第12話 「選別される少女たち」
自由になった手で、目隠しと口元の布を外した。
「はぁっ はぁっ」
目の前はぼやけているが、灯りが見える。
そして誰かの足元が見えた。
リアの意識は、そこで途切れた。
* * *
しばらくすると――
若い少年の声が聞こえた。
魔道具越しに、外と通信しているようだった。
「追加料金頂きますからね」
(仕事の話……?)
「逃げるなら今です」
「呪いはやめて下さい。この刻印痛いんで!」
意識が遠のく……。
一瞬、アレンの声が聞こえた気がする。気のせいだと振り払うように、意識をつなぎ止めた。
すると、目の前には小さな足。
トトトトト……
オッドアイの小さな猫が、明かりの中に姿を現した。黒目をくりくりさせている。
「ニャー」
それは、あの時と同じ猫だった。
「……ッ」
「どこから入ったの……?」
猫は倒れるリアに擦り寄った。
喉を鳴らす音が聞こえる。
(あたたかい……)
その温もりに、涙が溢れそうになった。
すると。
猫は一瞬、鉄格子の鍵穴の方を見た。
「ここから出たいよね……」
そこは冷たい牢屋の中。
外の世界が見えない。
気持ちを落ち着かせるために、
ペンダントを握る――
しかし、胸元にはなにも無かった。
(えっ)
(……ない)
一瞬、呼吸が止まった。
ペタペタと床を手探りする。
周囲を見てもない。
無くした?犯人に取られた?
「どうしてこんな時に……」
---
リアは息を詰めた。
魔法を使った代償のせいか、感覚が麻痺している。手錠をされていた手首も赤く腫れていた。
ふと、鉄格子の外へ目を向ける。
鉄色の何かがみえた。
「鍵があるわ……!」
猫は鍵の方を見て、歩き出した。
迷いのない速度で。
チャリッ
金属のぶつかる音が響く。
猫が台の上に乗り、小さな手で揺らしている。
(え……。 私の言葉が分かったの?)
リアも周囲を見渡し、
近くにあったホウキで必死に鍵を取ろうとした。しかし。
指先が上手く使えない――
(お願い……届いて)
その瞬間、激しく頭痛が襲う。
「ッ……!」
手錠を破壊したダメージが大きすぎた。
ぽたぽたと、
顔から流れる汗を拭った。
(汗……そうよ、これは汗。)
その瞬間。
猫が鍵を床に落とした。
鍵を咥えた瞬間、しっぽをユラユラ揺らす。
「助けてくれるの……?」
まるで、最初から鍵を狙っていたかのようだった。
(この子、普通の猫じゃない)
(誰かに躾けされてる……)
――もしかして魔獣?
リアはポケットにお菓子を入れていたことを思い出し、取り出して猫に差し出した。
「おいで……」
すぐに近づき、匂いを嗅いだタイミングで猫は鍵を落としてくれた。
---
鉄柵に顔を押し付け、必死に手を伸ばす。
(あと少し……!)
手に伝わる冷たい感触——
リアは牢屋の鍵を手に入れた。
「ありがとう……!」
リアは猫の顎下をゆっくり撫でた。
当然と言いたげに猫はこちらを見た。
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「ふぅ……よしっ」
少し休んだ後、周りをゆっくり見渡す。
鉄格子を掴みながら鍵を引っ掛け、解除。
牢屋の柵を静かに開けた。
キィ……
そこにはいくつもの小さな牢屋があった。
隣の牢屋に誰かがいる。青いドレスの女の子だ。
(この子も助けなきゃ……!)
別の鍵を使い、急いで開けた。
女の子の元へ駆け寄り、目隠しを下ろす。
心臓が嫌な音を立てた。
いつも笑顔の優しい子。
水色のリボンがよく似合う女の子。
そこには、
見間違えるはずのない面影があった。
「え……」
——なんで、ここにいるの?
(事件に巻き込まれた?)
(一体いつから彼女はここに……)
揺らすも、起きない。
なんで?
嘘だ。
夢であって欲しい。
「ねぇ……」
「どうして」
「ソフィアがここにいるの……」
---
僅かな隙間風が、髪を揺らす。
(ホワイトティーの香り……)
彼女の優しい香りに……
涙が出そうになった。
(……早く助けなきゃ……)
けれども、牢屋の鍵しかない。
リアは手に力を込める。
「手錠を壊す力が、残ってない……」
ソフィアなら魔法を使える。起きるのを待つ?
でも、その間に誰かが来たら……。
(決めたわ)
ヒールだと足音が響く。逃げるには邪魔だ。
――なら、もういらない。
岩の段差にかかとを打ち付ける。
一度でいい。音が出るほど強く。
瞬間――
かかとが折れる鈍い感触がした。
(……これでいい)
リアは歩きやすくなったそのシューズを履く。
「ソフィア、必ず戻るからね」
* * *
先に脱出ルートを確保し、彼女を抱えて逃げる。
もし見つかってもその時は——
……どうにかする。
牢屋の扉を開け、階段を掛け上がる。
そこは広い廊下だった。
同じ部屋のドア、同じ形の照明がいくつも続いている。
窓はびくともしない。
景色が歪み、鏡のように変化した。
——何かに遮られている。
リアはごくりと息を呑む。
「……簡単すぎると思った」
すると、後ろから猫の鳴き声。
「あなたも外に出たいわよね……おいで」
「ニャ……」
一緒に出られる場所を探すことにした。
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古い家具や骨董品に、埃が積もっている。
リアは息を潜め、脱出口を探す。
上に続く階段を見つけ、ゆっくり上がる。
すると……
先程の犯人達の声が聞こえた。
リアは猫を胸に抱え、姿勢を低く落とす。
「ニャッ」
「静かに」
扉の隙間から覗くと、中には複数人。
眼鏡をかけた男がまとめ役のようだった。
ネクタイをしっかり閉めて、悪人とは思えぬ立ち振る舞い。
片手には赤い石のペンダント。
宝石について話してる……?
いや、違う。
「弱い女ほど、魔石を身につける」
「俺達と同じだ」
――もし"呪い子"なら。
「マニアな金持ちが欲しがる」
リアは息をひそめ、耳を澄ませた。
「夢のような話だろ?」
「俺らは働かずに金が手に入る」
「女はこの石のおまけってわけさ」
猫が……静かに爪を立てた。




