第13話 歪み——自分の価値
眼鏡の男は赤い石を灯りにかざす。
まるで、奥深くまで見入るかのように。
「これは"人間"がつくる珍しい魔石だ」
糸目の男が口を挟む。
「で、でも兄貴、"人工的"なら同じ石って沢山あるんじゃないんですか…?」
眼鏡の男は、相手を見下した表情をする。
「はぁ……新人。相変わらず頭が弱いな」
指でコツコツとテーブルを叩き、
その音が静かな部屋に響いた。
「このサイズは俺も見たことがない」
「偽物でなければ――」
片手でワイングラスを持ち、赤ワインをくるくる撹拌させ……一口飲む。
「宝石も女も……
輝きが落ちる前が一番高い」
そして、手に持っていたペンダントを
テーブルの上に置いた。
「明日"あれ"を手配しろ」
「裏社会の鑑定人なら飛びつく話だ」
男はニヤつく。
「俺らが億万長者になる日も近いぞ」
それを聞いて、他の犯人達も目を輝かせ、興奮が隠しきれないでいた。
気のいい手下達は声を弾ませる。
「そうだよな!」
「普通のものとは価値が違うはずだよな!」
「俺らのこのブローチも凄い力があるし!!」
巻き髪の女は化粧を直しながら話す。
「そうよねぇ。宝石は磨いてこそ価値があるもの」
全員、胸元に黒い魔石をつけていた。
どれも、同じように不気味な光を放っている。
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大人しくしていた糸目の男が、赤い石のペンダントを見つめる。口には笑みが溢れていた。
「こ、これが大金になるのか……」
糸目の男がそっと指を伸ばす。
その瞬間——パシッ!
乾いた音が、空気を裂いた。
鋭い音とともに、眼鏡の男の視線が凍りつく。
リアの心臓が跳ねる。
(それ、私のペンダント……!)
(ずっと大事にしてきたのに!!)
手の震えが止まらない。
息が詰まり、ゆっくり立ち上がる。
(今は……冷静にならなきゃ)
猫と共にその場を急いで立ち退いた。
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足音が近づく。
ドアがギイッと軋み、開いた振動で壺が揺れる。
リアは今、心臓が破裂しそうだった。
コツコツコツ……
「こっちから物音が聞こえたような……」
「って、うわ! なんだお前かよ!」
「こっちの台詞だ!」
犯人達が鉢合わせした。
リアは近くの大きな壺の横に身を潜める。
「それより、連れて来た娘を見たか?」
「ああ。青い服の女は綺麗な顔をしていた。
もう片方は……ガキだな」
リアは息を殺し、男達が立ち去るのを待った。
コツコツ……と足音が遠ざかる。
(……ガキって……)
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リアは廊下をさらに進む。
十字路になると、右へ進んだ。
猫はその後をゆっくりついて行く。
ドアに耳を当て、人がいないことを確認してゆっくり開けて入る。しかしその部屋には白いマネキンが沢山飾られていた。
(ひっ……びっくりした……)
近くには大きな鏡が置いてある。
ドレスの首元は焦げていた。
現実を見てしまった不安が押し寄せる。
キャハハ!、その声と共に子供の姿が映った。
慌てて振り返ると、誰もいない。
白いマネキンだけが飾られていた。
(気のせいかな。……あれ……)
(あの小さな猫がいない!!)
その直後、廊下から声がした。
「明日の昼、依頼主に渡すんだよな」
「ああ。もう片方は閉じ込めておくらしい」
——息が苦しい。
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廊下に出て猫を探すも、姿が見えなかった。
何度目かの窓。
しかし、ここも開かない。
すると――
そこには少年らしき人物がいた。
「さぁて、見回りでもするか」
リアは上の階へ続く、物置き場にされた階段の影に身を潜めた。
(お願い、気づかれないで……!)
少年の視線が一瞬止まり、何かを見透かされた気がしたが、すぐ逸れた。
「今日は空気が淀んでいる」
「部屋の窓でも開けて……空気を入れ替えるか」
そう大きく呟き、姿を消した。
最初から気づいていたような、そんな間だった。
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(……見逃された?)
(なんだったの、今の。)
でも。
もしかして。
(部屋の窓から外に出られる……?)
そこに再び猫がやってきた。
「ニャー」
「よかった!」
持ち上げて、小さな猫の鼻と自分の鼻を合わせた。一人じゃないことが、とても心強い。
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すると猫は腕からすり抜ける。
そして走り出した。
猫は道を知っているようで、時々何かを確かめるように立ち止まった。
「着いていっていいのかな……」
猫は階段の上を上がる。
しかし、そこは荷物で塞がれていた。
「なにかあるのかも……」
リアは少し考え、更に猫の後を追う。
大量の荷物をかき分けた。
上の階へ上がったはずだった。
きっとまた、同じ光景が広がるはず。
なのに、景色が変わっていた。
「うそ……!」
後ろを振り向くと、階段が消えている。
気づけば、リアは一階に立っていた。
「ニャーッ ニャッニャッ」
トトトトト…
更に導かれるように奥の部屋へと進む。
「ここに入ればいいの?」
「ニャアッ」
キィ……
その部屋には大きな窓があった。
リアが手を添える——ガチャッ
(開いたわ!)
外の空気をやっと吸え、リアは安堵した。
夜の森の香りがする。
スゥ……ハァ……
「よし!」
ほんの少し、希望が見えた。
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しかし。
牢屋までの道のりも簡単では無い。
何度進んでも、同じ場所に戻ってしまうからだ。
魔術がかけられている……そんな気がした。
それでも猫は、進んでいく。
そして――再び牢屋に戻れた。
「よかった……けど……」
「あなたは一体何者なの……?」
猫と目が合う。その瞬間。




