43:エピローグ
ママンドは骨せんべえの効果もあってか、翌日にはなんか普通に自力で歩けるようになったらしい。ガランドは冷静を装いながらも嬉しそうだったので、俺としてもホッコリしている。
「なんか期せず、みんなの幸せを手助けする形になったよな」
ガランド以外にも……
ニュイは前オーナー(現徳山さん)との間にあった奇縁を手繰り、過去へと1つのケジメをつけた。
モロは娘であるノエインの心の成長に気付き、そんな彼女の変化を傍で見守り続けている。
マチルダはまだ完全ではないけど、少しずつ暴走対策への光明も差してきているし、自身を称える祭を開催してもらって凄く幸せそうだった。
サーシャは何も無かった。
「……食いたい物リストも、終わったしなあ」
ざっと、おさらいすると。
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・うどん
・おにぎり
・トンカツ
・味噌汁
・玉子サンド
・ラーメン
・寿司(海鮮丼)
・ビーフステーキ
・焼き鳥
・麻婆豆腐
・野菜炒め
・エビフライ
・そうめん
・ローストビーフ
・牛丼
・パエリア
・レバー(レバニラ炒め)
・パスタ(ナポリタン)
・カレー
・鍋(ちゃんこ鍋)
・雑炊
・ハンバーグ
・肉まん(中華まん)
・大福
・サバ(みぞれ煮)
・カキのオイル漬け(アヒージョ)
・肉じゃが
・海苔弁
・鶏の唐揚げ
・ピザ(カプリチョーザ)
・蕎麦(山菜蕎麦)
・フランス料理(ブフ・ブルギニョン)
・クレープ
・親子丼
・コロッケ
・ブリ大根
・ウィンナー
・オムライス
・やきそば
・すき焼き
・ハンバーガー
・鰻(鰻重)
・選外(シュトーレン・ブルーベリータルト・あんぱん)
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うん、確かに完遂してるね。
もちろん、あのビジネス街を歩いてる間に、思い出した料理とか、新たに食いたくなった料理とかもあるけど。取り敢えず、最初に打ち立てた42個はコンプリートだ。
「燃え尽きたワケでもないんだけど……そうだなあ」
今後はどうするか。
と。考えあぐねていると、壁の魔剣がカタカタと揺れる。ニュイか。引き抜く前にボフンと煙が立ち、人化した。
「ニュイ。一緒に行きたいのか?」
当然、肯定が返ってくると思ったんだけど。彼女(彼)は首を小さく横に振った。
と、同時。バサバサと羽音がするので振り返ると、コウモリが窓枠に止まっていた。サーシャか。
「ルイ様。少シよろしイでしょウか」
更に、部屋の外からはガランドの声が。なんだ、みんなして。
取り敢えず、ガランドにも入室の許可を与えたところで。四天王2人と、それに匹敵するレベルの魔剣1人が集結することになった。
「えっと?」
「実はですね。ワタクシたち、今日はルイ様に魔力を捧げに来ましたの」
どうやら示し合わせて来たらしい。
理由を訊ねると、
「以前、リヴァイア氏ニ聞いたのデス」
「魔力を……合わせたら……滞在時間が延びるかも」
「日頃、色んな美味しい物を食べさせていただいてますから」
恩返し、的なことだろうか。
「ワタクシたちノ魔力で、いつモより長ク故郷を楽しんデいただきタいと」
「たまには……1人で……」
「この問題児2人と一緒では、気が休まらないでしょう?」
ガランド……ニュイ……
サーシャ、オマエは鏡を見ろ。
しかしまあ、
「そっか。3人ともそんなこと考えてくれてたのか」
心が温かくなる。
「ちなミに、モロからモ魔力を預かっテおりまス」
「そうか」
アイツも、まあこの場に来て一緒にってガラではないけど、多少なり感謝してくれてるんだろうな。
3人が俺の体に手を当てる。そこからボウッと熱が伝わってきた。魔力の流入。この3人がもし悪意を持っていれば、いくら俺でもタダじゃ済まない。ていうか負けるだろう。
つまり……信頼だな。ニュイとガランドは、もうこの2人に裏切られて死ぬなら仕方ないレベルだし。サーシャもまあ、結局のところ俺を傷つけるとは毛ほども思ってない。逆はしょっちゅう望まれるが……
「……ふう」
やがて全ての魔力が注ぎ込まれる。3人は少し疲れた様子で、その場に座り込んだ。
「ありがとう」
しばらく休んだら、彼らも回復するだろう。それから一緒に行っても良いんだけど……まあ今日のところはお言葉に甘えておくか。次はみんなで遠出しても面白いかも知れないが。
お土産だけ約束し、いつものビジネス街へと渡る。
当たり前だけど、俺のリストが終わっても、いつもと何ら変わらず回っている街。魔王になったって言っても。勇者を退け、魔界を統一したと言っても。日本に来れば、ただのオッサンだ。そして、それが心地良くもある。
「さてと。どうするか」
時刻は11時12分。みんなから貰った魔力も充てれば、恐らく3時間くらいは滞在できると思われる。
超有名店に並ぶか? コース料理でも食べるか?
