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転生魔王の出戻り日本グルメ  作者: 生姜寧也


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39/45

38:オムライス

 あれから数日。日本では2月に突入した。

 ノエインは良くやっているようで、モロも嬉しいような寂しいような、なんとも言えない感情で日々を過ごしている様子だ。


 まあとにかく、俺の方はまた1つ問題を片付けたので、心置きなくグルメライフを……


「魔王様。小食モチルダ殿が、お連れ様と一緒にお見えです」


 部屋の外から従者の声が掛かる。

 あー。出鼻を挫かれてしまったようだ。

 仕方ないので、謁見の間へ移動する。既にモチルダと、彼より一回り小さい楕円形の魔族が一緒に待っていた。ツチノコっぽさがあるな。


「面を上げろ」


 玉座に座ると、彼らに楽にするよう言うが、ツチノコの方は首をもたげるのが難しいらしく。地べたに這いつくばったまま、のたうち始める。


「……腹這いの姿勢が楽なら、そのままで良い」


 それで彼(?)はジタバタするのを止めた。


「お久しぶりですもち。魔王様」


「ああ。大福を食べさせて以来か」


 モチルダと挨拶を交わし、俺はもう1人の魔族に目を向けた。


「お初にお目にかかりますっしょ。被食クワレルンダと言いますっしょ」


 これまた語尾も名前もクセが強いなあ。


「被食……クワレルンダ」


「彼は食べられるために生まれてきたもち」


 酷い。まあでも、食肉用の家畜とか、日本でもやってるから非難できた立場でもない。


「食べられても生き返るから、大丈夫ですもち」

 

「そうなのか?」


「核が凄く丈夫で消化されないっしょ。食べられた後に排泄してもらえれば、そこから蘇るっしょ」


 お、おう。

 本当、色んな生態の魔族が居るモンだなあ。


「それで? クワレルンダを連れて来たということは、彼が俺に用なのか?」


「そうですもち。大食祭が近いですもち」


「たいしょくさい?」


「し、知らないですもち?」


 知らないもちだなあ。名前からしてメッチャ食べる祭なんだろうか。

 と予想してたんだけど、


「マチルダ様に沢山食べていただく祭ですっしょ」


 あ、そういうことか。


「マチルダ叔母さんは、我々のボスにして出世頭もち。彼女がもたらしてくれる恩恵に一族は大感謝もち」


 聞けば、祭のために一族は毎日少しずつフィアーや食べ物を置いておくそうだ。日々感謝を忘れないためと、彼らも食いしん坊ではあるので積み立て形式じゃないと腹が減って仕方ないから。


「それで、その祭が明日なのか」


「はいですもち。大戦中は行われなかったので、5年ぶりですもち」


「まあ5年前までも、先代魔王様はほとんど来てくれなかったっしょ」


 それは可哀想だな。

 ということは、もしかしたら俺の所に来たのも礼儀というか形式上であって、本当に参加するとは思ってない可能性も。

 そんな結論を出しかけたところで、クワレルンダが心持ち前に出てきた。


「あ、あの。ルイ様には是非に参加していただきたいっしょ」


「え?」


「実はマチルダ叔母さんを里帰りさせてあげたいんですもち」


 聞けば、近年の祭はあの封印の岩場で行われるようになっているらしく。昔(マチルダの力がまだ四天王クラスではなかった頃)は、例の湿原地帯に里帰りして祭をやってたと言うのだから……そう考えると寂しいよね。

 マチルダは決して意思や知性の無い魔族じゃない。その心中に郷愁の想いもあるだろう。


「そうか。そういうことなら……」


 俺的にはマチルダには借りがあるからな。前回は利用するだけのようになってしまって申し訳なかったし。それに甥のモチルダに関しても体を分けてもらった恩があるんだよな。そこら辺を考えると、全面協力すべきだろう。


