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転生魔王の出戻り日本グルメ  作者: 生姜寧也


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36/45

35:親子丼

 ビジネス街の西寄り、時々利用させてもらってた例の自然公園。あの近くに花屋があったのを急に思い出したのが今朝のことで……昼を待って日本へと飛んだ。


「久しぶりにソロで来たなあ」


 ボソッと独り言ちる。今日は完全に自由に飯が選択できるな。まあ先に花屋に行ってみないとダメだけど。

 というワケで移動開始。自然公園の近くまで来た。


「確かこの辺に……ああ、あった」


 可愛らしい街のお花屋さん。まだこういう職種も生き残ってくれてるのが嬉しいよね。

 店内から少しはみ出した草花の鉢。店奥に続くタイル床の上にもズラッと鉢が並んでいるけど、狭いながら通路も確保されている。さながら花小路だな。

 比較的オーソドックスなレイアウトだとは思うけど、慣れない俺は枝葉にぶつからないよう歩くだけで、少し気を遣う。


「あ、いらっしゃいませ」


 カウンターの奥で作業していたらしき、女性店員が足音に気付いて出てきた。中々の美人だ。


「すいません、こちらバナナの苗木とかは取り扱ってないですか?」


 店頭には無くても、取り寄せてもらえるんじゃないかと。


「バナナですか? えーっと。ウチは花屋なので……」


 種苗を取り扱ってると言っても、やっぱ花オンリーなのかな。お門違いだったか。こういう分野にはとんと疎いので、もしかしたらアホすぎる質問だったかも。なんか「植物扱ってるならイケるでしょう」みたいな楽観があったわ。


「ああ、すいません。ありがとうございました」


 退散しようとすると、


「あ、ちょっと待ってください」


 呼び止められる。振り返ると、彼女は自分のスマホを操作していた。何か画像を見せてくれるようだ。近づいてみると、こちらに差し向けてくる。


「ウチの系列なんですけど、こっちは大きめの苗木もやってるんですよ」


 そこのSNSアカウントか。住所を見ると、ここから西、何度か訪れた高級住宅街の方だな。店名は『キツネグマ種苗(株)』とある。株式会社なのか植物の株なのか分かんねえ表記だな。まあ普通に前者だとは思うけど。


「こちらで在庫があれば。無くてもお取り寄せは出来ますので」


「分かりました。行ってみます」


 住所を瞬間記憶してから、俺は店を後に……


「お花はご興味ないですか? こっちも育てると凄く可愛いですよ?」


「え……っと」


「こちらの苗なんか育てやすいですし……」


 うわあ。この流れでセールストーク始めるか。

 まあ明らかに客が多い店じゃないし、来たヤツにはダメ元でも当たる方針なんだろうな。

 結局、3分くらい植物の紹介をしてもらったけど。テキトーに愛想笑いしていたら「脈ナシだな」と分かってくれたみたいで。ようやく解放され、退店できた。


「ふう。久しぶりだな、こういうのも」


 今までは、飲食店やスーパーだったからセールスみたいなの食らうことは無かったもんな。

 しかし時間を取られてしまった。全体で15分くらい過ぎてる。残り45分かつ移動もあるワケだから、悠長にはしていられないな。


「駅に向かうか、歩いて行くか」


 地図を開いて確認すると……まあ歩いた方が早そうだな。

 ということで8分ほど歩いて、目的地に到着。多分、初めてじゃなかったら5分くらいで行ける距離だったな。


「いらっしゃいませ!」


 今度の店員は店前で出迎えてくるレベルだった。さっきと同じくらい美人だけど……もしやコレはこの系列の方針か。


「あの~、こちらにバナナの苗木ってありますか?」


「あ、ございますよ。こちらですね」


 ササッと案内してくれる。店内にはややマッチョなイケメン男性店員も居た。客が女性だったら、あっちにスイッチするのでは? とか邪推しちゃうよね。


「バナナって、なんか特別な設備とか必要に思われがちなんですけど~」


 育てやすさについて解説しつつ、案内してくれる。セールストーク上手いなあ。

 と。着いたね。ポッド苗というヤツか。黒いフニャフニャのポッドの中に小さな木が植えられている。葉っぱが生えてて、幅広の笹のような形。既にバナナリーフの面影あるんだね。