「……違うな」
フッと浮かぶのは、やっぱりみんなの顔。1人で楽しんで来いとは言ってくれたけど……その実、きっと美味い土産も期待してると思う。喜ばせてやりたいよな。
電車に乗って、この地方一番の繁華街へと足を踏み入れた。超巨大なハブ駅で、その周辺の駅ビルだけで、欲しい物はなんでも手に入る。そんなメガシティだ。ただその地下街はダンジョンとも称されるくらいで……
「1時間じゃ絶対に無理だから諦めてたけど」
みんなの厚意、ありがたく使わせてもらおう。
いざ!
「……」
尋常に!
「……参れないな、これ」
人、人、人。老若男女、人波が、いつまでも途切れない。そして、天井から吊り下がる案内板を見ても……どのビルを目指せば良いのか全然分からない。
……3時間でも足りなさそうだな、これ。
「デパ地下かな」
テナントの名店を探そうなんて、ド厚かましかった。まずスマホが必須だわ、こんなの。調べながらでも迷いそうなのに、スタート地点にも立てないとか話にならない。
大人しく、デパ地下を目指そう。大体そこに食べ物は何でもあるしな。
というワケで、どうにかこうにか人波にぶつからないよう移動する。
目的の建物に辿り着けないまま、他のビルの化粧品売り場に入ってしまって、慣れないニオイに気分が悪くなったり。地上に出てしまい、当てずっぽうで移動して迷子になったり。
そして。そんな紆余曲折ありながらも、ようやく。
「着いたぜ」
25分掛かってしまったものの、狙っていた百貨店の地下へと辿り着いた。
重いガラス扉を押し開け、中へと足を踏み入れる。フロアがピカピカで、照明も眩い。そして、通路を挟み込む形で左右に店が連なっている。ガラスのショーケースもまた、照明の下で美しく……まるで宝石箱の中身を引っくり返したよう。
「おお……」
久しぶりに見たけど、圧倒されてしまうよね。これ全部が食べ物を売ってて、しかも各地で名を馳せた名店の出張がほとんど。
改めて合理的で素晴らしいシステムだよね。
「……」
ヤベえ。子供みたいにワクワクしてる。
残り2時間ほど。上手く回らないと、時間切れもあるな。クソッ。やっぱ凄いわ、日本の食は。魔王軍総出の魔力で、1つのデパートも攻略しきれんとは。
高揚感のままフラフラと歩き出し、店を物色して回る。
まずは中華のアワード店の出張ブースで、惣菜の麻婆豆腐を買った。いっそ黒ずんでるレベルだが、麻も辣もバキバキだろう。
ブレイナーくんが喜ぶ顔が……あ、いや彼は顔は無いんだった。けど大喜びで水槽内に泡を吐くだろうな。
続いて、俺でも店名を聞いたことあるレベルの老舗パティスリーでブルーベリータルトを購入。
ワンアイには色々手伝ってもらったし、これからも世話になる機会は訪れるだろう。目も労ってもらわないとな。
お次はカレーレトルトだ。全国各地の名店のルーを取り揃えてる期間限定特設ブースがあったのは……まさに天命だな。
ザコーイのヤツは、運が良いのか悪いのか分からないタイプだよな。メンローチにイビられたけど、そのおかげで他の魔族ではありつけない美食を手にすることになって。
「残り1時間半弱か。スピード上げてかないとな」
鰻の蒲焼は高すぎてチキってしまったけど、代わりに鰻の茶漬けを発見したので飛びついた。ちゃんと蒲焼も2切れほど入ってるし、まあコレで勘弁してもらおう。
ママンドが、また元気に動き回れるようになったら。親子でどこか出掛けられるよう、ガランドに休暇をやっても良いな。
魚の西京焼きパックも購入。サワラに金目鯛に鮭。これだけあれば、あの日本カブれのオッサンも満足するでしょう。
またフィアーでもせびってやるか。あるいは一度、国家論みたいなのを語り合っても面白いかも。大戦も終わり、ここからは内政のターンだしな。
京都の名店が出しているブースは客待ちがあった。5分ほど待って大福各種を手に入れる。シャインマスカットや桃を入れたフルーツ大福は目にも楽しいよね。
モチルダも、まだまだ成長期だし良いモン食って力つけてもらわないとな。マチルダが眠っている間、一帯を束ねられるくらいになれば理想的だ。
その和菓子屋の隣も系列ということで、覗いてみると美味そうな松花堂弁当があったので購入。栄養バランスも彩りも完璧で、俺も食いたいくらいだったよね。
クワレルンダ、早く受肉できると良いな。まあまた来年にはマチルダのエサになる運命ではあるんだけどね……
缶詰を売っているブースでは、アヒージョやオイルサーディンを購入。変わり種としては、ホタルイカやホヤ貝があったので、そちらもトライしてみた。