「分かった。参加しよう。しかし、マチルダを故郷に帰す手段か……」


 下手をしたら、あの湿地帯が禿山に変えられるかも知れない。


「あちらに移す前に、腹4~6分目位にはしておかないと厳しいだろうな」


「はいっしょ。そこであっしの出番っしょ」


 被食クワレルンダ。彼を食わせれば? いや、彼の体積だけでマチルダの腹が膨れるとは到底思えない。


「クワレルンダは自分が食べた物の特性を超倍化できる能力があるんですもち」


「えっと?」


「例えば毒物を食べた後には、あっしの体内には元の毒の何十倍もの殺傷力を持った毒が渦巻いてるっしょ」


「ああ、そういうことか」


 魔族の栄養吸収能力は、およそ人間の比ではないが。それを更に強化したような特性らしい。


「つまり腹が膨れる物を食ったうえで、マチルダに食われれば」


「はいもち。きっと叔母さんもお腹が膨れるもち」


「実証はされてるのか?」


 そう訊ねると、2人は少し気まずそう。

 ああ、そうか。魔界にそんな「腹が膨れる」食べ物なんて無いもんな。つまり実験も兼ねて。かつ、日本という多様な食文化を誇る国ならあるんじゃないかというお伺い。


「も、申し訳ないですっしょ」


「いや、良いよ。マチルダのことは、俺も気に掛かってたしな」


 上手くいけば、ある程度マチルダの暴食をコントロールできるようにもなるだろうし。まあその度にクワレルンダに食われてもらう必要があるワケだが。


「取り敢えず、そうだなあ。腹がガッツリ膨れる食べ物……」


 色々と候補が浮かぶけど。

 まあ行ってみますか。


「クワレルンダ。擬人魔法は?」


「は、はい。なんとか使えますっしょ」


「よし、それじゃあ日本へ行くか」


 私室に戻ると、2人は自らに擬人魔法を掛ける。クワレルンダはツチノコ体型(なで肩で腹回りだけ出っ張り、足はシュッと細い)の少年の姿になってしまった。

 まあ、うん。稀に居るか、こういう体型の子供も。少なくとも人外だとは思われないだろう。

 準備が整ったところで、日本へと渡る。


「うわあっしょ。モチルダから聞いてたけど、本当に別世界ですっしょ」


「僕もまだまだ現実感が無いもち」


 俺も逆に魔界に転生した時は、数日は「寝て起きたら、やっぱ夢なんじゃね」という気持ちは心のどこかにあったなあ。

 キョロキョロしてる2人を他所に、俺は駅前へと歩き出す。1つ、料理の心当たりがあるんだよな。


「ついて来い」


「はいもち」

「分かりましたっしょ」


 駅前のとある雑居ビルの1階、そこにオムライス専門店が入っている。気になってたけど、入れなかったんだよねえ。なにせ立て看板に『特盛1000グラムまでご用意できます!』という文言があるからね。デフォでも大盛気味らしいし、こんな機会でもなければ勇気が出なかったかも知れない。


 2人を引き連れ、店内へと入る。すぐに店員の青年が気付いて、テーブル席に案内してくれた。12時50分ということで、少し客入りも落ち着いている感じだ。ただその残りの客層だが……見事にオッサンオンリー。作業着姿の人も居るので、やはり爆盛系が人気なんだろうな。


「ここの食べ物なら、腹持ちが良いですもち?」


「うん、まあそうだな」


 腹が膨れる料理と聞いて、小麦粉が入ったカレー+カツのカツカレーか、バターライス+ソースのカロリー爆弾オムライスのどちらか迷ったけど。カレーは一応、リストから消えてるからね。そういう事情も少し加味させてもらった。

 まあオムライスでも十分、腹パンにしてくれること請け合いだろうしな。


「さてと」


 紙のメニューを開く。色んな味のオムライスに、トッピングの数々。爆盛メニューと銘打たれたコーナーもある。


「爆盛……なんだか惹かれる響きですっしょ」

 

 流石は大食い一族。真っ先にそこへ目が行くみたいだ。

 しかしまあ……普通盛でも300グラムのライスが使われてるらしい。俺、食いきれるかな。


「僕はこの黒いソースのヤツが良いですもち」


「あっしは白いヤツが良いですっしょ」


 モチルダの方がデミグラスで、クワレルンダの方がホワイトソースだな。どっちもソースが重たいけど、彼らなら余裕だろう。俺は明太マヨネーズにしとくか。


「すいませーん」


 店員を呼んで、それぞれメニューを伝える。


「サイズの方はどうされますか?」


 Sが300グラムで、Mが400。ここまでが無料で、Lの600グラムはプラス200円で出来るらしい。LLの800グラムが400円、メガの1000グラムは600円とのことだが……