「こちらが普通の物ですけど、屋内とかで育てられるなら、モンキーバナナ辺りがオススメですね」


 木があまり大きくならないんだそう。けど苗木自体が普通のより割高だ。客単価を上げにきてやがるのか。


「……ああ、いえ。屋外で育てるので」


「あ、そうなんですか?」


「知人が南の方の土地を相続しまして。折角だから何か育てるかと言っているモンですから……まあプレゼントとして」


 という設定を練ってから来たよね。


「ああ、そうなんですね~」


 あまり売れなさそうと判断したのか、声のトーンが下がる女性店員。

 ふと気配を感じて後ろを振り返ると、さっきの男性店員が空の植木鉢を持って近づいて来ていた。目が合うと、そそくさ退散していく。なるほど、俺が自宅栽培用だと言ったら、植え替え用の鉢も売りつけるつもりだったんだな。一糸乱れぬコンビネーション。この店、怖い。


「えっと。取り敢えず苗木だけで」


「はい」


 口数減ったなあ。

 その後も何とかセールストークの雨を抜け、目的の物だけを買うことに成功した。先に会計だけ済ませ、また取りに来るまで置いておいてもらうことに。


「ふう」


 なんか疲れた。

 お。さっきは気付かなかったけど、店の端の方では野菜とかも売ってるみたいだな。オーガニックを前面に押し出して……


「「……」」


 ヤベえ、見られてる。興味を持つ素振りを見せたら、食いつかれるな。

 俺は足早に店を後にした。Z世代は仕事に熱意を持たないとかいう言説は何だったのか。


「なんかもう……オッサンの飯屋。誰も干渉してこない所」


 何が食いたいとかじゃなくて、もうそういう店にしよう。

 ただここら辺はオシャレ街だし、また移動かなあ。なんて考えている途中で、炭火焼の良いニオイがした。


「ん」


 どこからだろう。ニオイに釣られるように歩き出し、路地を入って行く。と、すぐに見えてきた。オシャレな街並みから浮きまくってる、木造りの無骨な店構え。これまたボロい板看板に、『どんぶりバカ一代』という店名が彫られていた。店の壁には、色褪せた紙メニューも貼ってある。

 この見栄えフル無視の姿勢。そして13時過ぎてるのに5人の並び。これ絶対美味いヤツだ。

 驚異の男性率だし、回転も悪くないだろう。待ってみるか。まだ30分以上は余裕があるしな。


「ん~」


 待っている間も、肉の焼ける良い香りがずっと漂ってる。

 2人出てきた。バッシングも速いみたいで、すぐに2人呼ばれる。更に1人。また2人。どうも12時台のケツに入った客との入れ替わりタイミングだったみたいだな。これはツイてる。

 俺が列の先頭になったけど、後ろにも新たに何人か並んでるし、本当に人気店だな。


「ええっと」


 壁のメニューを改めて見る。どうも割烹出身の店主がイチオシしてるのは親子丼みたいだな。他にも他人丼とか、炭焼きカルビ丼とかもあるみたいだけど。まあ折角だから素直にイチオシを頼んでおこう。

