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転生魔王の出戻り日本グルメ  作者: 生姜寧也


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26:アヒージョ

 メンローチ改・ナポリタンアーム&内臓エネルギー搭載バージョンが完成した。長いので、以下は単純に『メンローチ改』と呼ぶ。

 早速、明日から件の初級ダンジョンへと配置することになった。中にはたっぷりと冷凍フィアーも入ってるし、計算では500時間稼働できるとのこと。俺は科学者じゃないから詳しくないけど、それでも従来のキメラより遥かに燃費が良いのは分かる。


 ゲートを使って『ファストルア初級ダンジョン』へ運び込む。フロアボスの階に置くと、軽く起動してみた。ノシノシと歩き出す。モロは満足げに頷いているが……この動きで人間の冒険者を捉えられるだろうか。

 俺の不安を感じ取ったのか、ドクターは小さく笑う。


「メンローチ改よ。ナポリタンアーム起動じゃ」


 彼の言葉を受けて、メンローチが両腕を前に突き出す。キョンシーみたいなポーズだけど……その腕には小さな穴が沢山開いていた。そこから一斉に麺が飛び出していく。これらはモチルダの肉で作られた物なので、当然ドレイン能力があり、


「っ!」


 実験用に連れて来た魔界ネズミを捉えると、即座に熱を奪っていった。通常、魔界ネズミはバフを掛けたCランク冒険者より速いとされているので、初級のダンジョンに潜ってくるような連中なら避けようもないだろう。


「ナポリタンアームすげえな」


「冒険者が来ない時は、省エネモードで岩のように動かないのじゃ」


 ああ、それなら待ち時間にエネルギー切れになることもないのか。よく考えられてる。

 言ってる間にも、メンローチ改は動きを止めていた。


「省エネに入って良いぞ」


 モロが命令すると、そのままフロアの床に座り込んでしまう。そして赤く光っていた目から急速に色が失われ……本当に物言わぬ岩塊になってしまった。


「なんか呆気ないほど簡単に、良質なキメラが出来上がったな」


「そうじゃのう。日本のおかげじゃ」


 まあその日本のアイテム類をキメラ合成のアイデアに昇華できるモロの手腕も流石の一言だけどな。


「遅れてフィアーの援助も届くと思うから、当面のランニングコストは賄えるよ」


「おお、例のダークアトラの王じゃな。アレも日本の虜とか聞くが」


「まあ、そうみたいだね」


 虜っていうか、礼賛の域だけどな。


「ノエインも、少し心動いていたようじゃし……アイツもまた連れて行ってやってくれんかのう?」


「うん、まあ彼女だけなら良いよ」


「…………その、アイツは生殖行為用の仕様ではないゆえ、無茶はせんでくれよ」


「ちげえよ! ノエインだけなら無害だから抵抗無く連れて行けるって話だ!」


 ザコーイといい、俺が自発的に2人きりのシチュエーションに持ち込む=体目的みたいに思われるのは何なんだ。そんなにスケベな言動をした覚えはないぞ。


「ふうむ。つまりワシは有害ということかのう?」


 なんで心底不思議そうに出来るのか、割と意味が分からないが。まあでも、例の尾さえ対処すれば……いや、どうだろう。別件でやらかしそうな気もするな。


「まあ今回の件には感謝してるし、迷惑こうむった分より助かった方が大きいけどな」


 一応、フォローしておく。

 猥褻物陳列の対応は大変だったけど、メンローチ改を見れば、その代価としてはおつりが来るレベルかなと。特にフィアー内臓のアイデアは、他のキメラにも転用できそうだしな。


「まあ元より今回はワシはパスするつもりじゃったしのう。ノエインを連れて行ってやってくれ」


「そうなのか?」


「まあまあ眠たいからのう」


 この様子だと、あのコンビニに行った日から連続完徹っぽいな。こんな爺さんでも、人間の常識からは逸脱した体力を持ってるのが魔族だ。


「次の機会までに、ガランドに向こうでの作法を聞いておくわい。自分のスタイルを変えるのは好きではないが……日本は美味い飯もインスピレーションもくれるからのう。背に腹は代えられんわ」