「俺はSサイズで」


「僕はメガだもち」


「あっしもメガで」


「え……?」


 店員は耳を疑っている様子。まあそうだよな。俺ならともかく、小学生くらいの男の子2人がメガとか。


「あの……申し訳ありませんが、フードロス削減の観点から、Lサイズ以上をご注文のお客様は……」


「ああ、残すなということですよね。大丈夫ですよ、この2人は家でいつもそれくらい食べてますので」


 ということにしておく。実際、彼らはホームではもっと食ってるだろうから、ウソ言ってるワケでもないしな。


「残したら、お金払うのでも大丈夫ですよ」


「そ、そこまで言われるのでしたら……」


 半信半疑ながらも、店員はオーダーを取って下がって行った。

 そこから待つこと、15分ほど。俺たちのオムライスが一斉に運ばれてくる。遠目の段階でクソデカいのは分かったが、実際にテーブルの上に置かれると小山のようだった。


「うわあ、美味しそうもち」


「魔王様、ありがとうございますっしょ」


「ああ。いただこうか。食器は食うなよ?」


 念のため釘を刺してから。

 スプーンを手に取ると、黄色いオムレツの中央に固まっている明太子ペーストを軽く掬う。そうして、オムレツの端の方も削って……1口。


「ん~」


 トロトロの卵がまずは舌の上を踊り、次いでバターライスの粒立ち。ほんのり甘いタマネギ、キノコ。そしてマヨネーズの濃厚なコクに、明太子のピリ辛とプチプチ食感。

 美味いな。5年ぶりのオムライスは格別だった。


「コレは凄いもち!」


「美味いっしょ!」


 2人も大喜び……ていうか、もう半分くらい無いんだが。ヤベえな、マチルダの一族。

 さりげなく様子を窺っていた店員も、口をあんぐり開けたまま固まっている。まあ、そうなるよね。

 俺としても、シェアとか考えてたんだけど。早く言い出さないと消えてしまうな。


「2人のも少し食べても良いか?」


「ん? 良いですもち」


「魔王様のも少しいただきたいっしょ」


 というワケで1口ずつ交換。連中の1口の方がだいぶ大きかったのは……まあ言うまい。飯のことになると遠慮が消え去る一族なのは先刻承知だしな。


「じゃあ、ホワイトソースの方を」


 頬張る。

 これまた美味い。甘さとコクのあるベシャメルベースのシチューにも似たソース。そこにトロトロ卵が絡んで、ライスが沈む。バターの香りも少しだけ感じられた。


「「はぐっ! はぐっ!」」


 2人は俺があげた分もとっくに平らげ、自分の分の残りを食い散らかしていた。

 俺の方は、デミグラスもいただく。口に含んだ瞬間、濃厚な味わいが広がった。甘みの中に僅かな酸味と苦味が混じるコク深さ。そこに、これまた卵のトロトロが溶け合い調和する。美味い。甲乙つけがたい、というかどれも違った魅力があって素晴らしい。あらゆるソースにマッチしてしまうオムライスの懐の深さよ。


「無くなったもち」


「こっちもっしょ」


 2人は余裕で完食したみたいだ。


「……どうだ? クワレルンダ」


「確かにバター? なる物が重たいですっしょ。コレは腹に溜まるっしょ」


「でもきっと、もう少し量が必要ですもち」


 1キロ食ったんだけどなあ。それが何十倍にも効果が膨れ上がるという話なのに、まだ足りないのか。げに恐ろしきはマチルダの胃袋か。


「というワケで……おかわりをお願いしますっしょ」


「関係ないけど、僕も食べたいですもち」


「ああ、うん。もう好きにしてくれ」


 もはや俺の物差しで考えても仕方ない。彼らが「コレならマチルダを腹4~6分目に出来る」という判断が下せるまで、食わせ続けるしかない。


 ……結局、2人して1キロオムライスを3回食べていた。途中で厨房からコックも出てきて様子を見てたからな。最後には拍手まで貰ったし。

 あまり目立ちたくなかった俺は、愛想笑いで誤魔化しつつ会計。ソッコーで店を出たのだった。

 ……ちなみに。お会計は12200円になりました。地味に痛えよ。

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