 ガラスのドア窓から中を覗こうとして……ステッカーが貼られているのに気付いた。グルメサイトが選ぶトップ100のアワードを2回ほど受賞してるらしい。


「道理で」


 まあアレも名ばかりの店があったりするけど、ここは本物だろうなあ。バエ女子みたいなのがゼロで、この客入りだし。

 と。2人組の青年が出てくるようだ。大学生くらいかも。メッチャ笑顔だし、すれ違った時にも、


「バチクソ美味かったな」

「うん、今度みんなで来ようぜ」


 なんて会話が聞こえてきた。ますます期待に胸膨らむ。

 彼らと入れ替わりで、いよいよ俺の番が来た。黒い三角頭巾をした女性店員が案内してくれる。中へ入ると、更に強くなる肉の香り。

 カウンター席でキッチンを囲むコの字型。奥から2番目の席へ。


「何にしましょう?」


 女性店員が小さく微笑みながら訊ねてくる。ああ、良い距離感。無愛想じゃなく、押し付けがましくもなく。


「えっと親子丼の……並盛で」


「はい、並ですね。ただいまオープン10周年記念でコロッケ1個サービスしてますけど……おつけしても大丈夫ですか?」


「え? あ、はい。お願いします」


 これはラッキーだ。実はコロッケも食いたい物リストに入ってるからな。まさに一石二鳥。

 注文を通した後、女性店員も調理補助に入る。サービスのコロッケを揚げるようだ。店主と彼女、どちらも40代くらいに見えるし、もしかすると夫婦かもな。


 店主はが垂直に立った親子鍋の蓋を開け、カット済みの鶏肉やタマネギを入れる。俺の親子丼かな。他の網の上には牛肉(ハラミか?)も乗っているので、どうやら満遍なく出てるみたいだね。つまり料理自体が上手い店だ。


 隣の席のオッサンは、空気を多く含んだ掻き込み音を立てながら貪り食っている。調理場を挟んで斜め向かいの兄ちゃんは、カツ丼のカツを箸で持ち上げていた。トロトロ卵が絡んでいて、メッチャ美味そう。ああ、カツ丼も良いよなあ。


「親子、並」


「は~い」


 阿吽の呼吸という感じで、女性店員が丼を受け取る。そして自分で担当していたコロッケも小皿に乗せ、一緒に運んでくる。


「お待たせしました。親子丼の並と、コロッケです」


 彼女は俺のサーブを終えると、そのまま他の客の元へ会計しに行く。このサラッとしたサービスの仕方。あの花屋と苗木屋にも……まあ良いや。彼女らもまた、店のために頑張ってるんだしな。


「よし」


 じゃあ食うか。

 丼の上にはご飯が見えない程の卵の絨毯。中央には三つ葉と刻み海苔が陣取り、丼に彩りを与えている。角切りの鶏肉はゴロゴロと10はあるだろうか。

 早速、プラスチックスプーンを手に取って、トロトロ卵と鶏肉、ご飯を一度に掬う。口中へ。出汁の香りが立ち、卵は甘く蕩けるようで、肉は少し噛むだけでほどける柔らかさだ。ご飯も出汁を程良く吸っており、具に近い箇所は硬め炊きの粒立ち、底の方は雑炊のような食感を与えてくれる二層構造だ。


「ん~」


 美味い。メニューの説明によれば、鶏肉は徳島産、卵は大分産、米は新潟産。いずれも名の通ったブランドの物を使用してるらしいが……それも頷ける美味さだ。しかも白米は丼にたっぷり300グラムは入ってると思われる。この米高騰のご時世にありがたいことだよ。


 続いてサービスのコロッケをいただく。歯を立てた瞬間「シャクッ」と良い音が鳴り、その後にジャガイモのもったりとした甘さと、わずかに感じられる牛ミンチの旨味。口中の水分をガッツリ持って行かれるんだけど、美味いんだよなあ。

 サービスといえど、手抜きナシのクオリティだった。

 

 丼に戻る。三つ葉と海苔の乗った部分を掬って、一口。うん、これまた美味い。三つ葉のツンとした香気が駆け抜け、海苔は上アゴの裏側に貼り付いて旨味を主張。それらを出汁と鶏肉の旨味、卵の甘さが絡め取って混然一体となる。

 気付けば、さっき隣で食ってたサラリーマンと同じく「はぐ、あぐ」みたいな、空気を含んだ小さな鳴き声を出しながら貪ってた。

 

 そのまま丼もコロッケも完食。美味かった。出汁の旨味と肉の柔らかさが最後までヘタらなかったよね。流石のアワード店だ。


「ご馳走様」


「ありがとうございます」


 店主が小さく微笑んで、女性店員がタタタと駆け寄ってくる。


「1100円ですね」


「はい。ちょうど」


 千円札と100円玉を手渡す。


「「どうも、ありがとうございます」」


 外套を羽織って、外に出る。この時間でも、まだ1人待っていた。

 恐らく、ここはリピーターも多いんだろうな。俺も他の丼も試したいくらいだし。

 

 その後、また苗木屋に戻って苗だけ受け取る。

 ちなみに、こちらはノーゲスだった。やっぱあのグイグイ行く接客が嫌がられてるのではないかと。丼屋みたいな適度な距離感を身に着けたならリピーターも……まあ余計なお世話か。


「俺も他所の店のことを考えてる場合でもないしな」


 ダーケン村の件、色々と詰めないとな。

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