第7話 舞踏会の招待状は、突然に
コツンッ 外から星屑のような音が響いた。
窓を開けて、彼を静かに招き入れる。
これが毎晩の日課となっていた。
「いらっしゃい」
「……鍵を掛けておけ。不用心だ」
彼は窓を閉めたあと、わざわざ鍵まで確認した。
ふと、月明かりに照らされた彼の髪が目に入る。
黒い。
(……髪色、元に戻したんだ)
靴もきちんと綺麗な状態にして入る。
(……几帳面なのね)
「時間だ」
次に彼は時計を指した。
(ほら。やっぱり)
彼は声を落として言う。
「緊急時以外は余計なことをするな」
「襲われても知らないぞ」
「知ってるわ。もう経験済みだもの」
彼は顔を顰める。
リアは思わず、くすっと笑った。
すると、一瞬で空気が冷えた気がした。
(もう!)
(本当に、この人と話すの疲れる……)
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魔力の循環を終えた後、
ゆっくり手を離し、彼が淡々と話す。
「この間、学院で」
「うん」
「手伝ってくれただろ」
「なんの調査か知らないけど、上手くいった?」
リアは目を細めた。
「……今度、舞踏会がある」
「へぇ、そんなイベントがあるのね」
きっと、豪華に違いない。
「行ってみたいな……一度くらい」
独り言のように呟いた。
すると彼はリアに一通の封筒を差し出した。
「……え、私に?」
金色の刻印まで押された上品な紙質――
「招待状があれば誰でも参加できる」
リアはそれを受け取り、じっと眺める。
どうして自分に、という考えが浮かび、怖くなった。しかし。
「……美味い料理が出る」
彼はそれだけ言って、視線を逸らす。
どうやらお礼のつもり――のようだ。
「なら、食べに行くだけね」
リアはふぅ……と息を吐いた。
---
「どんな人が来るの?」
「第三殿下だ」
「王位継承権がある」
——え?
リアは息を呑み込んだ。
王家の人間は、定期的にお披露目の場が設けられている。
ただ、第三殿下は約七年前の災害も重なり、国民の前に姿を現す機会が少なかった。
今も顔が知れない謎の人物として有名である。
招待状を握る手に少し力が入る。
……第三殿下、一体どんな人だろう。
「あなたのお仕事と、関係あるの?」
「……」
——黙秘を続けるようだ。
* * *
部屋で一人になり、招待状を眺める。
魔力を貰える上に、舞踏会まで行ける。
「上手くいきすぎて、不安……こんなに都合よく進むなんて」
「あ……!」
リアはクローゼットの中を調べた。
制服と数着の私服しかなかった。
「どうしよう……舞踏会なんて初めてだから」
「着ていく服がないわ」
思わず、その場で立ち尽くす。
とぼとぼと歩き、ベッドに腰を下ろした。
(舞踏会と言えばダンスよね)
(第三殿下……どんな女性を選ぶのかしら)
(もし私だったら――)
胸が、少しだけ高鳴る。
けれど次の瞬間、強く押し潰された。
(魔力無しだって……知られたくない)
こんな時、騎士団に所属している“あの人”だったらどうするだろうか。
「アレンに……聞いてみようかな」
彼の顔を思い出し、ぱぁっと心が軽くなる。
けれど。
「……やっぱり、やめておこう」
小さく呟いた。
本当は。
会ってはいけないのに。
それでも、アレンに会いたいと思ってしまう。
* * *
それは白い空間の中。
また、夢の続きを見た。
「くれるの……?」
光の妖精は、彼女に光の実を分け与えてくれる。
リアは「ありがとう」と言い、実を受け取った。
一口食べると体中に優しい温かさが広がった。
その反面で……
光り輝く木が、一瞬だけ揺らいだ。
ほんのわずかに砕け……光の欠片が宙を舞った。
「大丈夫……?」
「でも、綺麗……」
リアは妖精を抱き寄せ、その美しい光景を一緒に眺めていた。
* * *
そして昨日も同じ夢を見た。
もしかしたら、神話の妖精かもしれない。
リアは笑みを浮かべる。
「なにかいいことでも、起こるのかしら!」
——その代償を、まだ知らなかった。