ノエイン、割と上手くいっているという噂は聞こえてくるので、大丈夫だとは思うけど。もし体の動きで気になる所があるなら、是非補って欲しいと思う。
彼女が管理するダーケン村の連中には、バナナチップスを購入した。これを見て、バナナの保存食化というアイデアを採り入れてくれたら良いんだけど、「コレは美味いべな!」で終わりそうな気もしてる。
「いよいよ四天王たちだな」
と言いつつ。マチルダに関しては見送りだ。可哀想だけど、中途半端に起こして腹一杯食べさせてやれない方が酷でもある。来年の大食祭の頃までには、とびきり美味いモンを探しておこう。
サーシャには串カツを買って帰ることにした。揚げたヤツを普通に売ってて少し驚いたけど……ヒレ肉とエビ、イカ、レンコンなどを買ってみた。喉に突き刺して遊べるように多めにね。
モロには……まさかのカルフォルニアロールがあったので飛びついた。しかも具はカニカマじゃなく本物のカニ身を使ってる贅沢なヤツ。
日本における料理魔改造の歴史も含めて、話してやろうかなと思ってる。
ガランドにはシンプルに高級食パン。フランス産のバターも買ってみた。すっかり菓子パンに毒された舌を、パン本来の旨味に引き戻してやらないと。IQも高いし、素材の味というものにも目覚めてくれるんじゃないかと期待してる。
まあ菓子パンばっかり食ってても、人間と違って病気にはならないんだけどね……
ニュイには山菜おこわと、きゃらぶき。色々な物を食べさせてきた子だから、他のメニューとも迷ったけどね。ただあの山の幸を気に入ってる風でもあったし、こういうチョイスになった。
「こんなところか」
時刻を見ると、ビジネス街からトータルして2時間31分。足が棒のよう……とはならないのが魔人の体の恩恵だよな。
……時間は無いけど、最後に俺の分も買う。あちこち徘徊してる間、ずっと目を奪われていたケーキのブースの数々。色鮮やかで、ニスを塗ったように光沢が輝き……本当に魅力的なんだよな。
そのうちの1つに狙いを絞り、お嬢様方の列の最後尾に並ぶ。4人待ちの後、俺の番。
「うーん」
どれも本当にキレイなケーキだ。目移りしてしまう。
ただ時間も押してるので、やっぱりここは王道を往くショートケーキをチョイス。ホールで買ってしまう辺り、つくづく俺は誰かと食うのが好きらしい。
ともあれ、これにてミッションコンプリート。
「よし、帰ろう」
両手の手提げカバンが食糧でパンパンだ。
ヒイヒイ言いながら、デパートを後にし、頃合いの路地に入る。そこでゲートを起動し、魔界へと帰還した。
「おかえり……なさい」
「おかえりなさい」
「戦利品ガ沢山デスな」
3人とも待ってたし。
「食いしん坊どもめ」
「実ハ我々だケではありマせん」
「1階の広間にみんな呼んでいますわ」
「今日は……お祭り……」
おいおい。マジかよ。
俺は荷物を置いてバルコニーに出る。下を見やると、確かに関係者が勢揃いしていた。
「おい! 何やってんだ! 仕事は!?」
「ワタクシが祭といウことで、休みニしましタ」
「ええ……?」
「魔王様、ばんざーい!」
「優しい魔王様、ばんざーい!」
「美味しい料理を食べさせてくださーい!」
ったく。調子の良い連中だ。
「ふふ。歴代の魔王様と違って、恐怖で支配しませんからね、ルイ様は」
「その分……優しさと……美味しさ」
「美味しさって」
なんじゃそりゃ。ていうか俺が飯作ってるワケでもないんだが。
「ルイ様、行きましょウ。皆が待っテおりまス」
トートバッグを片方ひょいと担いでくれたガランドが先に下りていく。
「あ! そっちはケーキが入ってるから乱暴に扱うなよ!」
慌てて後を追う。前庭に出ると、全員が涎を垂らさんばかりの食いつきっぷりで囲まれてしまった。
そうして全員で食べたケーキは……人数が多すぎて極小になってしまったけど、甘くてフワフワで、クリームも蕩けるように美味しかった。イチゴは誰かに取られたので感想はナシ。俺、魔王なんだけどな。優しい=ナメられてるとかじゃないよな。
「魔王様、ばんざーい!」
「ケーキ、美味しいもちー!」
「ルイ王朝ばんざーい!」
「10代も20代も続いてくださーい!」
それは……16世あたりで処刑されそうな予感がするが。
「パンもケーキも食べレば良いじゃナい」
わいわい、がやがや。
――我が魔王軍は、今日も騒がしくて、食いしん坊ばかりだった。
<了>




