第5話 毎晩やってくる魔法使い
明かりを灯したその瞬間。
窓ガラスがコツン、と音を立てる。
リアは恐る恐る、音のした方へ近づいた。
「あっ……!」
窓辺には、セドリックの姿があった。
静かに窓を開け、彼を中へ招いた。
「どうしてそんなところから……」
彼はリアを睨みつける。
「声を落とせ」
「俺がお前の部屋に、
正々堂々と訪れられると思うか?」
「あ……」
確かにその通りだ。
リアの寮は女性専用だった。
(先に伝えておけば良かった……)
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ミルクと紅茶が溶け合い、
柔らかな香りが部屋に広がっていた。
彼は飲み物の入ったカップを手に取り、淡い光を灯す。すると、白い湯気がかすかに揺らいだ。
「飲め」
リアはそのカップを受け取り、一口飲む。
熱い――
これが、彼が魔力を与えてくれるのと同じ現象。
「最終契約は……一番危険な儀式だ」
「それだけは覚えておけ」
「うん」
セドリックは彼女の持ったカップに触れ、砂糖の結晶を生み出し、取り出した。
受け皿にコロンと転がした。
「こんなに入ってたのね……お砂糖」
また一口飲む。
砂糖が消え、ただのミルクティーになる。
喉から体内に静かに流れ込む。
「私は甘いのが好きみたい」
まるで、彼の甘くない魔力がそのまま流れ込んでくるかのようだった。
* * *
「ねぇ」
「なんだ」
リアは小さなテーブルに、カップをゆっくり置いた。
「……魔力の循環って首からじゃないと駄目?」
「せめて握手とか」
「何故?」
リアは両手で首を隠し、彼を見る。
「だって……恥ずかしいもの」
この国の女性は首元にヴェールを身につける。
——素肌を見せてはいけません。
小さな頃から神秘的な場所だと教えられて育つ。
医療以外で触れられるのは、もってのほか。
それ故に、彼の手のひらが近づく度……
本能が僅かに拒絶していた。
「ごめんなさい……」
彼はため息を吐き、指を鳴らす。
すると、宙を浮いた絵本が現れた。
「わ……、手品みたい!」
「魔法だ」
パラパラと開き出す。
「この国の神話の始まりを知っているか?」
「ええ」
イラストの描かれたページが、まるで生き物のように動き出した。
「魔力のない人間が、光の実を食べて魔力を得た」
「その再現だと思え。」
「首が嫌なら……口しかない」
リアの心臓が跳ねた。
また絵本は別のページを開く。
男性が女性へプロポーズをするイラストだった。
――けれど、
「……あなたの意思とは違うでしょ」
「好きな人が出来たらどうするの?」
彼は目を細め、絵本を閉じた。
それを彼女に渡す。
「俺はどちらでも構わない」
「……あなた、やっぱり変わってるわ」
彼との価値観の違いに困惑した。
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すると彼は立ち上がり、彼女が残したカップの残りを飲み干す。
「え!?」
……リアは唖然とした。
「じゃあ、今日も始めるぞ」
彼が手のひらに光を灯す。
リアは気付いたら、首を手で隠していた。
「……直接は触れない。かざすだけだ」
その言葉を聞き、そっと手を離す。
ヴェールだけが彼女の首元を守る。
「はい。いいわよ……」
リアは落ち着き、ゆっくり目を閉じた。
* * *
魔力を受け取ると、眠くなる。
終わった後はすぐに別れて、リアはベッドに潜り込んだ。
「温かい……」
リアは彼と契約を続けるうちに、不思議な夢を見るようになった。
* * *
羽の生えた小さな光が、リアの前をふわりと飛ぶ。その先には大きな輝く木。
枝には、宝石のような実がいくつも揺れていた。
「綺麗ね……」
まるでセドリックの魔法のようだと思った。
だけど。
「セドリックはこんなに優しくないわ!」
「聞いてくれる!? あのね――」
リアは小さな光に、彼との話をたくさん聞かせた。出会いから今日までのことを。
すると、光は妖精の姿へと変わっていった。
* * *
新しい命の誕生を見届けた気がした。
目覚めると、世界が輝いて見えた。
「は! 今日、小テストあるんだ……!」
リアは慌てて制服へと着替える。




