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転生魔王の出戻り日本グルメ  作者: 生姜寧也


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33:牛肉の赤ワイン煮

 徳山さんの事件から、数日が経っていた。ニュイもすっかり普段通りな感じで。協力してくれたメダマコウモリたちへの報酬も支払い済みだ。

 ということで、後顧の憂いなく日本へ旅立つ。ちなみに今回はサーシャも一緒だ。

 ゲートを抜け、いつものビジネス街へ。美味い飯屋を探しに行く前に……まずは先日の駅舎へと向かう。あの事件の噂がどれくらい広がっているか、サーシャに調べてもらうのだ。


「とはいえ、恐らく大したことにはなってないだろうけどね」


 傷害未遂でも挙がってないだろう事件となればね。駅での揉め事、特にラッシュ時なんかは割と見る光景でもある。俺も昔、電車内で殴り合いのケンカをしてるオッサン2人を見かけたことあるし。


 駅に着いて、結界魔法を発動。その中でサーシャにルーマーコンダクターを使ってもらった。

 しばし瞑目した後、ゆっくりとその両目が開かれる。


「ふむ。颯爽と女性を助けた3人組というのが、ネット? を少し賑わせているようですが……噂のレベルとしては小さいですね」


 うん、想定の範囲内に収まってるな。魔法を最低限にしたのが功を奏した。ニュイの動きは凄かったけど、一応「身体能力が非常に高い人間」ということで説明はつく。サーシャが放ったブラインドの魔法は、あのストーカーの視界以外には影響はゼロだしな。俺の拘束術も別に成人男性なら誰でも出来る程度の動きに抑えてあるし。


「しかし人間の世界も、ここまで発達すると逆に不便なこともあるのですね」


「かもなあ」


 あっちのナーロッパ土人社会なら、監視カメラも、SNSも無い。なので映像記録には残らないし、情報の伝達に関しても、範囲速度ともにショボいモンだ。つまり、もっと無茶をしても広まらない。


「ある意味、民衆の武器なのですわね。情報の伝達と拡散は」


「そうとも言えるね」


 あのストーカー男なんかはネット私刑に遭ってるだろうしな。


「とにかく、長居は無用だな」


 現場の真ん前なワケだし、ワンチャン俺たちに気付く人も居るかも知れない。まだ噂がホットな今だと特に。

 俺たちはそのまま移動する。いつものビジネス街の1つ西の街。例の高級住宅街だね。当然、良い感じの店も多い。


「こちらは来たことがありませんね」


 そうか。サーシャは連れて来たことなかったか。


「ゆったりしてるだろ?」


「はい。とはいえ、ワタクシの田舎からすれば大都会ですが」


 サーシャたちバンパイアは基本的に人間界に住んでいる。昔はそれこそ処女の生き血が大好物だったワケだからね。近年はフィアーで済ませるのが主流になってきたけど、伝統を守るためにも居城を離れたがらない傾向だ。


「サーシャは……魔界に住んでて良いのか? 親御さんは何も言わない?」


「はい。あの城には……痛みも苦しみもありませんから。生きている実感が湧かないのです」


 徒然に歩きながら、サーシャは宙を見た。


「母も父も、ワタクシを珠のように育ててくださいました。何不自由ない幼少期でしたわ」


「とても良いことのように思うけど」


「はい。ワタクシもとても感謝しております。ですが……退屈は長命種族にとって、遅効性の毒でもあるのです」


 それはまあ……俺も想像くらいはつくけどね。

 ていうか、俺自身もいつかブチ当たるヤツだろうし。


「それで活路を見出したのが、ドM道か」


「はい」


 はいじゃないが。

 しかしまあ。サーシャと生い立ちの話をするのは初めてだったな。


「他に好きなことは無かったのか?」


「そうですねえ……ワイン造りも好きでしたね」


「へえ、意外」


「農園くらいしか近くにありませんもの」


 本当に超田舎みたいだな。

 ……いつか行ってみようかね。それこそ俺も数千年レベルで生きるみたいだし、仲の良い連中の故郷を回ってみるのも悪くないかも。


「あ。あの店、良さそうですね」


 洋風建築の一軒家。白レンガに青と黄のツートンカラーをしたオシャレな日除けテントが張り出した外装。黒いシックなテーブルと椅子が外にも出ていて……カフェか? はたまたイタリアンか?


