第14話 歪み——信じるものの消失
よく見ると猫には首輪がついていた。
「ひょっとして……魔道具?」
探知器の代わりを果たしているようだった。
---
牢屋に入り、
ソフィアの目隠しと口元の布を外した。
ゆっくり揺らす。
(……お願い……起きて!)
すると、ソフィアが目を覚ました。
「……リア?」
「ソフィア!よかった!」
名前を読んだ瞬間、彼女は大きく目を見開いて、暫く固まる。
「ソフィア大丈夫? あのね、今――」
「……私はソフィア、よね?」
「うん……そうだよ」
リアはソフィアの両頬に触れた。
瞳を覗くと、かなり混乱しているようだった。
リアは小声で状況を説明した。
---
話を聞き終えると、彼女は魔法で光の鍵を作り、手錠を解除した。
(そういう使い方もあるんだ……)
リアは自分の代償を負った手首を見た。
「……広がってる……」
だけど、今はそれどころじゃない。
二人は牢屋を出た後、手を繋いで廊下をゆっくり進む。猫はまたどこかへ姿を消していた。
(また……。大丈夫かな、あの子)
* * *
この御屋敷はとにかく広い。
廊下の隅で隠れて休むことにした。
リアはポケットからお菓子を一つ取り、ソフィアにそっと渡した。貰って、と笑顔だけで伝える。
「……ありがとう……」
リアも小さく頷き、同じお菓子を口に入れた。
---
二人は再び廊下を歩き進める。
するとソフィアが手を離し、言う。
「リア……犯人の目的は私だと思うの」
「え?」
「私が結界を破ってみる。
だからあなただけでも外に――」
その瞬間。
ワッハッハ!と犯人達の笑い声。
隠れようとしたその時、ばったり鉢合わせした。
「は……?」
眼鏡の男は目を見開く。
顔に血管が浮き出ていた。
「お前達……なんでここにいやがる!!」
「んもう!
だから見張りをつけるべきだったのよ!」
「逃げる気だぜこいつら!!」
巻き髪の女と、手下がさらに煽る。
まずい。
「ソフィア走って!!」
リア達は急いで走る――
タタタタタ……
「ニャッニャッ!」
小さな猫が再び現れ、リアは急いで抱きかかえた。
「一緒に逃げましょ!」
だが猫は腕からすり抜けた。
逃げ道を再び案内しようと、先頭を進む。
「おい、猫」
まとめ役の男の眼鏡が、黒く曇った。
危険を察知したリアは急いで猫を呼ぶ。
「こっちに来て!戻って!」
猫が振り返る、その瞬間。
——ボッ
猫の体が炎に呑まれた。
声が、出なかった。
さっきまで温もりのあったはずの姿が、跡形もなく数秒で消えた。
「……ッ」
(やだ……嘘……)
(さっきまで、そこにいたのに)
「うそ……」
何も残っていない。
あの子は、私達を助けようとしてくれていたのに。
空気が歪んでいた。希望の光が見えない。
リア達を一瞬で恐怖に包み込む。
---
「おい、怪しい侵入者がいるぞ」
「捕まえろ。娘達もだ」
眼鏡の男は身なりを整え、黒い宝石のブローチに手を添える。
すると。
煙のような黒いオーラがブワッと湧き出ていた。
足元には黒い手の影がユラユラ。
頭上には、ぎょろりとした
巨大な目玉が浮かんでいた。
「あの時の影だわ……!」
リアは怖くて一歩下がる。
それに反してソフィアは攻撃体制に入る。
彼女は光の杖を生成し、右手に握った。
そして俯き、深呼吸。
次に顔をあげた時、顔つきが変わった。
「そんなことさせないわ」
その立ち姿と声はリアが知るソフィアではなかった。
その顔はいつもの微笑みを完全に失い、瞳は冷たく光っていた。あの優しい彼女とは思えない。
まるで、誰か別の人間のように。
(……本当に、私の知っているソフィア?)
(信じていいの……?)
リアの手が小さく震えた。
カツカツカツ……
ヒールの音が優雅に響く。
「……じゃあ、お姉さんで試してみる?」
巻き髪の女が目の前に現れた。
女も黒いブローチに触れ、黒いオーラをゆっくり纏う。
赤いリップグロスが鮮やかに光った。
逃げ場は、もうなかった――
(逃げなきゃいけないのに……)
体が言うことを聞かない。
目の前には、化け物のような影。
隣には、知らない顔をしたソフィア。
どちらを信じればいいのか、分からなかった。