 やはり合理的だな。自分のポリシーを曲げる不愉快を補って余りあるメリットと判断したワケだな。


「そういうことなら分かった。今日のところは、ノエインを連れて行ってみるよ」


「色々と会話してみてくれ。ワシ以外の者と触れ合う機会が増えれば……何か変化もあるやも知れん」


「……」


 やっぱり、モロにとってノエインは……特別な存在なのだろうか。

 顔に出てしまっていたのか、モロは1つ溜息をついて、


「アレは娘じゃよ。生後20年くらいで死んでしまった娘の体を元に作り上げたキメラが……ノエインじゃ」


 サラッと、本当にフラットな口調で言った。

 いくつか予想していたうちの1つではあったが……


「すまん。詮索するつもりは無かったんだ」


 とはいえ、正直ちょっと聞いてみようかなと迷ってたのも事実。それを先回りして察してくれただけだな。


「いや、やっぱり少し気になってた。悪い」


「ふっ。お主は正直じゃのう。まあでも、キメラを淡々と製造しておるジジイが、1体だけ妙に執心しておれば気になるのは道理じゃて」


 そう言ってくれると助かる。


「……ではラボに戻るか」


「ああ」


 モロも、深いところまで話す気はないようなので、俺も従った。まあこれ以上は好奇心で首を突っ込んで良い領域じゃないしな。


 ラボに戻ると、モロはすぐに自室へ引っ込んでしまった。2秒と経たずクソデカいびきが聞こえてきたので、爆速で寝たんだろう。

 部屋へ入る前に、ノエインには「後のことは万事、魔王に従うように」と言い付けていたので……ここからは彼女の引率は俺ということになる。


「よろしくお願いします」


「うん、じゃあ行こうか」


 ゲートを開き、今度は魔王城の私室へ。そしてそのまま、日本へと旅立った。

 親の顔より見たビジネス街。まあ俺は孤児だから、そもそも親の顔なんて知らないんだけどね。


「今日は人が少ないな」


「はい」


「……そうか。また土日か」


 休日のビジネス街ってヤツだ。

 こうなると……南へ行くか、西の高級住宅街に行くかの2択だな。

 そうだなあ。色々と会話してやってくれと言われてるし、ここはノエインに聞いてみるか。


「人間が少ない方と、多い方、どっちが良い?」


「……ええと。街の話でしょうか」


「うん、そう。南は人が多くて、西は少ない」


 魔王陛下の仰せのままにパターンを封じるために、先んじて。


「ノエインが決めてくれ」


 釘を刺しておく。すると彼女は開きかけていた口を閉じた。まさしく「魔王様のお好きな方で」と言おうとしてたんだろうな。


「……そうですね」


 考え込んでいる。やはりまだ自発的な意見は難しいか。と思われたが。


「それでは西でお願いいたします。普段も静かな場所で暮らしていますので、そちらの方が精神の負担も少ないかと」


 お。意外と普通に意見を言ってくれたな。どこかモロの思考のトレースみたいな感じはあるけど……まあ子が親に似るのは別段珍しいことでもないからな。コレだけで「機械的」というラベリングで接さない方が良いだろう。


「んじゃあ、西に行こうか。電車に乗るよ」


 あの小洒落た住宅街なら、土日にやってる店も多いだろうし、なんらか見つかるでしょ。

 というワケで電車移動。ノエインは電車に乗せてもクールだったけど、あちこちに目が行っていたので、やっぱり完全な無関心ではないみたいだった。


 数分揺られて到着。大福の時も思ったけど、やっぱ街並みがゆったりしてるね。住みやすい街としても有名らしいけど、分かるわ。


「ところで、どんな物を食べたいとかある?」


「私にはデータがありません」


「まあそうなんだけどね」


 魔族はみんなそうだ。で、いつも割と困るんだよね。

 と思った矢先、ノエインは続けて、


「ですが、1つ曖昧な願望を言ってもよろしいでしょうか?」


「ああ、うん。何かあるのか」


「油を……私は機械の構造も持っていますので」


「ああ……」


 今は擬人魔法を使ってるが、本来の体はカラクリ人形みたいな感じなんだよな、そういえば。

 ……となると食べたい物というより、防錆の潤滑スプレーみたいなモンか。食用油でもイケるかは未知数だが。


「魔族は食べ物からの栄養吸収が優れてるみたいだから、実際良い選択になるかも知れないな」


 そういう実用的な動機からでも、何か好きな物が見つかるかも知れないし。とにかく希望があるのは良いことだ。


「私は魔族なのかキメラなのか、人形なのかイマイチ分かりませんが」


「ああ、まあ……」


 彼女をどう分類して良いのかは俺も分からんわ。ただまあ、食ってみよう。効果が無くたって、美味しい物を食えば嬉しいからね。


「油分の多い食べ物なあ……」


 リストにはカキのオイル漬けがあったハズ。俺、アレ好きなんだよね。缶を買って帰るのもアリかな。となると、移動した意味があんまり無いけど。


「ええっと」


 駅前だし、高級スーパーの1つや2つ……


「ん?」


 ふと目についたのが、真っ黒な店構え。立て看板も黒板で、見れば『オイスターバー』とある。少し近付いて黒板の文字を更に詳細に見ると、『カキのアヒージョ』や『生カキ』などの文字が並ぶ。


