を危険人物だと決めつけた。会ったこともないお前をな。」


(なんて答えたらいいんだろう…。危険人物っていうのは間違っていないし。)


「俺はB23がどういう場所か嫌というほど知ってる。なのに…なのに俺は何の罪もない高校生のガキを書類だけで判断して送ろうとしたんだ。…最低だろ?」


そう言い終えた不知火は、悲しそうな…辛そうな目をしていた。


(そんな顔されたら…怒れないじゃないか。)


「あの…。」


「ん?」


「俺が危険人物だっていうのは事実です。小倉から色々聞いてたし、実際発症もしてるし…。だから書類は間違っていないし、B23へ送らないとって判断した貴方も間違ってないと思います。」


「なんだ…気遣ってんのか?」


「いいえ。結局送られたのはB20でしたし…。それに今回は助けてくれました。」


「…。」


「だからもういいです。お菓子もくれたし。」


確かに嫌な話ではある。

本当にB23へ移送されていたら、目の前のこの人を一生恨んでいたかもしれない。

でも、今こうして謝罪をしてくれたし、この施設にいる限りは味方を増やした方が得でもある。


(まっ…あの面倒臭い小倉から助けてくれただけでも、俺からすればだいぶラッキーだしな。)


止まっていた手を動かし、再度スナック菓子を食べ始めた。

何故か不知火は何も答えない。

悠真と違ってこの人との無言の空間は少し気まずい。


(かといって俺が話しかけんのも変な話かぁ?)


雪斗が話題探しに奮闘していると、鼻をすする音が聞こえてきた。


「うぅ……。ズズッ」


「え?」


「いい奴じゃねぇかお前ぇ……。」


「え…な、泣いてる…?」

(マジか…この人…。)


「俺を許してくれるのか……。」


「ちょ、ちょっと。」


目頭を押さえているが、頬が涙で濡れている。

どう反応していいか分からない。

先程まで炎で研究員を脅していた男とは思えないほど、弱々しく泣いている。


「……ズズッ。昨日…お前の報告書を見たんだ。」


「報告書…?鷹宮隊長のですか?」


「ああ…。鷹宮隊長が褒めててさ…ちょっとだけお前のこと気になって…自分の目で見たくなったんだ。」


「俺を…?」


「あぁ。書類に書いてる通りの人間なのかってな。」


「どうでした…?実際に俺を見て。」


「普通の高校生だったよ。小倉に服ひっぺがされて泣きそうになってるし。」


「…それは思い出さないで下さい。」


雪斗の不服そうな顔を見て不知火は笑っている。


「俺、何も知ろうとしてなかったんだな。」


「今知れたから良かったじゃないですか。」


「…たしかに。」


不知火もやっとスナック菓子に手をつけた。少しずつ二人の間にある溝が浅くなっていくのが分かる。


「自己紹介がまだだったな。俺は特務第一部隊副隊長“不知火 圭吾”だ。よろしくな、雪斗。」


「第一…ってことは五十嵐隊長と梓さんのいる所ですか?」


「あぁ?なんだ早乙女も知ってんのか。意外と他の隊員と交流あんだな。」


「まぁ…色々あって…。それで不知火副隊長、収容区画について教えてもらえませんか?俺何も知らなくて。」


「聞きたいのか?そんな楽しい話でもねぇけど。」


そう言うと、不知火はソファの背もたれへ身体を預け思い出すように話し始めた。


「B21階は、低危険度・遺体収容区画って言ってな。理性が残っている感染者の収容や、討伐済みの感染者を一時的に預かるエリアだ。戦闘部隊なら誰でも入れるぜ。」


「いや…遠慮しときます。」


「B22階は、特殊能力感染者収容区画だ。ここは能力持ち感染者専用になる。知能の低いやつらが集まっているが…危険だからここから先は隊長、副隊長、一部職員しか入れねぇ。」


(能力…もし昨日の感染者が生け捕りにされてたら、ここに連れてこられたのか。)


「B23階…高危険度収容区画は雪斗が移送される予定だったエリアだ。」


不知火は気まずいのか、また視線を合わせない。


「収容対象は集団虐殺級感染者に、部隊単独じゃ対応困難な個体。…そして自我を持つ上位感染者だ。」


(俺は自我を持つ上位感染者ってことか…。)


「最後のB24階だが…ここは副隊長クラスでも入れねぇ。隊長クラスですら、上層部の許可が必要だしな。」


「そんなに危険なんですか?」


「特級収容区画と言ってな。SIO最大の禁忌だ。最も危険な存在を閉じ込める特級収容室。」


(え…怖…。)


「…と言っても、ここには誰も入っていないけどな。」


「え?そうなんですか?」


「あぁ。最近になって強い個体が出てきたからな。いつか現れる個体のために作られたエリアだ。」


(昨日の感染者よりも、強い奴が現れる可能性…か。)


「まっ、俺が知っているのはここぐらいだ。もっと詳しく知りたいなら、研究員に聞いた方が早いぜ。」


「いや…それは遠慮しときます。」


どんな感染者が収容されているのか、気にならない訳ではない。

たが、研究員に会うぐらいなら知らなくてもいいと思ってしまったのだ。


♢♢♢


B13階 能力研究区画。深夜。


「♪〜」


鼻歌が聞こえる。蛍光灯の白い光の下で、小倉は一人散らばった書類を拾っていた。

机の上には焦げた紙片と、破損した端末。

悲惨な状態であるにも関わらず、何故か小倉は機嫌が良さそうだ。


「いやぁ……惜しかったなぁ。」


誰に言うでもなく、小倉は鼻歌交じりに呟く。


「もう少しで連れ込めたんだけどなぁ。不知火副隊長か……邪魔してくれる。」


くく、と喉の奥で笑うその表情に怒りはなく、むしろ楽しそうですらある。独り言は止まらない。


「彼のウイルスはもしかして――」


そこで一度だけ言葉を切り、肩をすくめる。


「いや、そんな訳ないか。」


誰からも返事はない。小倉の独り言は陽気に続いている。


「♪〜」


塵になった書類をゴミ箱へ入れ、助かった資料はペラペラと捲り確認をする。その中の一枚に雪斗の写真が載ってあった。小倉はその資料を見た瞬間、捲っていた手をとめ写真の中の雪斗を撫でる。


「いつか必ず君を研究材料にしてあげるよ…。だから…それまで死なないでくれよ。一ノ瀬雪斗くん…。」


不気味な笑い声は雪斗に届くことはなかった。



17話は2日の19時頃更新予定です。

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