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第6話 ただの調査と言われても

それは昼休憩のこと。

学院の中庭で生徒たちがざわついていた。


気になって見に行くと……セドリックがいた。


「何してるの!?」

「任務の一環だ」


女子生徒達が視線を送り、男子生徒からは嫉妬の視線が送られていた。



「こっちに来て!」



リアは空き教室まで彼を連れて行った。

思っていたことを伝えた。


「髪色……変えた方がいいと思う」


国王陛下と一緒では目立つ、

とは言えなかった。



「昔の色に出来る?」

「……」



彼は魔法で、やわらかなブロンドに髪を変えた。



同じ色のはずなのに――

あのときの温もりだけが、消えていた。



---


「そういえば、制服を着ているのね」

「まだここの生徒なの?」

「違う。今は」


彼が指を鳴らすと荷物が現れ、

どさりと音を立てる。

それを一式渡された。



「極秘任務だ。」

「暇なら手伝え」



彼は腕を組み、目を細める。


「うっ、確かに暇だけど……」

「もう!」

「あとでお昼ご馳走してよね!」


---


荷物を机いっぱいに広げ、

山のような資料を前にリアは眉をひそめた。


「ここの生徒の素性を探りたい」


椅子に座り、セドリックと見合う。

始めは生徒会長の資料だった。


「この人は成績も優秀よ」


「笑顔を見せない、

 クールビューティーな人って感じね」


次のページを捲る。


「この子は外交科の生徒だわ」

「王族と結婚したいって、よく声に出してるみたい」


彼は隣で腕を組み、静かに耳を傾けていた。


「他に問題行動は?」

「クラスが違うから、調べないと分からないわ」


---


資料をよく見ると、リアと同年代の綺麗なご令嬢ばかりだった。


「……この人達を調べてるのよね」


資料から彼に視線を移す。


「この間の事件と繋がりがあるの?」

「……」

(じゃあ、なんなの。)


「ひょっとして、誰かの花嫁探し……」


その言葉が落ちた瞬間、空気が固まった。

彼は深くため息を吐く。


(……聞いちゃいけなかったみたい)


外の喧騒だけが残った。


そして――



「……あんな婚約者でなければ」

「あの人は、今頃幸せにしてたはずだ」



その言葉だけが、わずかに遅れて落ちた。



(どういうことかしら……)



リアが瞳を確認しようとすると――

彼は目を逸らした。


魔法で資料を収納したあと、動揺を隠せないリアを連れて、購買まで歩き出す。


休憩時間が終わる前に、高めのサンドイッチを買ってくれた。


(やった!)

「明日も来るの?」

「ああ」


* * *


また次の日もセドリックはいた。


そして今日も女子生徒達が

ヒソヒソ話をしていた。


(すごい人気ね……)


リアは気になっていたことを質問してみた。


「ねぇ」

「セドリックっていくつなの?」

「……十七だ」


思わず、リアは目を見開いた。


「つまり……同い年」


年上だと思っていたから、驚きを隠せなかった。

確かに顔つきはまだ、少年らしさが残っているように見えた。


――ただ、存在感が大人っぽすぎる。



(でも……少しだけ……)

(昔のアレンに似てる気がする)

(どうしてかしら……)



よそ見をした。


その時。


女子生徒と肩がぶつかった――



「あ、ごめんなさ……、ッ!」



それは生徒会長であり……

名の知れた貴族の一人娘、セレナ嬢。


成績優秀だが、衝突が多いことで噂の。



「も、申し訳ありませんでした!!」



彼女の視線を逃れ、リアは頭を深く下げた。

セレナは二人の制服と校章を見る。


「……」

「あなた、商業科の生徒よね」

「は、はい……」

「別に気にしていないわ」


ほっとしたのも束の間。


「……そちらは部外者よね」

「申請書は?」


言葉のあと、空気だけが冷えた。


「あ、すみません。あとで――」


リアが言いかけた瞬間。


「規則よ。」

「例外はないわ。」


「優秀な卒業生であってもね」


そして。


わずかに目を細めてから立ち去った。


足音が遠退いた瞬間――

リアはほっと肩を撫で下ろした。



「……見逃して、もらえたのよね?」



振り返ったとき、彼女はもういなかった。


「まだ、調査するんでしょ?」

「放課後に街へ行きましょう」


リアは彼の袖を引いた。


しかし、セドリックは生徒会長に何か"違和感"を覚えたようだった。


(あの女は、一体……)


セレナがいなくなった後も、その場所を睨みつけるように見ていた。


* * *


放課後。

街には様々なお店が立ち並んでいた。


「おーいリア!焼きたてだ、持っていけ!」

「果物も持っていくかい?」


また少し歩く――

「リアちゃんお花を持っておいき」


リアの知り合い達が次々に話しかけてきた。その度に彼女はありがとう、とお礼を言う。


「セドリックも食べて」


歩きながら彼にリンゴを一つ手渡した。


「お前は、いつもこうなのか?」

「うん。私の第二の家族みたいなものよ」


セドリックにはその感覚が分からず、リンゴを軽く拭き、静かに一口齧った。甘酸っぱい味と爽やかな香りが広がる。


無意識に歩幅が広くなった。


「ちょ、ちょっと……!」


リアはその背中を必死に追いかけた。


---


彼女は歩きながら、淡々とメモを取る。

市場の賑わいに混じって、遠くから噂話が耳に入ってきた。


「呪い子だったらしいわよ」

「やめてくれよ。この街まで災いが訪れる」


それは……リアが聞き慣れた言葉だった。

足が僅かに止まり、

呼吸がほんの少しだけ浅くなる。


セドリックはそれに気づいたが、歩幅を狭めるだけで何も言わなかった。


* * *


再び歩き出す、夕暮れの道。

赤く染まる空の下。


リアは欠けた赤い石のペンダントを無意識に握りしめる。そして、静かに言った。



「私、結婚はしないわ」



少し間を置き、続ける。


「それでもいいよって……言って欲しい」

「ずっと一緒にいてくれる人がいい」


彼女は足元に目を落とす。


「形式も身分も関係なくて……」

「私を育ててくれた人たちみたいに……愛情をくれる人がいいの」



——そしてしっかり前を向く。



少しの沈黙の後、頬が染まった。


「…ッ さっきのは忘れて!!」


恥ずかしさが込み上げてきたのか、話題を変え始めた。


「あ、あのね!」

「将来は外国へ行って沢山稼ぐのが夢なの!」

「色んなアイテムを取り揃えたいわ」


指先を合わせて声を弾ませながら語る。

けれど――指先はゆっくり離れていった。


「それでいつかまた……」

「あの故郷で……商売が出来る日が来たら……帰って来たい」


へへ……と、冗談めかして笑ったが、その指先はかすかに震えていた。未来に不安を覚えるように。



セドリックはその姿を横目で見る。

いつしか、彼女は数歩先前を歩いていた。



——この国で魔力無しは役立たずとされる。



(……だが、本当は違う)

(その価値を、誰も分かっていない)



魔力を持たない者は結婚できない。

この国を一度出た者は、二度と戻れない。


それが当然とされていた。


まるで呪いのような制度が――

彼女の未来を閉ざし続けている。



* * *


赤く染まる夕暮れの街に、

二人の影が長く伸びていた。


夜を迎える前、そっと彼女を寮まで送り届ける。


この関係は、後戻りできない。

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