「あ、赤ワイン煮とありますね」


 立て看板を見ると、確かに『牛肉の赤ワイン煮(ブフ・ブルギニョン)』とある。なんかサーシャの方がピンときてるみたいだから、ここにするか。ちょっと1人だと身構えてしまうのがフレンチだけど、今日は仲間が居るからね。全幅の信頼は置けないヤツだけど。


「入ってみるか」


「良いんですか?」


「ああ。フランス料理も食いたい物リストに入ってるからね」


 すげえ漠然と「フランス料理」とだけ書いてあるんだよな。なんせ、あんまり知らないからさ。オシャレで良さげな食い物なら、十中八九、満足できると思われる。


 というワケで入店。ワイルドなヒゲを生やした男性が出迎えてくれた。うわ、店員もオシャレだな。


「予約ないんですけど、2人いけますか?」


「あ、大丈夫ですよ~」


 風貌とは裏腹に、ちょっと緩い感じだな。若い人が雰囲気だけでやってる、味の伴わない店……という危惧も生まれるけど。まあ今更、出るワケにもいかないな。

 彼に案内されるまま、テーブル席へ着く。店内は、まさかのノーゲスだったよね。カウンター4席に、テーブル3席はピカピカで、少し前に使われた形跡すらも無い。時計を見ると12時23分。ランチタイム半ばで、本日初(推定)の客が俺たちっぽいな。やらかしたか、これは。


「ふうむ。ランチコースというのもあるのですね」


 1人3300円からか。店自体ハズレの可能性があるし、そこまで値が張るのはリスク大きいな。

 俺もラミネートのメニューを覗き込む。メイン+サラダ&バゲットのランチがある。うん、こっちだな。日替わりメインの下に手書きで『牛肉の赤ワイン煮(ブフ・ブルギニョン)』と記されているので、サーシャのリクエストにも応えられる。


「ええっと、値段は……」


 それでも1600円か。良い値段取るなあ。コレなら前菜とデザート、ドリンクもつくコースにしても……いやいや。やっぱノーゲスの店でコースは危ないって。


「どうしました?」


「ああ、いや。これにしようか」


 割高にも感じるけど、結局1600円の日替わりセットにする。

 店員を呼ぶと、先程の彼が来た。ワンオペみたいだな。ということは、調理も彼だ。


 注文を通し、少し待つ。まずは盛り付けるだけのサラダがやって来た。


「サラダで~す」

 

 やっぱり緩い感じのサーブ。期待せずに皿を見ると……あれ? なんか良い感じだ。黒いオシャレな深皿の中、真ん中には葉物野菜が敷かれ、その上にクラッシュナッツ。まとめてオレンジ色のソースが掛かっている。葉物野菜の周りには、花びらのように巻かれた生ハムがピンク色に彩り、カットトマトの赤も添えられて。

 凄く鮮やかな一皿だ。


「キレイなお料理ですね」


「あ、ああ」


 これは……よもやの大逆転? 緩~いお兄さん、料理上手いのでは?

 いや、まだ分からんか。食ってみての話だ。

 というワケで、早速いただこうと、カトラリーの中を漁る。フォークとナイフと箸。ここは失礼して箸をチョイスさせてもらおう。割り箸を割って、サラダ菜とクラッシュナッツを同時にいただいた。

 コリッとした食感と、サラダ菜のシナッとした舌触りのコントラスト。そこにオレンジ色のソースの味が……これは見た目通りオレンジを使ったソースか。酸味と甘み、柑橘の香りも生きている。美味いぞ、これ。


「ん~。フルーティーですね」


 サーシャも悪くないみたいだ。

 続いて生ハムに手を出す。キレイな形で盛り付けられているので、崩すのが少し勿体ないが。

 