「アヒージョか、なるほど」


 アレもオリーブオイルたっぷりだし、オイル漬けと似た味がする。というか、ほぼ同じ料理か。


「ノエイン、ここ入ってみよう」


「はい」


 というワケで入店。外からは一切中が見えないタイプで、扉を開けると真っ白な内装に出迎えられた。外装と真逆にしてあるらしい。真っ白い円卓カウンターの中にイケオジが1人。マスターかな。

 と。ウェイトレスが早歩きでやって来た。


「いらっしゃいませ。2名様ですか?」


「はい」


「ご予約は?」


「あ、してないんですけど……」


「それでしたら、カウンター席になってしまうんですけど」


「はい、大丈夫です」


 テーブルは予約で一杯ということか。チラリと見ると、見事にカップルばかりだった。うわあ……良かった。ノエインと一緒で。

 そして逆にカウンターの方は、ソロの女性が数人。あ、たった今1人立ち上がった。料理2品とワイングラスのみ。なるほど、昼のちょい呑みって感じか。俺たちもアレで良いな。

 

 早速、カウンターの空いている席に隣同士で腰掛ける。露骨なハイチェアーで座り心地が悪い。長居させない戦法か。

 カキのアヒージョを2つ、バゲットも2人分オーダー。ワインのペアリングはイケオジに任せた。


 ちょっと深めのスキレットが2つ用意され、オリーブオイルがたっぷり投入される。アレが我々のオーダーだろう。

 先にワインが到着。ちょい辛口の赤だそう。口はつけずに料理を待つ。数分後、完成したアヒージョがカウンター越しに提供された。

 鍋敷の上にスキレットごとコトンと置かれたそれは、たちまちニンニクの香りを漂わせる。


「うん、美味そうだ」


 カトラリーの中に手を突っ込む。フォークとスプーン以外に、割り箸も発見。こういうオシャレ店では用意してないこともあるけど、ここはそうじゃないみたいだ。


 ――パキン


 ありがたく使わせてもらう。ノエインも俺に倣って箸使用だ。

 さて。改めて料理を見ると……大粒のカキが5個と、しめじが少し。流石はオイスターバーと名乗るだけあって、カキがデカいし美味そう。


 早速1つ摘まんで口の中へ。

 プリンプリンの身が舌の上を踊る。オリーブオイルとニンニクの風味が後から追いかけてきた。噛んでみると、濃厚なカキのエキスが口一杯に広がる。わずかな苦味も感じるけど、それを押し流すクリーミーさ。ああ、カキ食ってるなあ。


「ノエインも食べてみな」


 俺の許可なんて取らないでも食べて良いんだが。まあ今は置いておこう。

 ノエインは言われた通り、カキを1粒口に含む。軽く咀嚼すると、そっと目を閉じた。おお、味わってる味わってる。


「美味い?」


「はい。プリプリの身が……オイルソースに絡んで、とても美味しいです」


 良かった。

 しめじもいただく。こっちもツルツルの傘と、その裏側はジョリジョリとした食感。わずかに新木のような清涼感のある香りが鼻を抜け、やはりその後を追ってくるオイルとニンニクの香味に上書きされた。


「……」


 ワインで流し込む。ちょい辛口ということだけど、アヒージョの塩辛さとはまた違った味わいだな。コクがあり、喉が温まるような飲み口だ。


「こちらも美味しいです。ワインとはこれほど美味しい物なのですね」


 お。自発的に感想を言ってくれた。もしかするとアルコールが舌を滑らかにしたのか。


 俺たちはその後、バゲットをオイルソースに浸したり、カキを乗せたりと、たっぷり堪能してから食事を終えた。

 サクッと会計をして店を出る。


「美味しかったね」


「はい」


 と。ノエインの頬が小さく緩んだ。これもアルコールのせいか、はたまた本当に掛け値なしに美味しかったからか。

 ただすぐにまた能面に戻ってしまった。うーん。表情筋(あるのか知らないけど)のイタズラだった……とは思いたくない。いずれにせよ、モロに報告しておこう。

 

「さあ、帰ろうか」


「はい」


 結界魔法を掛け、ゲートを開いて魔界へと戻った。

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