「……」


 1枚取って味わう。うん、これも丁度いい塩加減だ。そうだ、コレで葉物野菜を巻いて食べたら……ああ、完璧だ。野菜の瑞々しさがハムの塩気と混ざり合い、そこにオレンジソースの酸味と甘みが加わる。良い調和だ。


「コレは……完成されていますね」


「ああ。正直……」


 ハズレの店だと思ってけど。全然戦えるな。

 と。メインがあがったみたいで、お兄さんが両手に皿を持ってやってくる。


「美味しいですよ、このサラダ」


 サーシャが褒める。


「はあ」


 いや、はあじゃないが。

 お兄さんは、それ以上は何も言わずメインの料理とバゲットをテーブルに置いて去って行った。


「どこか緩いというか、ヤル気の無い人間ですね」


 まあそう映るよな。彼の内心が実際どうなのかは分からないけど。

 

「食べよう」


 フォークとナイフを手に取って、皿の上を見る。濃い黒色のソースが掛かった塊肉と、マッシュポテト(ピューレというのか)の白がコントラストを成していた。フランス料理は色彩がキレイだよね。


 肉にナイフを当てる。スッと刃が入り、一口大に切れた。メッチャ煮込んであるみたいで、相当柔らかい。サーシャも同じようにして、フォークで1口分を刺した。2人揃って、口の中へ放り込むと。


 ――ほろっ


 噛んだだけで解けるような食感。そこから肉の旨味と赤ワインの僅かな苦味酸味、甘さが口一杯に広がる。美味しいな。見た目的にビーフシチューのような味を想像してたけど。デミグラスがベースでありながらも、赤ワインの主張が思ったより強い。けどそれがデミとケンカしてなくて、むしろ高め合ってる感じだ。


「う~ん、このソース、絶品ですね」


「だな」 


 ジャガイモのピューレもフォークに上手いこと乗せて、ソースを絡めていただく。こっちも良い。ピューレはクリーミーで、もったり濃厚。ソースを吸ってワインのコクと味わいも加わっている。付け合わせの域を越えた美味さだ。


「バゲットにつけて……」


 表面をカリカリに焼かれた薄切りのフランスパンをソースに浸して食べる。

 合うに決まってるよな。ああ、俺の好きな「ちょっと浸ったクルトン」みがある。そしてソースは間違いないワケだから……優勝だよね。


「うん、美味しいですね。ワインをこれほど上手くソースにして、それを存分に味わわせる食材たち」


 肉も、ピューレもパンも。やっぱり起点にして主役はソースなんだよな。

 しかし……あっという間にバゲットが無くなってしまったな。


「すいません。バゲットのおかわりって出来ますか?」


「はい。おかわり自由なんで〜」


 あ、そうなんだ。


「どこにも書いてない気がしますけど……」


「書いてないので〜」


 ええ……?


「アナタ、折角のサービスなら大々的にアピールして、客を呼び込んではどうですか?」

 

 サーシャ、意外にお節介焼くな。


「あんまりアピールすると、アホみたいに頼む人とか居るんで〜」


 それを客に言っちゃうかあ。

 俺が絶句してる間に、青年はバゲットを用意して、持ってきてくれる。ちょっとアレなことを言ってしまったという自覚も無さそうな。

 あんなん言われたら、俺たちも「この1回だけにしとこう」ってなっちゃうんだけどな。


 少し微妙な気分になりながらも、料理は普通に美味しいので、大満足で平らげた。

 支払いをして、店を出る。この間もノーゲスだった。


「美味しかったですね」


「うん、美味かった。けどサーシャ、いつになく人間に干渉したな?」


「ワタクシ、ああいうタイプが一番もどかしいんです」


 やっぱり珍しく、感情的だ。


「能力は高いのに、他の面に大きな問題があって、人がついてこない。自覚すべきですわ」


「…………」


 自己紹介かな? 

 まあ人間に限らず、魔族もまた自己の客観視って難しいのかもな。


「ところで。ワタクシも煮込まれたら、肉がボロボロになるんでしょうか……!?」


 発想がイカれてる分、店主の彼よりオマエの方がヤバいからな?

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